第19話

「何急に」


 相変わらず凄まじい程冷めた目線を送る芽依。


 だが、今回ばかりは俺も負けてられない。


「俺と一緒に、キングオブエデンに言ってくれ!!(直訳;一緒に王都に行って下さい)」

「何言ってるか分からないし、そもそも私ここ離れたくないんだけど」


 中々折れない芽依。


「親友が頭を地べたに擦り付けてるのにダメってか!!」

「そもそも親友じゃないし、押し付けがましいし、何より顔がうざい」

「いつもと同じですが!!」


 とりあえず土下座スタイルが気に入られないことを察した俺は、素直に立ち上がる。


 そして


「お願いします!!」

「なんでわざわざ同じことを繰り返すの?」

「なんかリテイクしたらいけるかなって!!」

「……座って」

「はい!!」


 座る。


「あ、これ美味いな」

「さっき頭を下げてた人間とは思えない豹変ぶりが怖いんだけど」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃん?だから先に……美味。腹を満たそうかなって」

「はぁ……好きにしたら?」


 相変わらず店は貸切にしていくスタイルの芽依。


 やっぱ金持ちは違うなぁ。


「それで、どうして私も行かなきゃ行けないの?」

「寂しいから……って理由じゃ信じない?」

「……」

「だよなぁ」


 いや寂しいのは本音だよ?


 でも一番の目的はやっぱり


「さすがに世界が滅びるのはな〜」


 芽依を置いて好きに生きるじゃダメなことは分かっている。


 でも王都行きたい!!


 ならば、芽依を王都に連れて行っちゃえば解決やんと考えた俺。


「王都ってよく知らないけど、凄く良いところだと思うよ?」

「行ったことあるから知ってる」

「あ、そうなんだ」


 でもあんまり行きたくなさそうなんだよな。


「なんか行きたくない理由とかあるのか?」

「……」


 芽依の食事の手が止まる。


「あそこには……貴族がいるから……」


 これは盲点だった〜。


「それに私ここに家があるから。私を泊まらせてくれる宿屋とかないし、王都に行っても人が多すぎて私じゃ歩くことも難しいから」


 どうしよう、なんか誘ったことを申し訳なくなってきた。


 呪い羨ましいとか考えてごめんなさい。


「そっか……行けないか……」

「……」


 しょうがない……か。


 一応まだ三年の猶予がある。


 俺が王都に行き、帰ってきてもまだ時間はある。


 何も本人の気持ちを無視するわけにもいかない。


「悪い。嫌なこと思い出させちまった」


 俺は前回の分の料金も含めてテーブルに置く。


「俺がいなくてもちゃんとご飯食べるんだぞ」

「キモ」


 そして俺は師匠の家へと向かった。



 ◇◆◇◆



「なんじゃ。今日は張り合いがないのぉ」


 俺は空を見上げながら考える。


「なぁ師匠。世界と好奇心。選ぶならどっちを選ぶ?」

「好奇心じゃな」

「師匠ならそうだよな……歳だし」


 アイテッ!!


「事実を言っただけだろ!!」

「それでも乙女は気にするものなんじゃ!!」


 なーにが乙女だよ。


 神様よる年上のくせに。


『私はまだ若いですよ!!』


 このお婆ちゃん達うるさいなぁ。


「若い俺達はこんなに悩んでるのに」

「年寄りにだって悩みはあるわい」

「例えば?」

「どうすれば金持ちになれるかじゃな」

「思ったよりも俗な悩みだった」


 まぁ多分、師匠は例外な部類なんだろうな。


 どちらにせよ


「俺も好奇心選びそうなんだよな〜」


 神様には申し訳ないが、愛菜といい感じの別れ方をしたし、俺の心も今や王都に行く寄りになっている。


 だけどまだ、師匠には話していない。


 二ヶ月後の俺に全てを任せると決めたからな。


「アドバイスでもしようかの?」

「……いや、今回は自分の手でどうにかするよ」


 俺は立ち上がり、剣を振る。


 最近は師匠に剣術も見てもらっている。


 師匠は剣に関してはそこまで詳しくないらしいが、そこそこくらいまでは面倒を見てくれるらしい。


 本格的に学びたいなら


「王都か」

「あそこなら儂の知人が何匹かおるからの。主の好きそうな連中ばかりじゃ」

「行きたい行きたい行きたい!!」

「カカっ、悩め若者。その時間を大切にするのじゃよ」


 俺は無我夢中で剣を振る。


 芽依を王都に連れて行くには、貴族、家、人。


 これらの問題を解決しなければならないのだが


「無理ゲーだろそんなもん!!」


 無理無理、俺にそんな力ねぇよ。


 そもそも英雄になるような力を持つ芽依を、何の力もない俺が救うなんて……


 なんて……


「……頑張ってみるか」


 何の力もない俺が、無理難題を解決する。


 それってマジでカッケーじゃん。


「いざとなれば、王都の近くに家建てるか」


 芽依も家をプレゼントされたらさすがに喜んでくれるのではなかろうか?


 俺なら喜ぶな、うん。


「よし、そうと決まれば早速行動だ!!」



 ◇◆◇◆



「王都にある周りに人がいない場所かー」


 愛菜は腕を組み、考える仕草を見せる。


「ネネちゃんに聞いてみたら?」

「いや、師匠にはまだ秘密にしたいんだ。あのエルフ多分寂しがりだから、俺が行くって言った後にいざ行かない状況になると多分泣く」

「そ、そんなことないよ。だって凄い年上の方なんでしょ?さすがに泣くことはーー」

「泣くわね」


 多分愛菜の中では、厳格な姿のエルフの像があるのだろう。


 だが、実際会えば知識だけ多めのただのお子ちゃまである。


「そうね。報酬を出してくれるなら、私が依頼を受けてもいいわよ」

「マジ!!」

「お金なんていらないよ。私が無償で」

「愛菜」

「うっ……ごめんなさい」


 シュンとなる愛菜。


「悪いが俺も金欠だからな。出来るだけ少額だと助かる」

「ええ、もちろん。これくらいでどう?」


 提示された金額は


「え?これだけでいいのか?」

「今回は特別な状況なのよ。どう?不満はないと思うのだけど」


 俺は躊躇いなくネインの手を握る。


「もちろん頼むぜ!!」


 とりあえず家の方に関しては問題なさそうだな。


「さて次!!」



 ◇◆◇◆



「空を飛ぶ翼?んなもんあるわけないだろ兄ちゃん」

「そこをなんとか」


 人が多過ぎて移動が不便なら、空を飛べばいいのではという天才的な発想を生み出すた俺。


 だが残念なことに、人は飛べない。


 いや、飛ぶ人間を一人だけ見たことがあるが、あれは例外だ。


 なんか師匠も普通によく空飛ぶって言ってたし、案外異世界なら飛べるのかもと思ったが、無理らしい。


「どうして急にそんなもん欲しがり出したんだ?」

「実はかくかくしかじかで」

「人が多い場所が苦手な友人がいるから、空を歩いてもらおうと思ったか」

「うんうん」


 ドワーフのおじさんは真面目な顔で


「正直バカな話だと切り捨てたいところだが、お世話になった兄ちゃんになら教えてやってもいい」

「な、なんだ!!まさか本当にあるのか空飛ぶマント!!」

「いや、空を飛ぶわけじゃないが、実は最近とあるダンジョンでこんな物が見つかったらしい」


 ドワーフのおじさんは一枚の設計図を出す。


「着けている奴の姿が見えづらくなるフードだ」

「な、なんだそれ」


 簡単に言えば、影が薄くなるって能力をした代物らしい。


「それかなり凄いんじゃないか?」

「凄いってもんじゃない。野外やダンジョンなんかではかなり重宝されるだろうな」


 是非とも欲しい。


 てかものすごく欲しい!!


 でも


「高いんだろ?」

「まぁそりゃあな」


 値段を確認すると、俺が冒険者を50年続けてやっと買えるような物だった。


「諦める」

「ま、試しに言ってみただけだがな」


 それに、これがあっても芽依の問題の解決にはならない。


 皆が突然倒れたりしたら、いくらバレにくくとも芽依は見つかるだろう。


 それに、彼女はそうやって他人が自分の呪いで苦しむ姿を見るのが好きではない。


「ありがとう、おじさん。また何かあったら来てみるぜ」

「またな兄ちゃん」


 人の問題を抱えたまま、俺は最後の貴族の問題へと向かうのだった。

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