第20話『彼は戦う 相棒が夢から醒める前に』

「先生!ブースト剤!」


 迫りくる戦火から逃げながら、耳元の通信機に向かってサクは叫ぶ。政府の軍が少しでも塔に近づかないように、夜な夜な街に繰り出して戦うのも、悲しいかな、慣れてしまった。


 爆撃の音も、燻る硝煙の香りも、立ち上がるオレンジの炎も、自分だけが見ればいいし、聞こえればいいし、感じればいいし、覚えていればいい。



 研究所は司令室へと様変わりしていた。


 大小様々な大きさのモニターが壁を埋めつくし、塔の周りをぐるりと囲うようにして付けられた小型カメラの映像を映していた。


 ジジっとノイズの後、机に投げておいた通信機からサクがブースト剤を求める通信が入った。チッと軽く舌打ちした後、イオリは白衣を翻して部屋を出ていく。


「……シノ、」


 しばらくの後、1人になった部屋で、少し弱い声のサクから通信が入った。


「んー?」

「リツは?ちゃんと寝てる?」

「寝てるよ、」


 そっか、良かった、と彼からの通信は途切れた。


 シノはモニターから振り向いて、部屋の隅で毛布にくるまって横になるリツに目をやった。打たれたブースト剤の影響で、記憶の記録を拒否しているリツは、眠りの海を漂っている。


 本人は、ブースト剤を使うことにあまりいい顔をしていないのだが、片割れ的な存在のサクからの強い希望には抗えなかったようだ。



 サクは戦う。

 リツが夢から醒める前に、そっちに戻って、起きたら1番に自分の笑顔を視界に入れる為に。戦いなんてなかったんだよ、と記憶させるために。



 ーーー


 サク ブースト剤使用時

 鋼の肉体+治癒


 リツ ブースト剤使用時

 記憶の記録拒否

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