『あなたが嫌いでした』 純文学
ずっとずっと、あなたが嫌いでした。
あなたは私を好いてくれましたね。
私の周りのたくさんの人の中で、何とか私の関心を捕らえようと、必死に言葉を尽くしてくれていた。その様は可愛らしくって、すっかり絆されてしまいました。
自分の見てきたことを、私に教えようとしてくれたことを忘れません。切ないことにそのほとんどが私には分からないことだったけれど、それでも、嬉しかった。
けれど。
いつからか、あなたの視線が常とは違う色を帯びるようになって、それで。
あなたは私に、無遠慮に無粋に、踏み込もうとした。
愕然としました。驚きました。そしてとても悲しかった。自分の領分を越えて私に触れようとするあなたが。そんなあなたを苦痛に思う自分が。そしてきっともう、あの輝くような尊かった時間は戻らないのだということが。
気づいてしまったんです。
私、ずっとあなたが嫌いだった。
その気持ちに見て見ぬふりをして、ずっと耐えてきたんです。あなたを大切に思った頃の記憶が、私がその気持ちに気づかないように必死に蓋をしてきたんです。
もう、許してください。
あなたを見誤り、あなたが線を越えるのを止められなかった私のことを。そして、あなたを堪らなく嫌悪する私のことを。
私のために言葉を尽くすのを終わりにしてください。この気持ちに気づいてほしくて、いつからか私がそっけなくなったことを不思議に思いませんでしたか。
私はもうきっと、あなたの言葉に応えられない。だから手を伸ばすのをやめて。私が刃を手にする前に。
もう、やめてください。
だって私、ずっとあなたが嫌いだった。
だからあなたにも私を嫌ってほしい。そうすれば、あなたを傷つけずに遠ざけることができます。
だから、だからどうか。はやく。
これから、あなたが私に言葉を尽くす場で、私はそっと耳を塞ぎます。どうせ、あなた以外いないんですもの。誰も構わないでしょう。
もう手遅れなのかもしれません。だって私は、もうぼろぼろです。苦痛の針を握り締めたこの手で、流れ出した涙をインクに筆を握っています。
ええ、そうです、だって私は。
ずっとずっと、あなたが嫌いでした。
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