第17話『気づく』

『気づく』


「今日もどこかに行くね、レイ」

「ね、」


 部屋の窓から、建物の入口から出ていくレイが見えた。


 リツは窓枠に頬杖をつき、それを見送る。いつの間にか狭い窓枠の隣にするりと入ってきたサクの声は、薄い紺が染め始めた早い夜の空気に溶けていった。



 レイとすれ違った時、懐かしい香りがした。それはなんなのか、と言われてしまったらカエデは思い出せないが、懐かしい香りとだけは言える。


 嗅いだことのある香り。記憶に残る香り。


 自分の過去にあまり良い思い出は無いので、良くない香りだということはわかる。



「レイ、」

「ん?」


 ナギは、呼び止めて振り向いた彼の頬に入った、痛そうな赤い筋に目を奪われた。

 それ、とナギの指が、頬の傷を指さす。


「転んだんだ、」

 

 ドジだよね、と笑う彼。転んだという割には服が汚れているわけでも、そこ以外に怪我をしているわけでもなく。頬の傷は転んだにしては不自然に思える。


 まるで、なにか素早いものが掠った、ような。


 思い違いかと頭を振って、くだらない思考をどこかにやる。



 ほんの思いつきで。ただの気まぐれで。

 夜、建物を出ていった彼の後を、闇に解けながら着いていった。


 どんどん建物から離れていく彼。

 どこかでおどかしてやろう。そう思っていたのに。


「……どういうこと?」


 兵士らしき人間らに囲まれ、彼は銃を向けられている。

 彼が打たれてしまうのが先か、俺が闇に引っ張りこんで助けられるのが先か。


「レイ!」


 驚いた顔がこちらを振り向いた時、パンパンパンと不揃いな乾いた発砲の音がした。

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