おまけ ※先に本編をお読みください

第27話『本当ノ能力ハ』

 シノとイオリは、生まれながらにしてGivenだったのか。


 その問の答えは、「否」である。




 当初の彼らは、研究所の一職員でしか無かった。能力の研究を行う秘密裏の研究所。この研究所では、能力を持つ者と持たない者の両者が働き、お互いがお互いを尊重し合う、そんな場所であった。


 危険な能力を持つ者として、収監されていた能力者がいた。その人が持つ能力を見つけ出すこと、それが2人の研究であった。


 自らをGiven=与える者だと名乗るその人は、シノのことを好いていた。逆に、2人以外と意思疎通を図ろうとせず、Givenの研究を任されたという節もある。



 そんなある日の事だった。2人の人生を大きく揺るがす、事件が起こったのは。


 いつものようにデータ採取のため、Givenが入れられている檻の中にシノが入っていく。


「おはようございます、Given」


 こくりと頷いたGivenはシノと二三言交わしながら、コードをつけられていく。

 イオリは檻の外でコードを受け取り、分析機を動かしていた。


 から故に、事の発端を見ていなかった。


 次に檻の中を振り返った時、シノは首元を抑えてGivenの足元に蹲っていたから。


「シノ!」


 檻の横に備え付けてある非常ボタンを押そうとしたが、Givenの言葉がそれをさせなかった。


「君は、彼が持っている能力を知っているか」


 男とも女とも、大人とも子供とも、1人とも複数人とも言えない、重なったノイズのような声は、すっと頭に入ってきて、発せられた一語一句は頭から離れようとしない。


「……どういう事だ」


 非常ボタンに手をかけながらGivenを睨めば、その手をボタンから除けたら教えてやると言った。



 シノはイオリに自分は能力保持者では無い、と言っていた。


 研究者としての性か、友人としてなのか、分からない好奇心はボタンから手を除けさせた。


「君が持っている能力を教えてやれ」

「……こ、コピー、」


 くっ、と、シノの息が上がり始め、さらに床に溶ける。そんな彼にイオリは駆け寄った。


「ねぇ、大丈、夫」


 首元にピリッと流れた痛みの原因は、なんだったのか分からなかった。ただ、痛みの前にシノの顔がゆるりと上がって、噛まれたということは分かった。


 ちらりと見えた口の中に立派な牙が生えていた。



 はは、滑稽だと、椅子に座りながら、俺らの一連の流れを見ていたGivenは笑い出す。


「彼に、何をした」


 額に汗をかき、首元を抑えてさらに床に丸くなるシノ。うぅと、呻き声が少し開いた口から漏れ出す。イオリも抑えた手の下がかっと熱くなって、視野のふらつきが止まらない。


 歪んだ視界の中で、Givenは笑っている。

 それだけはわかった。


「彼の能力は、コピーだ。だから、私の能力をコピーした。それだけだ。……私の能力は、能力付与。噛んだ相手に能力を付与することが出来る」


 それに、とGivenは言葉を続ける。


「Givenは一総称でしかない。Given、与える者。私は能力を与える者。私の能力が知りたかったのだろう?最初から、答えは言っていたんだがなぁ」


 気が付かないか。ノーマルは頭が弱いもんなぁ。と、けたけた笑う。



 ブチブチとコードを外し、椅子から立ちがると、Givenは開いていた檻の扉から出て、檻の外を物色し始めた。


 機械は殴って止めて、電源コードが切られたのかバチりと火の粉が上がる。ビンやらが入っている備え付けの棚を漁ると、あったと小さな声が上がった。


「……何をする気だ」


 Givenが持ってきたのは、空の注射器。

 それで、自分の血を抜き始めた。


「君たちを完全体にするのだ」


 まぁ見てろと、蹲るシノの首に、つぷりと注射器が刺された。満たされた赤黒い液体はスルスルとシノの体の中に入っていく。ぱっと顔が苦しそうに上がって、力の抜けた彼の体は床に叩きつけられた。


「シノ、……シノ?」


 ねぇ、起きてとその体を揺する。彼はゆさゆさとされるがまま、でも服の上から熱いと分かるほどに熱を持つ。シノの荒い呼吸だけが二人の間に落ちる。


 起きて、お願いだから。

 ねぇ、と彼に声を掛け続ける。



 次にふっと開いた彼の目、もう以前の面影はなく。別人に見える程、視線は冷酷さを纏う。


「……誰?」


 と、長年一緒にいるイオリが聞くくらいに、纏う雰囲気が変わったのがわかった。


「誰?って失礼な。シノだよ?イオリも完全体にしてもらいなよ。今のままじゃ辛いでしょ」


 さっきまでの具合の悪さが嘘のように、シノはすっと立ってみせると、うーんと伸びをする始末。見下された視線が氷のように冷たくて、薄らと赤い色が混じっているように見えた。


「シノ、戻ってきてよ」

「何言ってんの?」


 戻るも何もこれが俺だけど、と怪訝そうな視線を寄越し、新たに血で満たした注射器を持つGivenにやっちゃいなよ、と唆す。


 嫌だ、と叫んだイオリの声は、この2人以外誰にも届かない。



 後に、この研究所は潰されたという。


 どうやら被験者と研究者2名が暴れ回ったとか。Givenもたくさん生まれたらしい。


 世界中に散らばったGivenの行く末を、知る者は誰も居ない。Givenは死なない。

ノーマルは死ぬ。何が起きているのか、事実を誰一人として最後まで追い切れないのだ。

 

 Givenたちの夢が叶う瞬間も近かったりして。

 それは、神のみぞ知る。

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Given 春タ。 @1882

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