最終話『そして未来へと……』


 「ただいまぁ」


 咲耶ちゃんに昔の話をしているうちに、気がつけば夕方を過ぎて夜になっていた。


「って、まだ千智いたのか……大丈夫なのか?」


 蒼介くんは私がいることに驚いていた。


「大丈夫だよ〜、遅くなるってお父さんには伝えてあるから〜」

「まあ、それならいいんだけどさ……」


 そう言いながら蒼介くんはキッチンの前に立とうとしてた。


「あ、蒼介くん……」


 それを止めるように咲耶ちゃんが彼に声をかけていた。


「どうしたんだ、さく……じゃなくて美琴」

「今日ね、ご飯作ってみたんだけどさ」


 咲耶ちゃんはそう言って電子レンジの中にあるお皿を取るとテーブルの上に置いた。


「……え?」


 蒼介くんは咲耶ちゃんが置いたお皿の上にある食べ物を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

 ……咲耶ちゃんが作ったのは手作りハンバーグ。

 しっかり挽肉を混ぜ合わせてなかったのか焼いている途中で崩れてしまっていた。


 味付けはしっかりしているので、普通に食べることは思うけど。

 現に私もさっき食べたし。


「ほ、ほら……形はあれだけど、味は問題ないよ! さっき千智さんと一緒に食べたし!」


 咲耶ちゃんは慌てながらも私へと視線を送ってきたので、合わせるように頷くと、蒼介くんに声をかける。

 

「美琴さんは蒼介くんのために一生懸命作ったんだから、その思いにはちゃんと応えないとダメだよ〜」


 私が話すと、蒼介くんはため息をついていた。

 ……そのため息つく癖はホント、耕史さんに似たんだなと思っていた。

 

「……わかったよ」


 蒼介くんは箸を持つと、恐る恐るハンバーグを箸で切っていく。

 中から肉汁が出てきていたが、それに気づくことなく、切ったハンバーグを口に運んでいくとゆっくり噛んでいく。


「……あれ?」


 さっきまで恐怖に怯えるような顔をしていた蒼介くんだったが、ハンバーグを飲み込んだ瞬間一気に明るくなっていた。


「……美味い!」


 そう言った蒼介くんは再び、ハンバーグに箸をつけていく。

 その様子を見ていた咲耶ちゃんは安心したのか、安堵の息をついていた。



 よほど味が気に入ったのか、蒼介くんはあっという間にハンバーグを食べ終わってしまった。


「美味しかったよ、美琴」


 蒼介くんの言葉を聞いて咲耶ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。



「ねぇ、蒼介くん」

 

 蒼介くんは使った食器を洗っているとその後ろから咲耶ちゃんが声をかけていた。

 

「どうした?」

「まだお腹空いてる?」

「まあ、少しなら食べれるけど」

「それじゃ、デザート用意しとくね」


 ……あれ?デザート何て用意していたかな?

 もしかしたら買い出しの時にこっそりと買っていたのかもしれない。


「食器洗ったら食べるから置いといてくれ」

「わかったよ〜」


 咲耶ちゃんは元気よく返事をするとそのまま椅子に座っていった。


 食器を洗い終わり、蛇口をしめた蒼介くんは言われた通り、椅子に座る。


「あれ……デザートは?」


 不思議そうな顔で蒼介くんは目の前に座る咲耶ちゃんを見ていた。


「ほら、目の前にあるでしょ?」


 咲耶ちゃんは自分を指さしていた。

 何かに気づいた蒼介くんは盛大にため息をついていた。

 

「……あえて聞くが、デザートはなんだ?」

「そりゃもちろん、私にきまってるでしょ?」


 咲耶ちゃんの言葉に蒼介くんだけではなく、私までもがため息が出てしまっていた。


 

「あ、蒼介くん〜」

「どうした?」


 蒼介くんは彼に抱きつこうとする咲耶ちゃんの頭を上から押さえつけながら私の方を向く。


「そういえばおじさんはまだお仕事?」

「たしか、今日は久々の休みとか言ってたな、たぶん部屋に籠って溜まった本でもみているんじゃないか?」

「そうなんだ〜」


 耕史さん相変わらず、休みの日に籠っているんだ。


「美琴さんの手伝いながら、これ作ったから渡してもらっていいかな〜?」


 私はアルミ製の二段式のお弁当を蒼介くんに手渡した。


「あれ……この弁当箱親父のか?」

「うん〜、美琴さんに断って棚を開けさせてもらったの〜」


 っていうのはもちろん嘘で、最後にしまっていたところを私が覚えていたからである。

 ……最後に使ったのはいつなんだろうか。


「そっか、ちょっと親父の部屋に持っていくわ」


 蒼介くんは咲耶ちゃんを抑えていた手を話すと、そのまま台所を出ていってしまった。


「……ねぇ、ママ?」

「どうしたの?」


 悔しそうな顔をしながら咲耶ちゃんは声をかけてきた。


「さっきあのお弁当箱、探していたけど何かあるの?」


 咲耶ちゃんの質問に対して私は……


「咲耶ちゃんももっと料理ができるようになればわかるわよ〜」


 そう答えると、咲耶ちゃんは「むぅー」と言いながら唇と突き上げていた。



「親父の部屋に置いてきたぞ」


 咲耶ちゃんと話していると、蒼介くんが台所に戻ってきた。


「ありがとう〜、おじさん何か言ってた?」

「いや、本を持ったまま寝てたから机に置いてきた」

「あらあら〜」


 そう言うところはいつまで経っても変わらないんだ……。


「ってか時間大丈夫か? 送っていくぞ?」

「大丈夫よ〜」

「って、おまえを一人で返したらおやっさんに怒鳴られそうだから送ってくよ」

「別に気にしなくてもいいのに〜」


 何だか、いつぞやの耕史さんのセリフを思い出す。


「それじゃ準備できたら行くぞ」

「はい〜」

「私も行くー!」


 結局、蒼介くんと咲耶ちゃんに送られながら私は家に帰っていった。




「……うーん、やべ、寝ちまってたか」


 そういえばなんか、蒼介が入ってきた気がしたな。

 そう思いながら周りを見ると、机の上にある楕円形の形をした物体に目がいった。


「……久々にみたな、まだあったのかこの弁当箱」


 中を開けると、下の段にはたっぷり入った白米。

 上の段には筑前煮や小さなハンバーグなど懐かしい食べ物が詰め込まれていた。

 

「蒼介はこんなのも作れるようになったのか」


 箸入れからプラスチックの箸を取り出して、上の段にある筑前煮を摘んで口の中に運んでいく。

 ゆっくりと食べていくと、懐かしい味が口の中に広がっていた。

 

「おいおい、蒼介の味付け紫にそっくりになってきたな……」


 俺は懐かしさと味を噛み締めながら弁当の中身を食べていった。


 SIDE STORY 千智編 Fin

 

==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。 

SIDE STORY 千智編 をお読みいただきありがとうございます!


ほとんど思いつきで書き始めてしまいましたが、何とか書き終えることができて安心しました(汗)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最後に読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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