第47話 王城の食事会


 テーブルの上に、豪勢な料理が並べられた。

 モエルは落ち着かなく座っている。

 何人か、王女の側近らしい男女が食卓を囲んでいて、食事が始まると皆、モエルに好意的に挨拶をした。


 ミキを助けた……逃亡の手助けをしてくれたことに感謝。

 形ばかりなのかもしれないが、とにかく状況に揉まれるのみのモエル。

 特に声の大きかった男は、王城での騎士団の団長、副団長だということだ。

 レイネ次期王女の親衛隊と言ったところか?


「どうぞ、ご遠慮なく」


 フレンチのフルコースなど、ついぞ食べたことのないモエルだった。

 いや、フレンチなのかどうかはわからないが。

 マナーは考えるだけ無駄だろう……住んでいた『あの世界』とは違っていると考えてよい。


「良いもの、食べているんだな……ですね」


 いただきます。

 ではなく―――いただいていいんですか、コレ?

 緊張のモエル。

 食材の質が、良いものだとわかる……料理を嗜んできた自分だからこそ、というのもあるが。

 異世界こっちに来てからというものの、グスロットで出来るだけ安い店を探して腹の足しにしてきたモエルだ。

 庶民的なものを好む。



 見ればミキも黙って食べている。

 どうやら黙っていればちゃんとした性質に見える。

 よくよく見れば不機嫌そうに見えるのだが、まあ気のせいだろう。

 一時的な気の迷いは誰にだってある。

 だってこんなに飯は美味い。


「そう思っていただけると嬉しいです」


 笑顔の繰り出すペースはミナモと同じ位か。


「こうやって食事にありつけるのも、皆様のおかげです」


 はあ、御謙遜を。


「いえいえ、特に、あなたたち地の果ての人のおかげなのですよ」


 街の話や、この世界の話をされた。

 危険な魔獣は、今も世界にはびこっている。

 人間の力はとても小さくて……魔獣討伐をすることで続けることで、安全な生き物を飼育したり養殖したりできるということだ。


 地の果ての人オレたちを軽率に褒め続けている……俺はそれを黙って聞いていることしかできない。

 まあ、ミキの言葉よりは印象がいいけれど。


 モエルは落ち着かない。

 それは、偉い人たちに囲まれて、裁判官から尋問を受けるような心持になっているということもあったが。


 料理はことごとく美味かった。

 美味すぎると言っていい―――ソースが光る、輝いている。

 だからこそ、最近の生活や、日本にいた頃と違う味覚が試される。


 レタスかと思えばハーブのような清涼感。

 鶏肉かと思えば妙に脂身が内包してあったりもする。

 総じて、見覚えのない食材だ。

 料理をしている男だからこそ、困惑してしまう。

 どうリアクションを取ればいいって言うんだ。


「お口に合いませんか?」


 王女は首を傾げる。

 料理は全然悪くない、食べ物に罪はない、とアピールするモエル。

 口に合わないっていうのはおかしい、合わないとしたら俺だ。

 なぜ俺はここにいるのか。

 それなりの調理スキルを持つモエルである、異世界でもそういった考えは共通のはずだ。


「それとも、わたくしにご不満でもあるのかしら……女性との折り合いが、よろしくないとのことですし」


 煮物を頬張り、ニコニコしてしまっていたモエルは、動きを止めた。


「おいおい、ミキよ、そんなことを言いふらしたのか―――話が早くて助かりますねェ~~!」


 歯ぐき見せ、にやけるモエル。

 ミキは手を止めて流し目だけを向ける。


「リイネ、それは……」


 火属性男は本当に、癇に障るというか、なんというか。

 そもそもに、この男に呼び捨てを許した覚えはないのだが……。

 ……やはり友人に紹介すべき人間ではなかった。

 第一印象は悪いし、第二印象があったとして、別に好感などあったものではない。

 王族の前に立つなど、沙汰の限り。


 いまこのような状況にあるのは、他でもないリイネが、どうしても話がしたいと言ってきかなかったからだ。

 彼女は彼女で、言い出したら聞かない性質をしている。

 モエルは、くだんの男は続ける。

 あまり機嫌が良さそうではない。


「本当のことだぜ時期王女さまよぉ。で……それでどうする?」


「どうしようにも、問題はありません」


 レイネはミキを手で制す。

 流石に次期王女には頭が上がらないらしい暴力的女剣士は、おとなしくなっている。


「モエルさま。あなたには御恩があります、ご縁もあります。あなたが女嫌いだというのなら、私は男好きでありたいと思います」


 モエルは黙って聞いていた。

 まあそのワードのセレクトは周囲から誤解を招きそうだが、まあいい。


「モエルさまは、男性を非常にお好きであるということでしょうか。 わかりましたわ。それは―――私がとやかくいうモノではありませんわ、それは結構です。人によって趣向は違うものですし、大衆の迷惑にならない限りは、そういう自由は―――」


「ははぁ、面白いなアンタ」


 モエルは息を吐いた。

 この王女と、言い争いはしない、ミキだけで十分だ。

 女は嫌いではあるが金持ちのことは、嫌いではない……差別賛成派になるつもりなどないのだ。

 ましてや現在進行形で飯を奢ってもらっている。

 だが意見は言おう。

 王族だというのは本当らしいし、今後二度と会えない可能性は高い。


「王女さま、リイネさんよ……俺は女が嫌いだ」


「存じております」


 別段傷つきはしないリイネ。

 時期に立場が変わる、次期王女。

 異性が苦手な人間など、間々ままいるだろう。

 わざわざモエルに言いはしないが、城の中にも様々な人間が住んでいて、なかには理解に苦しむ言動の者も存在する。


「……ただ、ただな……女に優しくしたことがある」


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