第3話 妹は実習訓練を行う

 ライデイン王国第一王子ファルカ・ライデインの朝は早い。


もともと王室育ちで規律の中で行きてきた彼にとっては普通のことなのだが。


勢いよくカーテンを開ける。今日はどうやら快晴のようだ。


「今日は…魔法の実習訓練のある日か」


返答の帰ってこない部屋でぽつりと独り言をこぼす。


「それにしても、我が父上は何故この学園へ入学させたのか」


1番の疑問であるところだ。


ライデイン王国にも魔法学園と呼ばれるものがある。それは決して劣ってるわけでなく充実している。


なのに何故?その疑問がこの数日頭をよぎり続ける。


”サリア・レスターヴ”が関係しているのか…?俺の担任がその妹なのも


あのシアという教師は信用できない。まだまだ俺と年も変わらない。


それが何故ああいった特別な対応なのかが気になる。


「今日の実習で確かめるか」


シア・レスターヴ…その実力を見せてみろ…!


先程まで晴れていた空は次第に曇り、やがて雷雨となった



      ◆◆◆



 窓の外を見つめてます。シアちゃん16歳。


わたしが早く学園に来ただけで天気が変わってしまったようです。アレって迷信じゃないんだ。


あ、今日の実習の表を作らなきゃだ。急ぎましょー時間はたっぷりあるけど


ふと誰かにトントンと肩を叩かれた。


「シア、表なら私が作っておいたよ」リリアだ。


昨日はあんな醜態を晒していたけど、出来る女だなぁ


「ありがとう!助かったよ」


「シアは絶対作ってないだろうなって思って…」


「その一言がなかったら完璧だったのに」


「え?!」


わたしがサボりなのが周りにバレちゃうでしょうが!


リリアが表を作ってくれたおかげで、することも無くなったので休憩室へ行こう。


「リリアー休憩室に行こ」


リリアはその言葉にえ?とびっくりしていたが、すぐに笑顔で、


「もちろん!シアから誘ってくれるなんて…‼」


だってストーカーされるのって嫌じゃない?


それなら公式に付いてきてもらおうと思ったからだよ。


わたしはリリアを引き連れ、ホームルームの時間まで休憩室で休んだ。




      ◆◆◆



 ホームルームの時間にて


「おはようございます。皆さん今日は待ちに待った実習訓練ですね!やっぱり魔法の醍醐味は実践ですからぜひ楽しんでください!」


だれお前?みたいなレベルで違う人なわたしです。


こういうの猫をかぶるっていうんだっけ。


教室はざわつきはじめる。


周りの子と「何属性使えるの?」とか「一緒にやろうぜ!」などの声。


これでこそ学校って感じだよね。いい雰囲気だ。


すると教室の外に大人数で誰かがやってきた。


5年生だ……


今日の実習訓練で1年生の見守りをやってくれるのだ。


でもそれは元々わたしの同級生だった人たち。気まずいだろうが。


みんなが5年生に気づく。


「あ!5年生だ!かっこいい…!」「強そうだなぁ僕もいつか…!」


そういった歓喜の声が溢れているが、わたしは違う。


5年生の担任がグッジョブサインをしてきた。


こっちは困ってんだよぉ!!


そんなわたしをよそに5年生は教室に入ってきた。


「「「え、シア?」」」


仲良しかよ、君たちは。


「そうだけど…何か?」こうなるから嫌だったんだよ。


「なんでここにいるんだい?」5年生の1人、大柄な男がわたしに問う。


えっと確か、エボルブだったかな。


「そりゃあ教員免許とって教師になったからだよ」


「そういうことじゃなくて君は転校したんじゃないのか?」


転校…?ああ!思い出した。中退の理由を転校ってことにしてたんだっけな。これは謝っとこう。


「実はそれはウソで、中退して教師になったんだ」


「「「は?」」」と呆気にとられる5年生。


この気まずい時間を終わらしたいよぅ………そうだ!


「まあまあ、話すと長くなっちゃうし早く実習訓練に行こうよ」


その場をなんとか乗り切った。




      ◆◆◆



 実習訓練室に着いた。ここは昨日入学式をしたところだ。


なんて言うんだろうな、まあとにかく広い、デカい、これに限る場所である。


「さてさて、みんな5年生と二人一組になって〜!」


ぼっちには厳しいコレを今は自分が言う立場なのが心苦しい。


わたしも最初は完全に余ってたからな…あれなんだろう目に熱いものが。


「先生、余りました」


「え?」


そこにはファルカがいた。なんでだよ。


どうやらわたしが中退したせいで1年と5年の人数が合わないらしい。


それでもなんでファルカ君なんだよ。


「じゃあ先生とやろっか〜」


ぼっちに刺さる言葉、先程のと同率1位のコレを…以下略。


「わかりました」


淡々と言う。やりづらいなぁ。


「みんな〜!二人一組を作ったら、魔法で自分が出来ることを5年生に見てもらってね!それを5年生が記録するから〜!」


今朝リリアが作った表を配る。リリア…ほんとにありがとね。


横にいたファルカがぼそっとつぶやく


「もうやっても良いんですか?」


「いいよ、先生に向かって打ってご覧」


たぶん全力でくるね。殺気混じりのが。


ファルカは詠唱を始める


「深淵より来たれり雷光よ、天駆ける稲妻の光よ、この地に終焉をもたらせ!」


詠唱が完了し、その手にはとんでもない量の雷が集まっている。


「エレクトロキュート・エデン!!!」


これは…相殺するしかないやつだね。


てか、しないとここの人全員死んじゃう。


目には目を魔法には魔法を


よってわたしも魔法で対抗する。


「氷魔法、アブソリュートゼロ」


球体の形をした雷のまとまりが向かってくる。問題ない。


わたしから放たれた氷の霧はそれを包み込み収束する。


そして激しい爆発音とともに爆ぜた。


だが、誰にも怪我はないし、どこも損傷はない。


建物や人には影響がない範囲の爆発に抑え込んだからね。


にしても、もの凄い威力だった。


少なくとも既に軍隊に入隊できるレベルだ。


ここにいる5年生も相手にならないんじゃないかな。


わたしはそこに立ち尽くしている少年を見つめる



      ◆◆◆



 ありえない、全力の一撃だった。


自分が持っている中で最高の魔法「エレクトロキュート・エデン」


今まであの技を受けて無傷な人などいるはずもなかった。


それが止められた。しかも無傷。


さらに、まだまだ余裕の有りそうな感じだ。


辺りはざわついている。


「すげえ」やら「おいおい」といった声が聞こえる。


その歓声の中に立つのはまさしく最強。


白銀の髪を揺らめかせ、強い黄色のメイズの眼が俺を見ている。


名前はシア・レスターヴ、ただの教師だ。


決して軍人でもなければ、俺と年も変わらないただの少女。そう侮っていた。


どうやら俺は井の中の蛙だったようだ。アレには勝てない。


ふと目の前の最強はにこやかに笑った。


どういうことだ?


「ファルカ君、ちょ〜っと威力が強すぎだったんじゃない?みんな怪我しちゃうよ」


訂正、最強じゃない化け物だ。


この化け物は自分の心配など最初から微塵も考えてなかったのだ。




      ◆◆◆



 今の魔法はとんでもなかったね、食らったらやばかったよ。


わたしじゃなくて周りのみんながだけど。


多分5年生も消し飛ぶね。


「みんなは実習を5年生と続けててね!わたしは少し席を外すから!」


そう言ってファルカについてきて!と言う。


「なんでついていかないと…」なんて言ったので、


ニッコリ微笑んでわたしは言う。


「さっきの魔法みたいに消えたくなかったらついてきてね!」


ファルカから血の気が引き、おとなしくなった。


それにしても人目のつかないところ…そんなのあったかなぁ


どこで話を…と思っていたとき、休憩室が目に入った。


そうだ!休憩室にしよう!


わたしとファルカは別荘とも言えるほど活用している休憩室に向かった。






 「先生、なんで連れ出したんですか」休憩室に入るとファルカが聞いてきた。


わたしはコーヒーを二人分淹れて、ファルカに手渡す。


「それをこれから話すんだよ」とわたしが言うと、


「俺、コーヒー飲めないんですけど」と言ってきた。


まったく生意気なやつだなあ!!美味しいでしょ!


「ものは試しだから飲んでみな」と促す。


「そこまで言うなら…」


ファルカはちびっとだけ飲んだ。


「まずい」「慣れなさい」


これだから子供舌は…まぁ普通に休みに来たわけではない。


さて、本題に入ろう。


「ファルカ、君はもう少しで人を殺めるところだったんだよ。この意味は分かる?」


「わかりません」


「あの魔法の威力は軽く一つの部隊を壊滅させれる威力だったの。だから本当に危険なの」


例えるなら、部隊がリスだとして、ファルカの魔法はクマだ。


「でも、本気でやらないと意味がない」そのとおりだ。


「そうだよ、だけど時と場所を考えて欲しい。君は一国の王子様でもあるからそういう常識を身につけていってほしいの」


ただ魔法を学ぶだけが学校ではないと知ってほしい。それだけなのだ。


「……父上がそう言った」


「え?」


「父上が実践こそ本気でしろと言った。だから俺はそれを守ったんだ。それはダメなことなのか?」


約束…といったところかな。


ここで受け止めるのか、それとも否定するのかが難しいところだ。


普通の先生だったのならね。


だが、わたしは違う。この子を見守れる。


いや見守って見せるから。


「分かった、その代わりわたしのいるところで本気を出すこと。これは約束よ」


「それなら守る。ライデイン王国第一王子の名に懸けて約束しよう」


こうしてわたしとファルカは約束をとりつけた。


さて、戻るとしますか。




      ◆◆◆



 実習訓練に戻ってきたわたしとファルカは驚きの光景を目にする。


みんながぶっ倒れてるのだ。一体何が……!!


すると1年生がひとり起き上がった。


そしてそのぶっ倒れていた中のひとりが事情を説明してくれた。


「さっきのシア先生やファルカくんみたいな魔法が撃ちたくてみんな頑張りすぎたんです」


良かった、そんなことだったんだ。


入学早々、魔族かなんかに襲われたのかと思った。


もし襲われて死んじゃったら、わたしの責任だし大変だぁ


「なら良かったけど、みんな魔力がもう無さそうな感じなのかな?」


「「「「「「「はい…」」」」」」」


…………実習訓練これにて終了します。


無くなるまで撃ったら、襲撃されたときどうするのよ。


すっかり平和ボケだね。まぁもう3年も魔族が確認されてないからしょうがない。


「じゃあ今日の実習は終わり!ホームルームに戻って休憩時間にしましょう!」


「まじで!」「何しようかな〜」「シア先生とお話!」「胸ちっちぇ」などの声。


ん…?


おい…!誰の胸が小さいだぁ?もっぺん言ってみろクソガキ


あれ、1年生ではないようだ。と、いうことは…


5年だな、ぶっ殺してやる。


みんなは先にホームルームに戻っててね!先生は馬鹿を叩きのめさないといけないから!」


「はーい!先生あとでお話しようね!」


「もちろん!」生徒たちが続々とホームルームに戻っていく。


それと同時に5年も戻ろうとする。


誰が言ったかなんて検討はついてるよ。


「待って、誰の胸が小さいだって?エボルブくん……?」


いま最高に悪い顔をしてる。


「い、いやぁシア…聞き間違いじゃぁないかな…?」


鉄拳制裁。


「うらぁッッ!!」


「ぐへぇっっっっ!」


思いっきりほっぺをぶん殴ってやった。


スッキリしたのでこれでよし!


わたしは鼻歌まじりでホームルームへ向かっていった。




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