『死に時くらい選ばせろ』 純文学
死に時は選べない。
その言葉の本質は、上手く言い表せないけれど「死にたくないときの死は選べない」なんじゃないかって最近考えた。
それで思った。
死にたくないときは選べないけど、死にたいときは選べるんじゃないかって。
私は世間一般に「若者」って呼ばれる年で、毎日小さな絶望ばっかり。多分私たち若者は皆そうなんじゃないかな。
毎日毎日たくさん働いて、でもお金は全然貰えない。そのせいで飲み屋に行くことすらできないの。だから道端でたむろして、安酒を飲んで吐いての華金。そしてまた報道されて「今時の若者は」ってシニアに言われちゃうんだ。
政治に無関心なんじゃないの。基本給からドッと引かれる税金を見て、無関心でいられると本当に思う? 関心を持つだけの時間がないだけだ。私たちは、いつだって仕事に追われている。
社会の回転のために、ひたすらに消費される歯車。私たちは、そんな状態では頭も上手く働かないんだ。政治に関心を持っている余裕なんてないよ。だって、お金がなければ生きられないんだから。
「死にたい」
そう口に出すのは日常で、現実でだってSNSでだって、毎日何回も呟いてる。
でも言ってるうちは死なない。言うことでその選択肢があることを自分に提示して、安心している期間だから。
言わなくなったら、そう、多分すぐ死ぬ。実際、先週まで愚痴で「死にたいね~」って言い合っていた同期が昨日自殺した。直前には何も言わなくなって、表情もなくなって、でもなんか目だけキラキラしてたな。
「死にたい」
だから私は毎日呟く。お祈りみたいなものだと思っている。何も信じられない、絶望の内にある私たちの信仰だ。
死に時は選べない。
そう言う人たちが、私たちの「死にたい」を否定する。
「そんなこと言っちゃ駄目」
「生きていればいいことがある」
「親に貰った命を何だと思っている」
「生きろ」
「生きろ!」
「生きろ!!」
命の尊さなんて、そんなもん薄れて薄れてほぼ透明なこの世だ。
死に時は選べない。
生きろと強いられて、強いられ続けて、ついに気づいた。
死に時は選べない。
その言葉の本質は、上手く言い表せないけれど「死にたくないときの死は選べない」なんじゃないかって。
それで思った。
死にたくないときは選べないけど、死にたいときは選べるんじゃないかって。
「そっかぁ……」
仕事を休んだ。元気いっぱいの仮病だ。昼までぐうたらベッドの上に転がっているのって最高の気分。
駄目そうだったら死ねばいいんだなぁ。どうせ死ぬんだから、将来のことで悩まなくていいし、未来のことも不安じゃないや。
「……うん、そっか。そのうち死のう」
この厳しい社会の中、優しくない人と、優しくない制度の間を懸命に泳いで私を育ててくれた母。その葬儀を、感謝いっぱいで挙げたら、子としての役目は果たしたって言える。
死に時、選べるじゃん。
満足したらでもいいし、嫌になったらでもいい。とにかく、カジュアルに「死」を人生の選択肢に入れてしまおう。今時お堅いのは流行らないしね、ポップな死願者、なんちゃって。
病んでいるのは分かっている。
けど、このご時世病んでない人の方が少ないでしょ。そういう社会だもの。だから健全な病み方をしようと思う。それがこれ。悩んだらすぐ「死のう」と思うこと。
なんだか心が軽くなった。
社会に背負わされた重みが消えていく。歯車だって簡単に消えちゃうんだ。いつまでも無くならないと思っているかもしれないけど、少なくとも私は簡単に消える。
健全な希死念慮。健全も不健全もあるのかって感じだけど。
ぐぅーーっと伸びをして、買ったままずっと読めなかった漫画に手を伸ばす。しばらくズル休みしよう。そして好きなことをたっぷりするんだ。
それで、また働いてやってもいいかなって思ったら仕事に行く。満足できなかったらまたズル休み延期決定。どうせ将来がないなら、正社員辞めてバイトにしよっかな~。
お金がなければ生きられないなら、生きなきゃいいじゃんね。
仕方ない、ここはそういう社会だ。
死に時は選べない。
その言葉の本質は、上手く言い表せないけれど「死にたくないときの死は選べない」なんじゃないかって最近気づいてしまった。
それで思った。
死に時は選べる。
いつだって、私の死にたいと思ったその日が私の死ぬ日。
果てなく自由なようで、何も自由に選べないこの時代。
死に時くらい選ばせろ。
【必読:メッセージ性に関する補足】
本作に自殺を推奨・賛美する意図はありません。
ただ、敢えて未来の選択肢にそれを加えることで、今の心の安定を図ることができた経験を元に、こういう作品にしています。
本作を読んで今この瞬間に自殺することを決めた、というのは作者の意図が上手く伝わっていない証拠です。表現力が足りず、申し訳ない。
今すぐ自殺するくらいなら、まずはズル休みして、食って、寝てください。あと掃除。見られたくないあれそれ、この機に処分したりして。
死ぬことを考えるのはそれからで充分です。命は尊く思えなくても、うまい飯は人類共通に尊いもんでしょう。それでいい、それくらいでいいんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます