第2話 妹は遅刻しなかった

教師になる。それはわたしの唯一の親友の夢であった


親友はとある事件がきっかけで命を落としてしまった


わたしの脳内に親友の言葉が思いだされる


《私の将来はね、教師になって休みの日はシアと遊んで…そういう人生を送りたいんだ》


その夢の代理って言ったら軽薄だと思う


でも、彼女にできる恩返しといえばそれくらいしか思いつかなかった


この話は入学したての生徒に話す内容ではない


きっと彼女もそれは望まない


だからわたしは覚悟を持って言う


「今はまだ話せないかな、いつか、いつか話すね」


予想外だったのだろうか。生徒たちは呆気にとられている


その中でただ1人口を開いた


「……わかりました。話してくれる日を待っています」


ファルカはそう返した


結局、この微妙な空気は変わらないまま自己紹介は始まった


一日目は好きなものと特技を話して終わったのだ



      ◆◆◆



 「さようなら先生、また明日!」


あの空気から何かを察したのか生徒たちがやけに優しい


最後の1人を送り出してから、わたしは休憩室へ向かう


うっぅう……みんな優しいよ…


現在の涙腺はよわよわである


休憩室につくとアイスグリーンの髪をくるくるさせながらミルクティーを飲んでいる女の人がいた


わたしは休憩室に入り、コーヒーを手に取る


するとその女の人はハっと気づいたように、


「シア!来たんですね!お疲れさまです!」と元気いっぱいに言ってきた


「リリア…どうしてまたここにいるのよ」


やたら休憩室でこの子と出会う最近である


まだ3・4回しか来たことないのに毎回会ってるんだよなぁ


「休憩したい気分だったので来たらたまたまシアがいて!」


絶対ウソだな


よし決めた。こらしめてやる


「えーでもわたし達さ、毎回あってよね〜?」棒読みで言ってやった


こういうのは棒読みのほうが効果がある。持論だけどね


「え、えっとぉ、それは……」焦りの表情が見えてきた。あとひと押し


「やっぱり偶然にも程があると思うんだよねー」


リリアはその言葉にビクっと震えた


こういうところがまさに小動物


「友達だから隠し事はされたくないなー」わたし悲しいの!なんて似合わないことをする


リリアの表情はどんどん曇っていき、うっすら汗も浮かべている


ふっふっふ〜♪わたしを相手に隠し事など100年早いわ


裏切り者の拷問を任されたこともあるんだからね


「どうしたのリリア?汗すごいよ、何か言いたげだし…」


上目遣いで追い打ちをかけていく


「あ、あのっその、えっとpytgらbsばば#&」


なんて?これ言葉ってレベルじゃないぞ


わたしが困った表情をするとリリアが


「わかりました、言いますぅ…」と諦めた


ちぇ、もうちょっと遊びたかったなぁ


「私、シアに憧れてて、シアが学生の頃から追いかけてたの………」


この世の終わりみたいな感じで言ってきた


え、てか学生の時から見られてたの?知らなかったんだけど


なんでそんなことをしたのかな?って言いたいけどリリアのライフは0なのでやめておこう


「まぁ次から気をつけてくれればいいよ」


リリアはその言葉に泣き崩れてしまった


ど、どうしよう…泣かしたみたいになったじゃん…泣かしたのは間違いないけど


「うわあぁぁぁぁあぁあああぁん…ひぐっズルっうぇぇええええぇんん」


…………謝ってから帰ろう




      ◆◆◆




 泣きじゃくるリリアに謝ってから学園をでた


あのままにしといて大丈夫かな、とも思ったが相手は大人なんでなんとかなるんじゃないかと思って帰った


リリアって本当に歳上なのか?と疑ってしまうほどに幼い気がする


家についた。でも先に小屋へ向かう


家に入る前に餅丸くn…餅丸ちゃんを撫でるのが日課だからだよ


小屋に入ると眠たそうな餅丸が迎えてくれた


「うぅぅぅ〜〜!!よしよし良い子にしてたか〜?」餅丸をめちゃくちゃに撫でる


今日もいろいろあったなーなんて考えながら撫でまくる


”コケココッ!コッケッケコッ!!”


おっと餅丸が怒り始めたのでやめて家に入ろう




 家に入ると、いかにも高そうなお肉を使ったステーキがあった


「ただいまーこれどうしたの?今日ってなんかの日だっけ」そこにいた母に聞くと


「実はね…ママ奮発しちゃったのよ!」質問にちゃんと答えてくれぇ


一体何の日なのよ


おいおい、それは酷いじゃないか、と誰かの声がする


いつもは絶対にいない兄がそこにはいた


「僕が買ってきたのにさ、これじゃ後で言った僕が嘘ついてるみたいじゃん」


雪のように白い髪に、ルビーのような深紅の瞳を持ったイケメソである


「久しぶり、シア。就職祝いに来たよ」


「ありがとう。だけどお兄、王様のなのに勝手に出てきていいの?」


「妹の就職祝いの方がよっぽど大事じゃないか」


さてはコイツ、抜け出してきたな


「抜け出してきたの?」


「だったらどうする?」


図星っぽいや


「そんなことより早く食べようよ、せっかくのお肉が冷めちゃうよ」


うぅ…お肉には逆らえません。いただきます


えナニコレいつもの肉と全然違うんですけど。うっま


美味しすぎる…これがシェフの味ってやつか(肉が良いだけ)


「ふふふっ美味しいなら良かったよ」


お兄が笑ってくるが関係ない、今はおにk…うっま




 さいっこうのお肉タイムが終わり、兄と対面で話している


どうやら今日中には城に戻らないといけないらしい


「母さんたちがいたから言わなかったんだけど、シア、悩みあるでしょ」


はぇなんでそんなこと分かるんだよ


「ちょっとした読心術で読ませてもらったんだ」


「もうお兄に隠し事できないじゃん」


ハハハっと誤魔化す兄、こっちとっては大問題なんだけど?


「それで…あの日のことだよね。悩みのタネは」


「そうだよ」そう、あの日


それはわたしの唯一の親友が”殺された”日。忌まわしい魔族の幹部によって


それと同時に、兄が英雄となった日


「僕が悪いんだ。もっと早くに来ていれば……」


「いいや、お兄はなんにも悪くないよ。悪いのはあの魔族なんだから」


「っ…!うん……そうだね…」何か言いたげな様子だが、それがなんなのかわたしは分からない


お兄と違って読心術は使えないから


「ただ、気負わないで欲しい。それだけだよ」


「分かってるよ」


最強の兄からの助言。これほど大事なものはない


あ…天啓きた…!!


お兄からかいまーす!


「ねえお兄、ニーナちゃんに会ってから帰ったら?」


多分、今すっごい悪い顔してる


ちなみにニーナちゃんってのはお兄の幼馴染のシスターの子


「シア何言ってっ…!母さんに聞こえたらどうすんだよ‼」


え、まだ親にすら言ってないんですか?


貴方、10歳の時から好きで、今20歳なんですけど。


はぁ…このヘタレは…もう!


内心ため息混じりだが、からかうのはやめまい


「で、会うの?会わないの?」にまにましながら聞く


「…会います」なんだ可愛いじゃんか


正直でよろしいことで


「じゃあ頑張ってね!また家に戻ってきてね!」


わたしはお兄を快く送り出した


「分かってるよ。シアも元気にしておくんだよ」


そう言ってお兄はドアを開け、暗闇に消えていった




      ◆◆◆



 朝、今日はだいぶ早く目覚めてしまった


「ふぁ〜ぁぁ…」眠い目をこすり、洗面台へ向かう


そういえば今日は魔法の実践訓練だったな、みんなどれくらいの実力か気になるね


<ゴーンゴーン…ゴーン>


教会の鐘が鳴り響いている


あ、お兄は昨日ニーナちゃんに会ったのだろうか


時間もあるし確かめに行こう!


わたしは素早く支度をすませて、教会へと向かった




 教会の前では修道服を着た少女が掃き掃除をしていた


少女と言っても4つ上の人なんだけどね


この人がニーナちゃんである。お兄と絶賛”両片思い”中の


「おはようニーナちゃん、久しぶりだね」わたしは声をかける


「シアちゃん久しぶり!会いたかったんだよ!」


うおっ!笑顔が眩しすぎる


ニーナちゃんはプラチナブロンドの髪に群青の瞳のロリ体型である


身長は150くらいだった気がする


「ねえねえ、昨日お兄と会った?」早速本題へいこう


「うん…サリアくん、また背が伸びてイケメンになってたよ」顔を赤らめてそう言った


「嬉しかった?」


「もちろん!最近会えてなかったから寂しかったもん!」ふんす!と言わんばかりの勢い


わたしの周りの年上ってもしかして幼い子が多いのか…?特にリリア


でも、ニーナちゃんのは恋ゆえの感じがするね


なんかオーラが滲み出てるもの。羨ましいなぁ


生まれてこのかた恋をしたことがないからなー


そんなことを考えていると教会から神父が出てきた


「ニーナ、すまないが椅子の掃除を手伝ってくれるかい?」


「わかりました!ごめんねシアちゃん、またじっくり話そうね!」


最高の笑顔でそう言ってくれた


「うん!また話そ!」


わたしも(なるべく)最高の笑顔でそう言った




 ニーナちゃんと別れて家にて


急に学園にもう行ってしまおう!と思った


まだ一時間前だけど遅れてばっかりもあんまり良くないから丁度いい機会だ


そうしてわたしは、そそくさと家を出た




      ◆◆◆



 「おはようございまーす」


教員室に入った瞬間すごい視線を感じた


え、なに?なんかやらかしちゃってるの?


するとリリアが駆け寄ってきて


「シア…どこか具合が悪いの?悪いなら無理してこなくても…」


「え、わたし具合悪くないよ?」逆になんでそう思ったんだろう


「だってシアがこんなに早く来るなんてありえないから…」


待て待て、ありえないって何?そんなに遅刻しまくってたの?わたし


「今日は雨ですかね…」学長まで言ってきた


今、雲ひとつもない快晴なんだけど…


「わたしってそんな遅刻しているんですか?」と皆に聞くと


口を揃えて《そうですよ》と言った


まじですか、そんなになんですか


窓の外を見ると、さっきまで快晴だった跡形もなく雲に覆われている


そして大雨になり、雷がなり始めた


《やっぱり》


またしてもぴったりハモった


どうしてだあああああああああ!!!!

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