飛躍(ひやく)

 孝公は商鞅とともに庭を歩いていた。


 「商鞅よ。そなたの作った法は評判が良くないぞ。国内に不満の声が高まっている」

 「何事も新しいことには時間がかかります。それに問題なのは上の者が法を守らぬことです。上の者が守らなければ、人民はついてきません」

 「上の者?」

 孝公は少し驚いた表情で商鞅を見つめた。

 「太子は毎日贅沢な暮らしをしています。これは、どんな金持ちであっても功績をあげなければ贅沢は許さないという法を犯しています。罪に問わねば、人民はますます法を守らなくなりましょう」

 「待て商鞅。太子は世継ぎだぞ」

 孝公は驚き、声を荒げた。


 「国を強くするための法です。太子であっても罰せねばなりませんが、世継ぎの太子を罰するわけにはいきません。この罪は太子の侍従長である公子虔こうしけんと教育係の公孫買こうそんかにあります。この二人が太子に法の大切さを説いていれば法を犯すことはなかったはずです。この二人に罪を与えることをお許しくださりますよう。人民もこれを聞けば法を守りましょう」


 孝公は苦虫を嚙みつぶしたような顔をして

 「わかった。お前に任せる」と言い残し、足早に去っていった。


 こうして公子虔は鼻削ぎの刑に。公孫買は額に入れ墨を入れられた。二人はそれを恥じてその後一歩も外に出ようとしなかった。


 この話を聞いた人民は懸命に働いた。働かずして貧しくなった者は奴隷をするという法があったからであった。

 10年ほど経つと、田畑は開墾され、税収は増え、国は富み、秦は強国となっていった。


 商鞅は少しずつ法を強めていった。その結果秦の人々は法に触れることを恐れ、道に落ちているものすら拾わないという粛然とした社会状況が生まれることになった。


 この功績により、商鞅は宰相となった。


     ----続----

 

 

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