第35話

「じゃあみんな学園に通ってんのか」

「そうだです。まぁ僕達は全然ダメダメですけど……」

「でも雫は凄いのよ!!対人戦では負けなしなんだから」

「僕はただ強い奴と戦ってないだけです。それに、モンスターに勝てないと意味ないです!!」


 頬を膨らませる雫。


 なんか若干の愛菜みを感じて可愛い。


 小動物感があるな。


「だから学園でもっと上に上がるために、ダンジョンで凄いアイテムをゲットしてやるんです!!」

「雫の言う通り。私達は強くなって将来ビックになるんだから!!」

「そしたら俺たち人気者だぜ!!」

「オ、オイラもそう思う!!」


 わぁーわぁーと盛り上がる。


 その姿が俺には


「なんか……いいな」


 ものすごく輝いて見えた。


 皆が一つの目標に向かって走り続ける。


 前の世界では体験できなかったことだ。


 いつか俺も、あんな風な仲間が出来るのかな?


「何ボーッとしてやがります!!文お兄さんも来るですよ!!」

「え?」


 突然雫に背中を押される。


「僕もバカだけど、文お兄さんはもっとバカです」

「なにを!!」

「難しいことは僕達に似合わないから、とりあえず今を楽しみやがれです」


 雫は笑顔を向ける。


 優しい笑顔だ。


 そんな雫を見て俺もまた


「ハハ、押すなって。自分で歩くから」


 自然と笑顔になった。


「文清も混ざりたいってよ!!」

「しょ、しょうがないわね。特別よ?」

「オ、オイラもそっちの方が楽しいと思うんだな」

「俺が混ざるんだ。もっと弾けていこうぜ!!」

「えいえいおーだぜなのです」


 そして俺らは大いに盛り上がった。


 だがこの時俺は知らなかった。


「あははははは」

「にゃはははは」


 その笑顔が暗い、暗い闇に落ちていくのだと。



 ◇◆◇◆



「この宝箱もゴミね」

「おーい文清。依頼の鉱石ってこれで合ってるか?」

「え?あ、おーん……た、多分?」

「ちゃんとライト鉱石であってるんだな。周りが暗くなると緑に光るのが特徴なんだな」

「やっぱり悠太は天才野郎だぜです!!」


 道中で俺は目的の鉱石採取をする。


 するとなんだかんだみんな文句を言いながら手伝い出した。


『ま、まぁあんたのお陰で助かった場面もあるし?』

『俺は借りを作るのが嫌いでな』

『いい鉱石をオイラは探したいだけだな』

『全員めんどくせーです。さっさと文お兄さんの手伝いしやがれです!!』


 なんかこいつらって、多分ツンデレの集合体みたいなもんなんだろうな。


 口下手というか、言葉を作るのが苦手といか


「その点で雫は言いたいことをハッキリ言ってくれる」


 だがらこのパーティーは綺麗にまとまっているんだな。


「にゃはは、南くすぐったいです」


 南にイタズラされてる雫を皆がにこやかに見ている。


「世界を守る理由がまた増えちまったな」


 英雄気取りでもいいだろう。


 気取って、それで世界を救えるなら安いものだ。


「よっし、こんなもんか」


 みんなでかき集めた鉱石。


「これで依頼は達成。後は帰るだけだが」


 俺は皆の顔を見る。


「このまま収穫無しじゃ帰れねーです!!」

「「「そうだそうだ!!」」」

「それでこそお前らだ」


 俺も依頼だけ終わったらノコノコ帰るなんてつまらないことはしたくない。


 どうせなら


「ダンジョンコアまで行っちまおうぜ!!」

「「「「おー!!」」」」


 そんな感じで団結力を高めた俺らの前に


「生きて……お願い、必ず生きて……」


 奥から走ってくる女性。


「なんかあいつ、泣いてないか?」

「本当ね」

「オイラ心配だな」


 皆が心配の声を上げる。


「俺、何があったか聞いてくるよ」


 俺が走る女性の元に行こうとすると


「待って!!」

「雫?」


 腕を掴まれる。


「い、行くなです!!」

「どうしたんだ急に」


 いつになく真剣な顔。


 息も荒く、目の瞳孔が何度も開いている。


「ど、どういうことです。あ、あいつはなにを言ってるですか?」

「おい、本当にどうしたんだ雫」


 雫の震えが止まらない。


「に、逃げた方がいいです。僕達も、速くここから」

「おい本当にどうしたんだ」


 わけが分からなかった。


 みんなもどうしたのかと心配している。


「……」


 そこに理由はなかった。


 考えることは俺達には似合わないからだ。


「雫」


 俺は雫の震える手を握る。


 真っ直ぐ、真っ直ぐだ。


 小賢しい言葉なんて何もいらない。


「俺に何をして欲しい」


 雫は息を呑む。


「あ、あの人……」


 俺は雫が指を差す方を見る。


「!!!!」


 先程の人間味溢れる表情が消え、まるで生気を失ったかのような目でこちらを見ていた女。


 一気に肝が冷える。


 俺の心臓が跳ね上がる。


 ダメだ、しっかりしろ!!


 雫を安心させろ。


「あいつが……どうした……」


 俺は雫を抱きしめる。


 全身に震えが伝わる。


 俺は落ち着かせるようにゆっくりと喋る。


「ゆっくりだ。ゆっくりで言い」


 足跡が近付いてくる。


 雫の心臓の音が加速する。


 俺は雫の目をジッと見つめる。


「大丈夫、俺が全部なんとかするから」

「文お兄さん……」


 雫は涙を流す。


 そして口を開き


「助けて」


 俺は剣を抜いた。


「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」


 ただ全力で、雄叫びを上げながら剣を振る。


「チッ!!」


 金属音がダンジョンに鳴り響く。


 先程の女の握る短剣とぶつかり合う。


「よく分からんが、消えろモブ。俺の道にお前みたいな安っぽい女はいらねぇんだよ」

「随分と生意気な餓鬼。今すぐそこを退いたら殺さないであげる」

「ごめんだバーカ」


 弾き合い、距離が生まれる。


 黒いマントのような地味にセンスのいい格好をした女。


 手には短剣を持ってるが、服の裏に暗器を仕込んでいる可能性が高い。


 理由は悪そうな奴は大体隠し玉を持ってるからだ。


「な、なんだあいつ急に攻撃してきやがった!!」

「敵よ敵!!いきなり襲ってくる女と男は敵って相場が決まってるのよ!!」

「オ、オイラもそう思うぞ!!」


 皆が俺の横に並ぶ。


「チッ、雑魚がわらわらと」


 女が姿勢を低くする。


「来るぞ!!」


 俺は数歩前に出る。


 南と悠太を強く生かすには前衛後衛のフォーメーションが最適だ。


 これであいつは俺を倒さないと奥


「……に」

「遅い」

「逃げろ!!」


 まずい!!


 抜けられた!!


 速すぎて反応出来なかった!!


「俺が間に合う!!」


 二人の前に太陽が割って入る。


 よし!!


 太陽のスピードならあいつにも引けを取らない。


 後は俺が合流するまで凌いでしまえば


「弱い奴が戦おうとしない方がいい」


 太陽の剣が弾かれ、遠くに飛ぶ。


「夢はいつか潰れるのよ」

「ガッ!!」


 太陽の腹に重い一撃が入り、吹き飛ぶ。


「き、きなさいよ!!」

「ヒィイイ!!」


 足が震えながらも立ち向かう南と、腰を抜かした悠太。


「……それ、意味あるの?」

「あるに決まってんだろ!!」


 俺は後ろから斬り込む。


 声を出すなんて愚の骨頂もいいとこだが、そんなことよりも俺へと気を回させる。


「あなたは少し厄介だけど」

「クソ!!」


 女は姿を消し、何度も移動を繰り返す。


 パワーは互角だったが、スピードが桁違い過ぎる。


 なんとか目で追えるが、体が反応出来るかどうか。


 しかも、背にいる三人を守りながら


「絶体絶命だな」


 全神経を集中させる。


 遅れるな。


 見誤るな。


 一瞬の判断で全てが決まるぞ。


 追う、追う、追う。


 集中を切らすな。


 神経を研ぎ澄ませろ。


 そして


「みーー」

「左です!!」


 声


 咄嗟に俺は左へと剣先を向ける。


「また!!」

「ヒット!!」


 そのまま野球選手にでもなった気分で全力でフルスイングする。


 ガードはされてるが、遠心力込みの俺の方が


「強い!!」


 太陽にした分をやり返すように吹き飛ばす。


 結構いいのが入ったんじゃないか?


「やった!!」

「オ、オイラ達の勝ちだな!!」

「おいフラグを建てるな。とりあえず誰か太陽の状態を見てきてくれ」

「オイラまだ動けない……」

「私が行ってくる」


 南は太陽の方に向かう。


 俺は剣を下げず、煙のする方を見続ける。


「雫」

「……はいです」

「あいつはまだいるか?」

「はい。今もこっちが舐めてたら殺しに来る気です」

「了解。命に換えても守るぜお姫様」

「厄介」


 煙がゆらりと揺れる。


「これだから……これだから英雄の力は……いっつも私達の邪魔をして……」


 崩れた岩を蹴飛ばす女。


「一番出会いたくなくないけど、一番処理が簡単な存在。それが音無雫。ここで取り逃がしたら私達の計画が一気にダメになる」


 引く気はない。


 殺意を隠す気なしか。


「悠太。いざとなったら俺ごとぶっ飛ばせ」

「ええ!!オ、オイラには無理だな!!」

「男見せろ。じゃなきゃみんなお陀仏だ」


 女が二本目の短剣を抜く。


 防御を捨ててきたな。


 次で勝負が決まるか。


「スゥー」


 息を吐く。


 ……よし


「最高の死に場所だ」


 そして剣が交差した。

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