第4話 ゲームのままじゃない (1)
「お前か……なるほど。とても森の向こうを出歩けるようには見えんが、エリンが言うなら嘘じゃあるまい。ワライヤマイヌを倒したそうだが、間違いないんだな?」
「……ああ。一匹だったからとりあえずは何とかなった」
「ふーむ」
ガストンと呼ばれた大男は、俺を品定めするようにじろじろと眺めまわすとフッとため息をついた。
「一つ訊くが、お前……レヴァリングで暮らすつもりか? ここは見ての通りあんまりゆとりが無くてな、もしねぐらが欲しいというなら、俺たちに協力してもらわなきゃならん」
言葉は荒っぽいが、言っていることは正当だなと感じた。犬一匹の肉を分け合って、病人に廻せと気遣うような集団だ。統制を乱す異分子も、突出した力を持った外来者も、許容しづらいのに違いない。
それでなお協力を求めてくるということは――
「何か困りごとがあるみたいだな。俺がどれだけ助けになれるかは分からないが、まずは事情を聞かせてくれないか」
「思ったより話せるじゃないか――デジレ団長、ガラティン鉱山の件、俺がこいつと一緒に行こうと思うんですが、構いませんね?」
ガストンの口から出た地名を聞いて、俺は懐かしい機分にとらわれた。そこはかつて、サクソニア・オンラインのゲーム中では石炭鉱山としてドワーフ族の管理下にあり、レヴァリングの鍛冶屋たちにとって欠かせない取引き先だった場所だ。
「大体そんなことだろうと思った、ガストン。だがそのリョース氏は随分と軽装のようだ。何か余っている武具があるなら装備させてやった方がいいな」
まるで俺の姿が見えているかのように、デジレがガストンを諭した。俺のかすかな身じろぎに、それらしい防具の擦れ合う音が無いのを聞き取っているのだろう。
「お言葉ですが、武具の余りがあるくらいなら無理にガラティンまで行きやしません……もう長い事、俺の鍛冶場は火が消えたままで、金物の補修もままならないんです」
「そうか……」
「そこらの廃材じゃ、鉄を沸かすには火勢が足りませんからね」
なるほど。キャンプの防備を固めたり、脅威を排除したりするために鉄の武器防具が必要だが、石炭の供給が回復しないとままならない、というわけか。
ゲーム内でのその辺りの地形を思い出す。確か森の中を通る街道に途中で分岐点があって、そこから西へ向かうと山の麓に鉱山の集落があるといった具合だった。
そこへ向かうことは可能だが、確かに今着ている皮のベストと短剣一本では途中で出るモンスターへの対処が難しい。毒性の体液をまとった「オイルビートル」や、やたらと頑丈な切り株お化け「ホロウ・スタンプ」に悩まされた記憶がよみがえった。
「よし、分かった」
デジレが不意に明るい声で言った。
「もしかすると、打開策があるかもしれん……このリョース氏だが、昔このレヴァリングに家があったらしくてな。仕立屋横町の界隈らしいのだが……それが本当なら、あの箱をなんとかできるかも……」
「箱?」
気になる単語が耳に飛び込んできて、俺はちょっと声を裏返らせた。まさか――
「少し前に、燃料にする廃材を求めて、仕立屋横丁の瓦礫を少し片づけたことがあったのだが……その時にな。ガストンたちが一抱えほどの大きな
それを聞いて俺は確信した。間違いない――それは、サクソニアオンラインのプレイヤーが10レベル以上になるとアクセスできる「自宅」の中で、私物を入れるのに使っていた「
「……心当たりがある。そいつを見せてくれ。開けられるかもしれんし、もし中身が俺の記憶通りなら――」
おぼろげになりかけた記憶をさらえて、めぼしい収蔵物を頭の中にリストアップする。
キャラクター作成後すぐに貰って、結局余らせたものの処分しそびれた初期ポーション類。
強化が上手くいかず次のチャンスを待つうちに、上位互換品が手に入ってしまった武具のあれこれ。
数が半端にしか集まらなかったクラフト素材や、イベントで配布された妙に収集欲をそそる「お菓子」の山――
あれが取り戻せれば、俺自身もここで生き延びやすくなるし、ここの住人達にもかなりの恩恵になるはずだが、さて?
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