家族という呪縛 首の鎖 宮下真冬 講談社文庫
人生のほとんどを祖母と母の介護と店の手伝いに費やしてきた
心療内科で出会った二人は次第に心を通わせていく。家族への複雑な感情を初めて人と共有できた二人。
そしてある日顕から「妻を、殺してしまいました」という電話を受ける瞳子。「すぐに行くから、待っていてください」と、自首しようとする顕を止めて、彼女は遺体を隠し顕を守ろうとするが……。
200ページほどの作品だが、物凄く分厚い物語がそこにあった。
毒親、搾取子、介護、嫁・姑問題、DV。これだけのものを詰め込みながら全く無理がなく一気に読ませる。
読んでいる間中、瞳子に自由になって欲しくて、幸せになって欲しくて切ない。正直言って瞳子以外の登場人物は大体嫌悪感を覚えるタイプばかりだ。顕ですら例外でない。顕の妻のDVや束縛を肯定はしない。ただ顕自身も同情だけしていられるタイプの人物ではなく、瞳子に対する思いも母の投影であったり彼女なら妻と違って家族に尽くしてくれるだろうという思いからなのだ。夢も希望も持てず暗い顔をして、女としての自信など到底持ちえない瞳子。そんな彼女が顕と出会ってほんの少し幸せを感じたり未来を感じたりする様は切なく可愛らしい。けれど結局は顕も彼女の首に鎖を巻くタイプの男なのだ。
その証拠に妻の遺体を始末してからの彼は瞳子に対して以前のようには接してくれない。それどころか自分の知らなかった妻と母の繋がりを知り後悔さえ覚え始めている。結局のところ彼は何も見ていなかっただけの男だった。それでも彼が今の環境から連れ出してくれる相手だと思っている瞳子の切羽詰まった感情が胸に迫る。
誰かに連れ出してもらわなくても家族を捨てることだってできたはずだと思う人もいるかもしれない。けれど子供の頃から瞳子に植え付けられた呪縛は強固で、容易に振り切ることはできない。きっと瞳子も心のどこかでは分かっていただろう。いいように使われていることを。
それでも彼女は家族から必要とされていると思いたかった。自分がいなければ母は困るはず、店も回らないはず。彼女の首に枷をかけのは家族かもしれないが、鎖をつないだのは彼女自身かもしれない。鎖ではなく絆だと信じて。けれど彼女は見てしまうのだ。手放しで兄に甘える母、バイトと父と兄で回る店。そして神田との時間すら彼らが瞳子を手放さないためにあてがったものだったと知る。ただ便利使いされる存在。家族にとって必要な存在、という彼女の拠り所は
けれどそれで良かったのだ。彼女は鎖を断ち切る決心をするのだから。
顕のために犯した罪がどう彼女に降りかかってくるかはわからない。それでも、このまま家族に縛られるよりはよかったのだ。
これからの彼女は彼女のための人生を歩むのだろうから。
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