第3話 ドーハの歓喜、ドイツを破る。

現在ドーハの11月28日の18時、だいぶ間が空いてしまったが、今思うとすごく長い1週間だった。

 あのドイツに勝利し、コスタリカに敗北。まさに天国から地獄への転落。

まずはドイツ戦のあった23日に話を戻す。戦いの場となる競技場はKhalifa International Stadium と市の中心部から西へ7〜8キロのところ。泊まっているBarwa Baraha Al Jacobからは幸いにもシャトルバスが出ていた。バスはゆっくり座れてイラク人や数名の日本人とスタジアムへ試合開始の3時間前の1時ごろに到着。(モバイルのチケットはキックオフ3時間前にアクティベートされる)

前日の夜が、時差ぼけと大試合の前の緊張であまり眠れずに午前3時から起きてるので、バスの移動中ウトウトとしていた。だが、スタジアムが見えると一気に目が覚め、バスを降りる。ところがバスからスタジアムまでが延々と20分ほど炎天下を歩かされる。

 スタジアムの周りは例によって、サポーターたちの浮かれた姿をテレビ局のカメラが追ってハシャギまくっている。少し早いと思ったがスタジアムに入ると空気が一気に変わる。それは気持ちの問題もあるが、物理的なスタジアムの空調装置で冷気が観客席を覆っていた事によるところもある。席はバックスタンドのコーナー近く、前から10列目とすこぶる見やすい席。観客席の冷気の出所を目で追うと、まずスタンドの最上部に大きな銃口が2列、並んでスタンドを1周巡っている。さらにピッチの周りも同じものが回っているが、これは選手のピッチ用で、冷気は主にスタンドの上からのものが、観客席を快適な温度にしている。ただし、これは屋根で覆われた日影の部分での話である。(第二戦では、ひどい目に遭うことになる)

 通常であれば、ビールを買って飲んだカップには試合の対戦国が記されているので土産に持って帰るのだが、ビールが1杯2000円と聞いてたので、ここは小さな抵抗で飲まずに我慢。その代わりに、炎天下を歩いてきたので水分補給として買ったコーラが600円、水が400円でペットボトルをそのまま渡され、しかもキャップを要求してもくれないので、飲み終わるまで手で持っている事を強いられた。シートにはカップホルダーがなく、周りで何人もが床に置いたビールやコーラをこぼす風景が見られた。宗教上酒を飲まないのは分かる。だけど、カップホルダーぐらいつけて欲しいものである。

 さて、ドイツ戦についてだが、ドイツと戦う事だけでも、私の年代のオールドファンのとっては感慨深いものがある。それはドイツサッカーは日本を現在の位置に導いてくれた超がつくほどの恩人だからである。川淵チェアマンなどがよく話すが、1964年の東京オリンピックの招致が決まり、日本は予選無しでの参加となったが、開催国として当時のレベルでは大会に恥をかかせるとしてFIFA にコーチを依頼して来日したのがデッドマール・クラマーさんという当時の西ドイツ人コーチであった。代表選手は長期間、千葉県検見川の東大グランドに合宿してボールの蹴りから習ったという。ちなみに、私も大学(大学は東大ではありません)の時にこの合宿所を使ったが、東京オリンピックの時の写真が飾ってあったり、このベッドで釜本、杉山が合宿してたかと思い、感激したものである。


 さて、試合内容は皆さんもテレビで観戦しているであろうから詳細は省く。しかし、前半と後半でスタンドの雰囲気が大きく変わったと思う。前半の最後のほうでは、スタンドで数回ウェーブも起こる。これは試合が退屈だという証拠。私はこのウェーブが大嫌いで一切参加しない。試合観戦の邪魔なだけである。

 試合内容が日本に流れが来るに従って、スタンドも押せ押せムードでいつものようなウルトラススのチャントだけでなく、何か地の底から湧き上がるような歓声が選手を押して行ったと感じた。そして今日の試合ドイツの1点も、日本の2点も、自分のシートのサイド、すなわち目の前でのゴールで、ゴール時も試合後もまさに狂喜乱舞で、周りの知らない人とハイタッチやら抱き合うやらで何が何だかという状況に。

 ちなみに、後半の日本の得点の少し前、近くの通路からしゃがんでカメラを向ける視線を感じる。1分ほどもカメラをじっと向けられていただろうか、こちらはそれどころではない。ちょうど流れが日本に変わってきたところ。そんなカメラは気にせずに真剣に試合を睨んでいたら、その姿がアップでNHKの国際映像に流されていたと、試合後に家内から録画で取ったテレビの画像の写真がラインで送られてきた。ブラジル大会からW杯の時は着込んでいる、福岡市にある帽子屋さんから1万円ちょっとで購入した黒田長政の兜を模したキャップと、ネットで購入した陣羽織姿がバッチリとアップで写っていた。

 試合後は普通であればホテルに戻って祝杯となるが、お酒はご法度の国とあって、静かに寝る事にした。寝不足と、真剣に試合を見た疲れが出たのもあるが、気持ちよく、これほど勝利に浸りながら眠りについた事は、ジョホールバールの勝利後のシンガポール以来であると思う。

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