幕間


 三年前、十三歳のライラにとって、大きな出来事が起こった。ショックが大きすぎて、ライラの記憶はところどころ曖昧になっているくらいだ。村の友人や弟のサリムと話していると、記憶が抜けていて驚くことがある。


 その頃のシンは十五歳、人好きのする性格と、端正な顔立ちで、村の娘達から急にモテはじめていた。けれど、その中の誰とも恋仲になることはなく、相変わらずライラにちょっかいをかけてきた。口では鬱陶しいといっていたが、本当は嬉しかった。


 ライラがオアシスへ薬草を摘みに行くときは、絶対にシンは付いてきた。二人きりで水辺を歩き、お昼にはライラの作ったお弁当を一緒に食べた。そんな何でもない時間が、どれだけ貴重だったのか。それは突然、断ち切られた。


 都からやってきた一団が、シンを連れて行ってしまったのだ。この辺りの記憶は、特に抜け落ちていることが多い。けれど、その中で、はっきり覚えていることはある。見送りの際、最後に一目会いたくて、会いに行ったときのことだ。年配の女性が出て来て『お前のような田舎娘が出る幕はない。お前ではシン様の顔に泥を塗るだけだ。二度と近づくな』と、ハエを追い払うかのように放り出されたのだ。


 シンにとって、自分は良くない存在なのかと思うと、悲しくて仕方なかった。遠く離れてしまうだけでも寂しいのに、それ以上に、会うことさえも貴族の人にとっては歓迎されないのだ。それがショックすぎて、ライラは高熱を出して数日寝込んだ。


 そして、その高熱のせいか、もしくはシンのことを考えないようにしていたからか、シンに関する記憶が少し曖昧になったのだ。でも、それはライラにとって都合が良かった。


 そこから三年が経ち、シンが再び目の前に現れた。ライラは、もう振り回されたくない。だから、シンの近くに行くなど無理な話なのだ。

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