朱倭国志演義

橘 泉弥

 逃げる事にした。

 王になるなんてごめんだった。

 前王の崩御に伴い、その継承争いが勃発した。

 そこまでは良かったのだ。そうなるであろうと、予想はついていたから。

 しかし、その抗争が自分の身に降りかかるとは思わなかった。新王が病弱であったために、重臣たちがすぐさま次の王を探すとは、思わなかった。

 宝劉は逃げた。

 逃げて逃げて、とある山里に身を隠した。

 そもそも、野を駆け山で兎を追い、川で小鮒を獲る方が、性に合っている。城に籠り書類に囲まれる生活など、想像するだけで背筋が寒くなる。王女らしく生きるなんて、自分には向いていない。

 自然に囲まれ、自由気ままに生きる。山里での暮らしは、そんな宝劉の願いを叶えてくれた。

 ずっと、この生活が続けばいいのにと思った。一生をここで過ごせたら、どんなに素晴らしいかと思った。

 しかし。

 そう思うのは、いつか終わると知っているから。終わりがあると分かっているから、ずっとずっとと望んでしまう。

 そして人の夢というのは、結局儚いものなのだ。

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