魏(ぎ)

 商鞅の改革により、国家基盤を強化した秦は紀元前350年には都をようから咸陽かんようへと遷都した。

 秦の孝公は天子から贈り物を受けた。これは天子が孝公を覇者と認めたことである。

 

 遷都の十年後。商鞅は魏に侵攻するよう孝公に進言した。

 「魏は中原の富を独占し、有利とみれば秦を攻め、不利と見れば東国を狙います」

 孝公は黙って商鞅の話を聞いていた。

 「魏は先年、斉との戦いに敗れ将軍の庖涓ほうけんを失い、国力が弱まっています。攻めるなら今が絶好の機会です。魏は我が国の攻撃を防ぎきれず、東に都を移すでしょう。そうなれば我が国は山河を要害にして東方の諸侯を制圧できます」


 孝公は納得した表情を浮かべ、商鞅に魏への侵攻を命じ、秦軍を指揮するよう命じた。


 商鞅は魏に侵攻した。対する魏は公子仰こうしこうを総大将に任命し、出陣した。

 両軍は対峙し、そのまま時間だけが過ぎていった。

 商鞅は公子仰に親書を送った。


 私は魏の公叔座宰相のもとで仕えてまいりました。このたび、魏と戦うことはとても悲しいことです。できれば直接お目にかかり、和平を誓い、お互い兵を退きましょう。そうすれば、我が国も貴国も安泰となりましょう。


 親書を読んだ公子仰は商鞅と会うことを使者に伝え、日を定めて二人は会見した。

 だが、この時商鞅は兵を待機させていたのである。


 公子仰の側近たちに矢が放たれ、兵が雪崩のように会見場に突入してきた。

 「謀ったな!商鞅」

 公子仰は目を見開き怒鳴ったが間もなく捕らえられた。

 「商鞅よ!お前もいずれ人に裏切られるぞ」

 商鞅は聞く耳を持たず、総攻撃の合図を出した。


 秦軍は攻撃を開始した。士気は極めて高かった。軍功を上げた者には、その程度に応じて爵位を与えるという法があったからである。

 公子仰を失った魏軍は大混乱に陥り、敗走した。

 魏はすぐさま和議を申し入れ、河西の地を秦に譲ることで合意した。

 先年に斉に領土を削られた魏は不安にかられ、首都を安邑あんゆうから大梁だいりょうに遷都した。


 この功績により、商鞅は商・於(河南省商県)の地を賜った。

 (商鞅・商君と呼ばれるのはこの時からである。)

 

 そんな商鞅に特権を奪われた公子や貴族は不満を募らせていた。

 そして孝公が死去すると、商鞅の運命は大きく変わることになる。


     ----続----

 


 

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