第10話 白熱の大接戦

「高梨くん、妹さんいたのね」


「えぇ、まぁ」


「やばー! ちょー似てるー! アタシ島崎芽衣、芽衣って呼んでいいよ」


「私は白石遥香。私も遥香でいいわ」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 沙耶香が勢いよく頭を下げる。

 どうやらかなり緊張しているらしい。


「翔、話はどこまで進んだの?」


「決行日は忘年会、猿司の城を崩すのに調べた名簿を見せたところだ」


「おっけ。すみません、話を続けましょう」


 沙耶香は先輩がいる手前、カーペットの上で正座をした。

 すると、それを見た島崎先輩が沙耶香を後ろから包み込み、足を崩させる。

 戸惑ったように見つめる沙耶香に対して、島崎先輩はニコッ、と人当たりのいい笑みを浮かべた。


「それじゃ話を続けます。先輩方には、この名簿にいる女子学生がなるべく忘年会に参加するよう誘ってほしいんです。直接でも間接的にでも構いません」


「それはいいけど……さすがに全員は無理だよ? 普通に知らない人も多いし、知ってても接点ない人もいるし」


「それで構いません。名簿の中には『L・E』に所属してる学生もいますし、主に参加者を募るのは『L・E』の役目なので。そこで……白石先輩に許可をもらいたいんです」


「私……?」


「はい。『L・E』が忘年会の参加者を募る際に、『白石先輩も忘年会に参加する』という誘い文句を使わせてほしんです」


「それ、私が拒否しないって分かってて言ってるわよね?」


「確認をとっといた方が後腐れがないので」


「まったく、つくづくいい度胸してる。……いいわよ。私の名前を使えば何人かは釣れるかもしれないしね」


 白石先輩の美貌はもはや語るまでもない。

 白石先輩が参加すると知れば、さぞたくさんの男子学生が釣れることだろう。

 忘年会は合コン目的の側面もあるため、「白石先輩が来るなら」と男子が集まり、男子が集まれが女子が集まり、そうやって人数が集まれば「友達が参加するなら」と更に人が集まる。

 もしかしたら名簿には乗っていない、猿司と関係を持つ学生が釣れるかもな。


「それで、もう一つの手段はなんなの?」


 白石先輩がジト目で尋ねる。

 どうやら少し機嫌を損ねてしまったらしい。


「もう一つは俺一人で行います。かなり派手に動くので、普通に大学で過ごしていても耳に届くはずです」


「え、それ大丈夫?」


 島崎先輩が不安げな表情を浮かべる。


「特に問題ありません。先輩方と沙耶香にはその後のことをお願——」


 そこまで言ったところで玄関の鍵が空き、扉が開いた。

 母さんが帰ってきたようだ。

 俺達は無言で目を合わせ、今日の会議をここまでとした。


「おかえり、母さん」


「ただいま、翔。悪いんだけど荷物持ってくれない? 食材買いすぎちゃって」


「了解」


 玄関前に置かれた荷物を持ってみると、たしかに重かった。

 父さんもいれて家族四人分の食材には少し多いように思える。

 俺が食材の入ったバッグを冷蔵庫の前に運ぶと、入れ替わるように白石先輩と島崎先輩が玄関前へ行ったのが視界に入った。


「高梨さん、私と芽衣はそろそろ帰ります。お邪魔しました」


 白石先輩が頭を下げ、島崎先輩がそれに続く。


「急に訪ねてすみませんでした。お邪魔しました」


 島崎先輩のギャル味が消えてる……

 誰だあれは……


「あら? 二人とも今日はもう予定ないって翔から聞いたんだけど」


「ええ……特にこの後に予定はありませんが……」


「なら晩御飯を一緒に食べましょう。食材はもう買ってきちゃったし、食べていってくれると嬉しいわ」


 にっこり、と母さんは白石先輩と島崎先輩に微笑んだ。

 さすが母さん。逃げ道を塞いだな。

 どうする先輩方。


「……ご迷惑でないなら、ご一緒させてください。ね、芽衣?」


「はい! お言葉に甘えて!」


 さすが先輩方。懸命な判断だ。

 よく言えば、母さんは気に入った子には母性大爆発だからな。




 晩御飯までにはまだ時間がある。

 チラッと沙耶香見ると、先輩二人と話しているが、主に島崎先輩のコミュ力の高さに圧倒されていた。

 人見知りする沙耶香なら無理はないが、それだと少し困る。

 遠慮して、どこで無理をしだすか分からない。


「暇なんで、四人でゲームでもしませんか?」


「おっ、いいじゃん! やろやろ!」


 提案すると、島崎先輩が真っ先に食いついてきた。


「何やんの?」


「ス◯ブラです」


「へー、アタシ、結構強いよー?」


「そう言う人の実力はたかが知れてます」


「あー! 言ったなー! 後輩のくせに生意気なんですけどー!」


 舌戦はこれぐらいにして。

 四人がそれぞれキャラを選び、いざバトルスタート。

 まず最初に残機を減らしたのは——


「ちょっと遥香ぁ!? それマジでウザい!」


「芽衣が下手なんじゃない?」


「言ったね! ぶっ潰してやるから!」


 前口上を垂れていた島崎先輩だ。

 バトルは白熱の大接戦。やってやられての展開が続く。


「あー!? もう、芽衣先輩!」


「へへーん」


 見れば、沙耶香もだいぶ打ち解けてきた様子。

 遠慮の少ない島崎先輩が橋渡し役になって白石先輩とうまく繋いでいる。白石先輩も沙耶香の人となりを理解したのか、徐々に距離を詰めている様子だ。


「あ……っ」


 そんなことを思っていると、俺の最後の残機が吹き飛ばされた。


「よそ見厳禁よ、最下位たかなし


 俺の使用キャラを弾き飛ばした張本人——白石先輩が挑戦的な笑みをこちらに向けてきた。

 俺の中で、たかが外れる音が鳴る……


「私がチャンピオンね」


 バトルを制したのは白石先輩。

 ふふん、と演技かかった動作で髪をかき上げる。

 完全無欠の『桜大の女神』はゲームも強いらしい。


「よし、次だ」


「だね。いこ、翔」


 沙耶香が俺に続く。

 どうやら末っ子の負けず嫌いスイッチが入ったらしい。

 もうそこに憧れの先輩達への緊張はない。

 だが好都合だ。

 俺もこれで引くつもりはない。


 白熱したス◯ブラ対決はまだまだ終わらない。

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