カフェモカ、プリン

 しばらくすると、ドアについてるベルがカランコロンと鳴った。誰かが入ってきたみたいだ。


「いらっしゃいませ」


 パパの声が聞こえた。わたしもドアのほうを見る。

 入ってきたのは、男の人だった。

 プリンみたいな色の髪に、メガネをかけてた。ちょっと変わった格好だけど、おしゃれだなって思った。


「マスター、こんちわ!」


「こんにちは、青山あおやま君」


 パパとあいさつを交わしてから、その人はわたしのほうを見た。


「おっと、君は初めて見る子だねぇ」


「はい!わたし、萌香もかといいます!」


 元気よくあいさつすると、お兄さんはニッコリと笑いかけてくれた。


「萌香ちゃんか!元気があっていいねぇ」


「えへへ」


 ほめられたのがうれしくて、わたしも笑顔で返した。


「マスター、いつもの頼むぜ」


「かしこまりました」


 パパは笑顔で答えると、奥に入っていった。

 このお兄さんも『いつもの』って言ったから、じょうれんさんかな?

 わたしがじっと見てたからか、お兄さんはとなりのイスに座った。そして話しかけてくる。


「萌香ちゃんは、小学生?」


「はいっ」


「そうか。宿題はもう終わってるのかな?」


「うん!バッチリだよ!」


 胸をはって答えると、お兄さんは感心したようにうなずいた。


「それはすごい。勉強熱心だなぁ……。オレは大学生なんだけど、レポートで忙しくてさぁ……」


 ため息をつきながら言う。『レポート』が何だかはわからないけど、大変なことなんだろうなぁ……。


「う~……。萌香ちゃん、手伝ってくれないかなぁ?」


「えぇっ!?」


 いきなり言われて、びっくりしちゃった。でも、わたしにできるかなぁ……?


「小学生相手に、何言ってるんですか……。はい、いつものカフェモカです」


 パパがあきれた顔をしながら、お兄さんの前にカップを置いた。


「だってさぁ、マスター。こうでもしないと、やる気でないんだもん」


 お兄さんは口をとがらせながら言う。その顔は、同じクラスの男の子がするみたいだった。ちょっとおもしろい。


「ダメですよ。学生の本分は勉学ですからね」


「わかってるよぉ。あ~あ、マスターが家庭教師だったらなぁ」


「はいはい」


 パパは笑いながら答えて、カウンターの奥に入っていった。

 わたしは、お兄さんのカップをじーっと見た。『カフェモカ』は、ふわふわの生クリームが入ってて、あまーいにおいがする。それに、とってもかわいいから、わたしは好きだった。わたしの名前も『モカ』だしね!


 でも、お兄さんはスプーンでかき混ぜちゃったから、生クリームはコーヒーのなかに溶けちゃった。残念だなぁ。

 わたしがそんなことを考えてるうちに、パパが戻ってきた。手には、白いお皿を持っている。その上には、プリンが乗せられていた。


「萌香、おやつだぞ」


「やったぁ!」


 パパは目の前に置いてくれた。わたしの大好物だ!


「ありがとう!」


 お礼を言うと、パパは笑顔で頭をなでてくれた。


「ゆっくり食べろよ」


「うん!」


 わたしはスプーンですくって、一口食べた。……甘くておいしい。しあわせだぁ。

 お店で売ってる、ぷるぷるのプリンもおいしいけど、わたしはパパのつくるちょっとかたいプリンが大好きだった。たまごの優しい味がして、やさしい気持ちになれる気がするんだよね。


「……マスター、オレにもプリンちょうだい!」


 もう一口食べようとしたとき、となりにいるお兄さんが言った。


「いいですよ」


 パパは笑って、お兄さんにプリンを渡した。


「へへ……。萌香ちゃんがおいしそうに食べてるから、つられちゃったよ」


 お兄さんはうれしそうに言うと、スプーンを使って口に運んだ。


「うん、うまい!」


「それはよかったです」


「ああ。ありがとね、マスター」


 お兄さんはお礼を言いながら、残りのプリンを食べ始めた。

 わたしも食べよっと。……んん~っ、 やっぱりパパのプリンはおいしいなぁ!

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