第58話 王都に迫る闇 4


 王都グスロット見下ろす、上空だった。


「こないだ倒しちゃったさぁ―――あれでよかったの?」


 女が不機嫌そうに声をあげた。唸り声のようでもある。

 声量は大きい―――というよりも、大声でないと、相手まで聞こえないのだ。

 風速が強い。


 雲が頭の上を流れていくし、風が通り過ぎていく。

 その密度にはムラがあった。

 ふと、故郷のことがフラッシュバックする。

 歩いている時に、車道を通り過ぎていく車———その風のような感触を、女の肌に与えていた。

 

「あれで よかった のッ!?」


 もう一度、ハキハキと声をあげた女———風に負けないように、相手に届くように。

 鳥の鳴き声のようでもある。


「聞こえている」


 その男は顎をあげて応じた―――だが視線は女に向けていない。

 と同軸である。 

 なびく金色の短髪のみが、女から見える。あとは闇のような衣。

 あれでよかった―――男は話す。

 何の件なのか、男にはわかっていた―――魔獣討伐についてだ。


「あの土厳塁根どげらいね———街に近づき過ぎた。人類王都の兵に狩られるのは時間の問題だ」


 討伐は、視界が良い日中に限られるだろうが―――と、男は思案している。

 モエルが接敵した大型魔獣。

 過程はどうあれ、危険性があるなら討伐されることは目に見えていた―――誰がやるか、という違いはあるだけで。

 魔導士、地の果ての人、王都の衛兵……。

 女が不機嫌そうならば、男は面倒そうであった。


「ふうん……!」


 男は意外性を感じ、喉を鳴らした。

 いつの間にか、女が近い。飛竜の背を伝ってよじ登ってきたか。

 女は無言だ。

 ただ、聴き逃すまいといった態度だけが、金髪男の目に映った。


「貴様が『地の果ての人』であることはわかった」


 もう上出来だ、と相も変わらず呟くように言う。

 そうですか、と女は無表情で思うのみだ。

 チノハテ……それがなんなのか、こっちに来たばかりだからよくわからないけれど。

 試されたようで、実験されたようで、むず痒い。


「そんな呼ばれかたしても、しっくりこないんだけど」


 この世界の用語らしい―――この、異世界の言葉。


「それってアタシのチカラのことよね?」

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