第2話 過去

 書類を見続け、康介はため息を吐いて時計を見た。時計の針は丁度昼の12時になっていた。


 弁当などは今日のことが合って貰ってはいないため、会社の食堂で食べることにした。


「先輩」

「ん? なんだ」

「今日のこと、奥さんに言いましたか?」


 聡の言葉に、「しまった」と声が出た。あの残酷な光景を目の当たりにしてすっかり百合に報告の電話をするのを忘れてしまった。


「やばいやばい。ありがとう聡。教えてくれて」

「いえいえ、あっ、食堂行くんすけど。先輩、今日弁当は」

「今日、事件のことで急に読みだされたから弁当持っていないんだ。金払うから適当に選んで買ってきてくれ」

「わかりました」


 後輩に感謝をしつつ、康介は駆け足でトイレにむかった。


 個室の中に入り、百合に電話をするとすぐに出てくれた。


「あっ、あなた大丈夫。全然連絡くれないから何かあったんじゃないかなと思って心配をしたわ」

「あぁ、ごめん。ちょっと混乱をしていて電話をするのを忘れてしまったんだ」

「そう。ならいいけど、ねぇ」

「ん、なんだ?」

「聞いて悪いけど、樹さん、どうだったの?」


 百合の言葉に、康介は「だめだった」と一言呟いた。


「そう。お気の毒に、あなた今日は早めに帰るように頼んだらどう? 樹さんのこともあったし、何よりも朝早くから呼び出されたでしょ。だから」

「あぁ、それは大丈夫。今日はなるべく早めに終わらせて帰るから安心して」

「わかったわ、また何かあったら連絡してね」


 百合はそう言うと、電話を切った。個室を出ると、そのまま駆け足で食堂に行った。


 食堂に着くと聡が康介に気が付いたのか手を振って場所を教えた。


「ありがとう聡。本当に助かったよ」

「いえいえ。カレーで良かったすか?」

「あぁ、良いよ。はい、ご飯代」


 康介はご飯代を渡し、食べ始めた。


「それにしても、犯人早く捕まって欲しいっすね。なんせ殺されたなんて、怖くてのみにいくのとか控えちゃいますよ」


 聡の話しに康介は苦笑いをして、話を聞いていた。


 普段美味しいカレーがさっきのことで味がさっぱり感じない。ただ粘土みたいなものを食べている感じだった。


「それにしても先輩。今日早めに帰ったらどうですか? 奥さん心配していますよね」

「あぁ、それ妻にも言われたよ。出来る限りに早めに切り上げるようにするよ」

「いやいや、犯人まだ捕まっていないんでしょ。だったら早く帰ったほうがいいっすよ。そのほうが安全なんだし」


 聡の気遣いに感謝をしながら康介は「大丈夫。わざわざ心配してくれてありがとうな」とお礼の言葉を言った。


 二人は話しながら食べていると、壁に飾られているテレビから今朝のニュースが流れた。


「今日の朝、一軒家で無惨に殺された旦那の中山樹28歳を発見しました」


 ニュースに樹の笑顔でいる写真が写された。


 頭の中からさっき見た樹の写真が浮かんできた。康介はすぐに顔を伏せ、カレーを食べ続けた。


 康介はカレーを食べ終わると、聡に礼を言ってトレーを食堂に返してデスクに戻った。


 デスクに戻り、再び仕事を再開した。


 時計の針が四時になっても康介は仕事を続けていると、横から女の子が一枚の手紙を康介に渡した。


「康介さん宛ての手紙です」


 同期の女はそう言うと、自分の仕事に戻った。なんだろうと思い、封筒を見てみたが差出人は書かれていない。何だろうと思いながら封筒の中に入っている手紙を見ると、驚愕しそうになった。


 それは晴馬からだった。


 "康介、これから君たちがしてきたことをとっておきの復讐を用意している。待ってろ。晴馬”


 手紙に書かれている文字に体の震えは止まらない。息が荒く、すぐに康介は碧斗に知らせる為に駆け足で誰にも見られない屋上に駆け足で向かった。屋上に付き、スマホを開くと碧斗からだった。


 康介はすぐに電話に出た。


「碧斗。俺のところにあいつの」

「晴馬の手紙のことだろ。俺のところにも晴馬の手紙が来た。他の奴もだ。さっき電話が来た」

「マジかよ」


 久々にみた晴馬の字に、手の震えが止まらない。今も何処かで見ているのではないかと気にしてしょうがなかった。


「俺、直美に電話する。もし集まるように言われたらメールする」

「わかった」


 そう言うと、電話が切れた。康介はすぐにでも直美から貰った電話番号を打ち込み、スマホを耳に当てた。電話の音が一分間流れると直美の声が聞こえてきた。


「もしもし、どうしたの?」

「あっ、直美。来た。あいつの手紙が」

「晴馬からか」


 直美の言葉に「あぁ」と康介が言うと。


「そう。じゃあ今からにでも集まってくれるかしら。ここ数時間、短時間で調べたらとんでもない情報を掴んだわ。なるべく早くね。同じ所だから今度からは自分で来て頂戴」


 直美はそう言うと、電話を切った。


 康介は部長に警察にまだ説明したいことがあると言い、早退の許可を貰って再び警察署に行った。


 警察署に行くと、三人が暗い顔をしている三人が受付の所に待っていた。


「皆、あれは」


 康介があれと言うと、三人は同時に封筒を出した。唇を嚙みしめ、揃った四人は受付に事情を話すと受付の人も直美から事情を聞いたらしく、先に部屋で待って欲しいと願いされた。


 先に部屋に付き、同じく女の警察官がお茶を目の前に置いた。数分間待つと、真斗と直美がファイルを持ってきた。


「あの、送られてきた手紙がありますでしょうか?」


 四人は封筒の中身を開けて、二人の前に出した。


 直美はその手紙を険しい顔で見つめた。


「この手紙が送られてきたってことは、いつの間にかあなた達の会社も晴馬にバレていたのね」


 手紙を見て直美は呟いた。


「あのさ、直美」

「ん? 何、陽」

「お前が持ってきた封筒はなんだ?」


 陽は直美の横に置いてあるファイルを指を指して言うと、「あぁ」と直美は言って、ファイルをかざした。


「これは軽くし調べた晴馬の経歴。調べてみて、どうして復讐が遅かった意味を知ったわよ」


 直美はため息を吐いて、ファイルから紙を取り出して目の前に置いた。四人は見てみるとそこにはボサボサ髪の晴馬がスーツ姿で写っていた。


 履歴書を指差して、直美は説明した。


「まず、最初から言うと、晴馬は高校を卒業したらすぐに母親は病死。そのあとは自衛隊の学校に入学。おもに軍隊になるための場所よ」

「軍隊‼ あいつが!」


 あまりのことに大輔は驚きの口を出すと、直美は「えぇ」と一言言った。


「その学校に入学した時の状況を、今もいる軍隊の先生に聞いたら結構鍛えていたそうよ。それも誰よりも。練習もない日は学校周りを八週走ってね。で、結構な勉強熱心な人だったそうよ。特に一番熱心にしたのは理科と頬歳形をよく勉強していたわ。二か月立ったら一気に皆とは頂上にいたわ」


 昔の晴馬の成績だと、康介よりも下だったがそんなに勉強熱心だったのは流石に思えなかった。すると、真斗が話した。


「けれど、それを妬んでまたアンタらと同じく虐めた奴がいましたけど、なんとそいつらを全治二か月のケガを負わせたそうです」

「二か月の!」


 あまりのことに大輔は声をあげてしまった。


 それもそうだ。なんせ虐めている時はなんにも抵抗など出来ないほどの無力だった晴馬がその虐めた相手を全治二か月のケガを負わせるなんて出来ないはずだ。


「えぇ、真斗の言う通り全治二ヶ月、両手両足を骨折させたのよ。それもなにも武器を持たないまま素手で相手をケガを負わせるなんて相当無理なはず。相当な力持ちだったわ。でも、証拠もあったみたいだからただ注意を受けただけ。虐めた相手は晴馬を怖がって自分から退学届を出した。晴馬は注意を受けた後は大人しく生活を送っていたそうよ。でも、皆は晴馬の以上に怖がっていたみたいで距離を置いていたらしい」

「……それほど恐かったのか?」


 樹の言葉に直美は頷いた。


「中々恐かったらしです。それから、そのうち一人? その子達と中が良かったそうです。その後卒業したあとは渋谷区の居酒屋、水族館と遊園地の着ぐるみのいくつかバイトを掛け持ちしていたらしいです。今日は、仲がよかったその人の住所を特定したため、後で行く予定です」


 直美は紙をファイルに戻し、一息のため息を付いて手袋をはめて、透明な袋を取り出して一枚、一枚丁寧に手紙を入れていった。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい康介」

「なんだ」

「お前、なんで晴馬を虐めたんだ?」


 直美の質問に、康介や他の三人もどうゆう風に答えればいいのかよくわからなかった。


「わすれちまった。なんで虐めてたのか忘れたよ」


 康介がそう言うと、直美は「最低ね」と一言言った。


 直美の言葉に同情しながら真斗は話した。


「そうですよ! あんたらは虐めを忘れていても相手は死んでも忘れられない傷がつくんですよ! そんなあんたらの生活、康介さんの子供のために部下と課長の前で堂々と頭を下げたんです! そこんところ感謝してください」


 真斗は叫びながら四人に向かって怒った。


「ありがとう、本当に」


 康介は直美に感謝しかなく、ただ頭を下げ続けた。


「あんたらも!」


 真斗は三人の顔を見つめていった。三人も直美に感謝の言葉を出した。すべての手紙を袋に丁寧に入れると、銀の入れ物を二枚ずつ入れ終えると直美は手袋を取り出しながら疑問を口にした。


「あとは住所よ。晴馬がどうやって状所を特定したかよ。晴馬には親しい人はこの軍隊人だけだし、同窓会にも来ていない。どこもかしこも疑問すぎるわよ」


 頭を抱えて言った。それも康介たちも同じだった。何せ誰もが康介たちの住所なんて知る人なんていない。むしろ知っていたとしても誰もがそんなに口にはしない。


「あっ、今日そいつらの家行くからお金頂戴。私があなた達のことを黙ったんだから、そのくらいのお礼は出来るわよね」


 直美は手を差し出しながら言った。確かに無理言ってお願いをしたんだからそのくらいのお礼はしなきゃならない。


 康介は二万、三人は一万円しか入っていないのか一万を直美に差し出した。


「あら、こんなにくれるの?」

「あぁ、黙ってくれたお礼だ。そのくらい受け取ってくれ」

「そう。じゃあ遠慮なく」


 直美は財布の中にお金をしまい込んだ。


「あっ、そういえば駅にあなた方が写っていたんでアリバイ成立です」


 直美がそう言うと、樹と大輔はホッと胸を撫で下ろした。


「あとあんたらさ、何か他に視線とか感じたことないか?」

「視線? なんで」


 康介が質問すると、直美は説明した。


「実は、樹が働いている社長に聞いたら、なんでも噂では誰かに見られていると言っていたからな」


 直美の言葉に康介はまさかあの時もと思った。


「いや、そんなのは感じられなかったけど、康介とかどうだ?」


 碧斗は康介に質問した。


「実は、みんなとの飲み屋の帰りの途中、変な視線を感じたんだ」


 康介の言葉に、その場にいた者は驚きの声を出した。


「えっ! じゃあまさかあいつ、樹を最初殺すためにあんな寒い中ずっと待ってていたのか」と大輝

「そんな。あの時の気温、確か11度ぐらいじゃあなかったけ? そんな長い間待つなんて、そんなこと」


 碧斗は顔を青ざめながらいった。


「あいつはあんたらに復讐するためなんだったら、寒さなんてどうでもいいのよ。目の前に殺したい相手がいるんだから」


 直美は腕を組みながら言った。なぜだか康介たちはその言葉に納得をしてしまった。


 また何か事情を聞くかもしれないと直美は言い、そのまま四人を出口まで案内をしてそのまま直美と別れた。


「なぁ康介。誰かに俺達の住所をチクった奴いるか?」


 大輔は歩きながら康介に聞いた。


「そんなわけないだろ。俺はそんな簡単に言うわけない。それに、他人の住所をそう簡単に教えないっての。まず最初に許可とるはずだろ」


 康介の言葉に、碧斗も「そうだよ」と言った。


「でも、なんで晴馬は俺達の職場と住んでいる場所わかったんだ。それ調べるのに探偵がぜってーいるはずだ。きっとそいつを雇ったんだよ」

「でも、探偵は結構高いだろ? 長く雇うとしたら沢山の金がいるはずだ。そんな金、働いても半分は生活費とかで消えていくから」


 碧斗の言葉に陽が付け加えると、皆は黙り込んだ。


「なぁ。俺早退をしているんだが、この後俺の家どうだ? 一人暮らしじゃあ危険だろ」


 康介の言葉に大輔と碧斗が賛成したが。


「すまん。俺、仕事を少し抜けることだけ伝えてあるからこのまま仕事に戻るわ。おまけに俺を指名してくれている客がいるからさ」

「えっ。それじゃあ送ってあげようか?」


 大輔がそう言うと、陽は「いいよ。すぐ出し」と言い、そのまま駆け足で仕事場に戻った。


「大丈夫かな、あいつ」


 碧斗は陽の背中越しを見ながら言った。 康介も背中越しを見ながら百合に電話をした。


「もしもし百合」

「あっ、あなた。どうしたの? 何かあった」

「いや、あのさ急なんだけど大輔と碧斗を家に上がらして良いか? ちょっと今日のことで色々」

「いや、別に構わないけど、ご飯そう多く作れないわ」

「今日は大丈夫、それはなんかおつまみを買うからいいよ。冬真の分だけ作ってくれ。わかったね」

「わかったわ。あなた、帰りも十分に気よ付けてね」


 百合はそう言うと電話を切った。その後、三人は近くのスーパーによりおつまみと酒を買占めたのを持ちながら康介の家に向かった。


 家に着き、康介は呼び鈴を押すと、百合が笑顔で顔をのぞかせた。


「お帰りなさい貴方。それと碧斗さんと大輔さん、お久しぶりです」


 百合は康介のカバンを持ちながら二人に笑顔で会釈した。


「はい。お久しぶりです。あっ、少しなんですが冬真君と百合さんのお菓子なんでどうぞ」


 碧斗はさきほど買ってきたお菓子が詰まった袋を百合に渡した。


「あら、こんなにですか? ありがとうございます。今冬真君呼びますね」


 百合は笑顔で言い、リビングで宿題をしいている冬真に声を掛けた。


「冬真ー。碧斗お兄ちゃんと大輔お兄ちゃんが来たわよ」


 母の声を聞いた冬真は宿題を中断し、駆け足で玄関に向かうと久々に見たお兄ちゃんと父の顔を見て満面な笑みになった。


「あっ、碧斗お兄ちゃんに大輔お兄ちゃん久し振り! あとお父さんお帰りなさい」

「あぁ、ただいま。ほら見てみろ、冬真のために二人がお菓子を買ってきてくれたんだぞ」


 康介は百合が持っている袋を指しながら言うと、冬真は二人に向かって「ありがとう」と元気よく言った。


「どういたしまして。でも、食べた後には歯磨きしろよ」

 

 大輔は悪戯っぽく頬を突いた。


「さっ、家の中に入って。ここじゃあ少し寒いから」


 百合は三人を家の中に招き入れ、そのまま夕飯の支度をした。


 三人はそれぞれ指定された場所にコートを掛け、大輔と康介はソファに座り、碧斗は冬真の部屋に行った。冬真がいなくなったのだろうか、百合は康介に近づいて聞いた。


「ねぇあなた」

「ん?」

「樹さんの葬式は聞いたかしら? 私達も出た方がいいからさ」

「あぁ、それはしばらくわからない。何よりも、殺され方が」

「えっ。そんなに酷かったの?」


 口が滑ったことに百合の顔が変わった。大輔と樹は「馬鹿」と言うでもような目つきを見せた。


 咳払いをし、康介は顔色を変えて言った。


「お前はそれ以上聞かないほうがいい、あまりいい内容ではないからね」


 康介は百合にそう言うと、察したかのように「わかった」と一言言って立ち去ろうとした時、康介は直美のことを話した。


「あ、そうだ百合。今、この事件の担当者が直美なんだ。覚えているだろ。結婚式で一回あったあの子」

「えっ。直美さん、刑事なの? うわぁカッコいいわ。確かに直美さんにはピッタリね。クールな所もあるから」


 百合は直美のことを思い浮かべながら夕飯の続きの支度をした。


 すると、大輔が康介に近寄って小さく声を掛けた。


「なぁ。マジであいつとその相棒は黙ってくれているのか? 俺達のこと」

「馬鹿、あいつはわざわざ俺達の生活のために黙ってくれたんだぞ。あいつを疑う事はしないほうがいい」


 康介はそう言うと、袋から自分用のペットボトルの水を飲み込んだ。



 陽は仕事に戻ると、お客の髪と接客、会計をこなしていた。


「えー。これで良いですかね」


 陽は横にあった鏡を後ろでかざしながら女性のお客に言うと、女性は満面な笑みを出して自分の髪を触った。


「はい。これでいいです。ありがとうございます」


 満足した女性の欠けていた布を畳み、他の店員に髪の毛の処理を頼んでその女性の会計をした。


 すると女性は何かを思い出したかのように陽に言った。


「そうそう店長さん。今話題の猟奇的殺人の事件場って結構近いでしょ、だから早めにしめたほうがいいわよ。そのほうが他の店員に安心だしね」


 女性はそう言うと、笑顔で「また来ます」と言って店を出た。今日の連絡を受けた時ここから樹の家が近いってことが分かっているし、ここには若い子が沢山いる。晴馬は陽以外は絶対襲わないと思うが、何よりも仲間が大事だ。


 ここは早めに帰ってもらうことにし、陽は受付終了の看板を出した。


「あれ? 店長もぅ終わりですか? まだ閉店時間にはまだ時間ありますが」


 閉店時間よりも早く終わったことに、男性の店員が言うと陽は扉を閉めて説明した。


「いや、今日ニュースで起きた猟奇の殺人事件が起こったことを知っているな。テレビ見たかどうかは分からないけどさ」


 斜め横にある小さいテレビに指を指して言うと、男性は「あぁ」と言った。


「確かにありましたね。それでですか?」

「あぁ、皆の安全を考えてだ。皆、今日の掃除はいい。私がするからいいね」


 陽はお客に接している皆に言うと、仲間は頷いた。更衣室にいったん戻り、シフトの紙を見た途端、昔のことを思い出した。


 晴馬を自分がいたぶる光景が頭の中に浮かんでくる。酷く殴り、教科書など破ったことやトイレの中に入っている晴馬を上から水を掛けたりしている時の晴馬の顔が浮かんでくる。


 酷く、康介たちを恨んでいる目。あの時なぜ俺達は虐めたのかがわからない。


「最低」


 直美の言葉が頭の中に浮かんだ。確かにそうだ。俺達は晴馬に最低なことを卒業までやった挙句にあいつの将来や夢などの考えを壊して、復讐心だけ残らせてしまった。


 晴馬のはやり方は残酷だが、俺達の方が最も残酷だ。虐め抜いた挙句、あいつの中にある将来の夢は今はただ、俺達の復讐心だけしか残っていない。


 息を飲み込み、再び仕事を再開した。


 客が全て帰ると、簡単な掃除をして貰ってから仲間は身支度を全て整えて、陽に挨拶をしなが次々と帰って行った。その後は、陽はモップで床を綺麗にした。


 髪などが溜まったのをゴミ箱に捨て、周りに何もゴミが落ちていないかを確認し、更衣室に戻って自分も帰ろうと支度を整えると、仕事場から大きい、壊す音が聞こえてきた。


 警戒心を保ちながら横にあった消火器を抱えて更衣室を出た。 ゆっくりと仕事場の扉を開け、暗闇の中を目を凝らして見た。


 椅子が倒れているのと目の前にあるガラスが一枚割られていたのだった。


「なんだよ、これ」


 次の瞬間、頭に衝撃の痛みが走り、その場に倒れた。


 倒れた陽をそのまま横にあった椅子に座らせ、高速で腕と足を何かで強く縛り付けた。


 陽は頭の痛みに耐えていると、急にライトが照らされた。頭がずきずき痛みながら顔をあげると、過去とは全く違う晴馬が目の前にいた。


「はっ、晴馬、お前」


 陽は動かない腕を見てみると、晴馬は針金で強く縛り付けていた。


 すると、晴馬はマスクを外して数年ぶりに陽に話しかけた。


「やぁ久し振り。陽、中々おしゃれな店をしてるね」


 久し振りに聞く晴馬の声は、憎しみを持っているのがよく伝わってくる。


 陽は頭の痛みに耐えかねながら晴馬に話しかけた。


「晴馬、お前にして来たことは最低なことだってわかってる。もちろん謝罪だってなんだってする。この通りすまないことをした。本当に、すま」


 次の瞬間、晴馬は強く陽の脛を蹴り入れた。物凄い力に骨が折れる音が聞こえ、激痛が足から来た。あまりの痛みに陽は叫んだ。


 その姿に晴馬は鼻で笑い、陽の髪を掴んで引き寄せた。


「何言ってんだよてめぇ。お前がどれだけ俺にしてきたことを忘れたのか。言っとくが、俺はお前たちに復讐する事ばかり考え、おまけにどんなことをしようかとも中学から考えまくった。そんなお前に許しを貰うか?」


 晴馬の声を聞きながらも、陽は息を荒くして痛みに耐えかねていた。


「あぁ、勿論許しを貰うために言ったわけではない。本当だ」


 陽は訴えかけるように言ったが、晴馬は聞く耳を持たなかった。


「じゃあ、あのとき居酒屋で僕のことを馬鹿にしたのは? あれが本心なんでしょ」

「そっ。それは」


 陽はなんて言葉を返そうかと考えていると、晴馬はそのまま喋り出した。


「大輔の奴は良かったぜ。あまり叫ばずにして死んだんだからさ。でも、お前みたいに泣きじゃくりながら許しを言う前にせっせっと殺したからか。まぁそんなことはどうでもいい。さて、君のした罪は僕の大切なものを壊したこと」


 晴馬は自分の腕に付けている壊れた時計を陽に見せた。


「だから、君にはこの殺し方だ」


 晴馬はそう言うと、鏡台の横から大きい袋を取り出し、チャックを開けるとそこにはノコギリとペンチ、ハサミとが出てきた。


「お前、何する気だよ」


 陽はそう言うと、晴馬は満面笑みを作り出し、袋の中から刃物を取り出した。


「君はさ、俺の一番の大切な時計を壊した。これ、死んだお父さんから貰った大切な奴なのに」


 晴馬は腕に付けている時計を眺めながら言った。


「つまり、今から君にとって一番の大切な体の部分を順番に壊していくんだよ」

「えっ、大切な、体の部分?」

「うん、まずは、お客様の髪を触る指」


 陽の腕を掴んで真ん中の指三本を切り落とした。猛烈な痛みに陽は再び叫んでしまった。


 その声を聞いた晴馬はますます笑みが出た。


「ハハハハ、いい声だねぇ。君がしてきたことを百倍だ」


 晴馬は陽を見下ろして言いつつも、再びもう片方の指と余っている指を切り落とした。


 両手から沢山の血がドクドクと流れながら晴馬の指を汚し、床に落ちていく。陽の額から大量の汗が浮き上がり、息が荒くなっている。


「ご、め、んな、さい。ゆ、許して」


 泣きじゃくりながら言う陽に、晴馬は髪を掴んで自分の顔に近づけた。


「僕がそう言っても笑いながら止めなかったじゃないか? いざ自分の番になると助けを求めるなんて、お前、何考えてるんの?」

「ごめっ、なんでもする、なんでもするから」


 陽は泣きじゃくりながら言っていると、晴馬はチャッカマンを取り出し、先ほど切り落とした傷口から血が出てきている指をあぶった。


「あぁぁぁぁぁぁ」


 あまりの痛みに晴馬は絶叫をした。その光景を見て、晴馬はますます笑みが濃くなっていった。


「ハハハハハッ。いい顔するなぁ、ほら! もっと泣けよ! もっと苦しめよ! 雑魚! 弱虫野郎! ノロマ! 泣き続けろ!」


 晴馬はあぶりながら泣き叫ぶ陽に罵倒を浴びせた。


 あぶるのを止めると、陽は「うぅ、ご、めん、なさい」と唸りながらまた泣き始めた。


「ピーピー偽善の謝罪を口にするな‼ やるのに集中出来ねぇだろうがよ!」
 


 晴馬は陽を殴りつけると、その衝撃で倒れてしまった。


 頭を叩かれたこともあり、後頭部の痛みと手の焼かれている痛みで全身から汗が浮き出ている。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 陽は一刻も早く楽になりたいと思いながら謝罪の言葉を口にしていた。


 晴馬はチャッカマンをカバンの中に入れ、何かを取り出した。


「ひっ、お前」

「あ? あぁ、これも使うよ。てめぇでも分かるだろ。電動ノコギリ」


 晴馬はカバンの中に入れていた電動ノコギリを見せびらかしながら近づいた。


「丁度これ錆びてんだよ。だから、痛みも倍になると思うなぁ。調べていてわかったんだ。錆びているほうが切りにくて、痛みが増すってね」


 錆びた刃を見ながら晴馬は言った。そして再び顔を陽に向けてにっこり微笑んだ。


「ねぇ、まだまだ終わらないし、死なせないよ。一瞬で殺すより、生きたままの方が地獄を見えさせるからさ」


 電動ノコギリのスイッチを押し、陽に近づいて行った。




 碧斗と大輔、康介はリビングで楽しくお酒を飲みながらも既に眠っている冬真に気遣いながらお喋りをしていた。


「それでさ、こいつ物凄く先生に怒られたことがあるんだよ」

「へぇ、そうなんですか」

「おい碧斗、その話すんじゃあねぇよ」


 百合は碧斗が大輔の昔話をしながら缶ビールを飲んでいた。テーブルにはおつまみと缶ビールだけが残っていた。


「なぁ、そろそろお邪魔した方がいいんじゃねぇか。もぉ九時だし」


 大輔は時計を見て言うと、碧斗は「そうだな」と一言言い、帰りの支度をしはじめた。


 ゴミをまとめ、碧斗と大輔はジャケットを着ると小走りで扉に向かい、百合に挨拶をした。


「ありがとうございました今日は」

「いえいえ、こちらこそ」


 碧斗の言葉に百合は笑顔で会釈しながら玄関前まで送った。


「じゃあ、気よ付けて帰れよ」


 康介の言葉に二人は「あぁ」と一言言い、手を振りながら帰って行った。家の中に入った。


「ふぅ。百合、先に風呂済ませてきていいぞ。俺は缶ビールを片付けるからさ」

「あら、そう。じゃあ、お言葉に甘えて」


 百合は笑顔で言うと、そのまま風呂場に向かった。


 康介は棚の中から空き缶用のゴミ袋を取り出し、部屋に散らかっている空き缶を袋の中に詰めていると、百合が髪をタオルで乾かしてリビングに戻ってテレビを付けた。


「ふぅ、さっぱりした。ねぇあなた」

「ん?」


 康介は百合を見ると、不安そうな顔をしながら見つめていた。


「明日、冬真の学校どうしましょう。こんな怖い事件だなんて思いもしなかったし」

「普通に学校に行かせてあげな。なんだって冬真はまだ一年生だ。それに、あの子に友達がいないってわけでもない。内容的に学校から大人数で帰るように言われているはずだ。それなら尚更安心だろ」


 康介はなるべく百合に安心をさせるように話した。


 話を聞いた百合は「確かに」と口をした。


「でも、終わるまで、放課後の遊びはできるだけ控えるようにお願いしなさい。遊ぶとしても休みの日とかだな」

「えぇ。そう言いかけるようにするは」

「先に寝てていいよ。俺は後で寝るから」


 康介は笑顔で言うと、「わかったわ。おやすみ」と言い、寝室に向かった。


 空き缶を詰め終わり、もうひと口ビールを飲もうと思ったが明日、変な頭痛を起こされるのは勘弁だ。水をコップの中に入れて飲んだ。冷たいのが体に伝わり、以外にも頭がシャキッとした。


 頭から晴馬の顔が浮かんできた。猫を殴っている時、晴馬は大輔と樹に押さえつけられていた。あの時晴馬は涙を流しながらやめるように言ったが、そんなことは変わらず半殺しまでにした。


 気が済んだ時、晴馬は半分息をしていた猫を抱えて5人を睨みつけてきた。恐ろしく、憎んだ目つきが。


 そのことが思い浮かぶと、頭が痛くなた。


「……早く寝よう」


 康介は呟くと、早々とお風呂場に向かったのだった。

 


 晴馬は息絶えた陽を見つめ、考えた。


「溺死、苦手な物、殺し」


 ぶつぶつと三つの言葉を繰り返し呟きながら残りの大事なものを刻んでいった。


 うるさかった。刻んでいくときもえぐるときもすべてがうるさかった。泣き叫ぶわ、鼻水は垂らすわで汚らしかった。


 あと残り三人、あと残りの奴らも殺さなきゃ。だめだめ汚い汚い汚い汚い全てあいつらの心が汚い汚い汚い。反吐が出る、見たくもない早く消さなきゃ。


 晴馬は大きく息を吸い込み、倒れた椅子を元に戻し、細かく刻んだ目や内臓はアートを描くような感じにしながら周りにぶちまけた。


 先ほどまで綺麗だった美容室は、今では血の悪臭を匂わせ、白かった壁などを赤黒く染めていく。半分の肉片をクーラーボックスの中に入れた。


 周りの風景を見て、晴馬は康介たちが知ったらどうなるのだろうか。そんなことを考えていくうちに笑みが零れてきた。


 最後の仕上げに、椅子を壁に叩きつけたり、鏡などを色々壊していった。全てを破壊し終えると息を整えて水を一口飲んだ。



「なんだここは」


 康介は暗い所で倒れていた。勿論これが夢だということも分かっている。


 辺りを見渡していくと、冷たい感触が足下から伝わった。下を見ると、そこには水の様な物が広がっていた。


 触ってみると手が一瞬のうちにして赤くなった。


「うわっ!」


 康介は一瞬ためらうと同時に声が聞こえてきた。


「許さない、許さない」


 声を聞き、康介は誰なのかが一瞬にしてわかった。



 夢から飛び起きた康介は自分が全身に汗が浮かんでいることが分かった。その次に

は頭痛が来て頭がおかしくなりかけた。横の棚にあった薬をポケットに入れてリビングに向かった。


 リビングに行くと、いつものように百合と冬真がいた。


「あっ、あなたおはよう」

「おはようお父さん」


 二人の言葉に、康介も笑顔でおはようと言った。食器棚からコップを一つ取り出し、水を注いでそのまま薬を水と一緒に飲み込んだ。


 すると、百合はご飯を作りながら康介に声を掛けた。


「あとあなた。さっきから電話が何着も来ていたからスマホを見てね」


 百合はスマホに顔を向けながら言った。


 康介はお礼を言い、スマホを掴もうとすると非通知だった。


 まさか晴馬じゃねぇよなと思いながら出ると、直美からだった。


「康介、やっと出たか」

「あぁ、すまん。さっきまで寝ていたところなんだ。どうした」


 直美は息を荒くしながら康介に言った。


「いいか、よく聞け。わからないが陽が死んだかもしれない」


 突然の言葉に、康介は頭が殴られたような感覚がした。


「は? わっ、わからないってどうゆうことだよ」

「遺体の破傷がひどいんだ。朝早くに、美容院の店員がだいち早く発見した。陽が経営していた店だからまさかと思うが」

「それなら、連絡をすれば」

「お前にする前にしたさ。でも、電話にも出ないから。まぁそんなことは後で説明するから、早く来てくれ。他のみんなも呼んでいる」


 直美はそう言うと、「ちょいと呼ばれたからきる」と言い、電話を切った。


 康介は直美から聞かされた陽の死に頭が真っ白で、訳が分からなかった。


「ねぇ、あなた。どうしたの?」


 百合が後ろから声を掛けられ、我を帰った康介はすぐ服を着替え、スマホをポケットに入れた。


「また呼ばれた。他の意味でだ」

「まさか、また誰かが」

「あぁ、陽が、死んじまったのかもしれない」


 康介はジャケットを着て、百合に行ってくると一言呟き、冬真の頭を撫でながら 「いってきます」と言った。また、部長に許可を取って警察署に向かった。


 警察署に向かうと、そこには報道陣が群がっていた。康介は一目を気にしながら駆け足で警察署に行くと、受付に直美と碧斗と大輔が神妙の顔をしながら立っていた。


「直美!」


 康介が呼ぶと、直美と真斗、碧斗と大輔は駆け足で近づいた。


「今修復している最中なんだ。すぐにでも終わりそうかもしれないけどな」

「修復って、それほど酷い状態なのかよ」


 康介の言葉に直美は黙って頷いた。隣にいる真斗は昨日よりもはるかに顔色が悪くなっている。


「今言える状況じゃあ、ないんだが。お前たちより先に親御さんに連絡はした。最初に確認するのに、両親が言ってきたんだが、いいか?」


 直美の言葉に三人は頷いた。その後、陽の母親が息を切らして来た。


「あっ、陽の母さん!」


 康介の声を聞いた陽の母は、駆け足で近寄ってきた。


「ねぇ、陽が死んだって本当なの? どうなの康介君!」


 涙目で焦っている母親にどう答えればいいかと思っていると、直美はすかさずに説明した。


「ただいまお取込み中です。もうしばらくお待ちください」


 直美は母親の肩を抱いて、その場にあった椅子に座らせた。


「お取込み中って、まさか、あの子」


 母は直美の言葉に顔色がさっきよりも青くなった。


 数分後、一人の男が直美に耳打ちをした。


「さぁ、行くぞ」


 直美の言葉に母親は立ち上がり、後に続いた。


 長い廊下と道を歩き続け、霊安室と書かれた場所に立ち止まった。


「それでは陽のお母さん、ご確認を」

「はい」


 直美の言葉に母親は頷き、部屋の中に入って行った。


 康介たちは直美が修復と言う言葉にどれだけ酷くされたかを想像した。


 陽がやったのは晴馬の時計を壊したこと。きっと骨を砕いているかもしれない。そんなことを考えていると。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 霊安室からけたましい雄叫びが聞こえてきた。


 三人は驚くと、扉が開けられた。陽の母親は顔面を真っ青にしながらその場に倒れ込んだ。


「お母さん! しっかりしてください!」


 康介は近寄り、肩を揺さぶった。


「おい。この人をベットに運べ」


 近くにいた二人の警察官に抱えられながらその場を去った。次には真斗が駆け足で廊下に出るとその場にうずくまった。


「おい。大丈夫か真斗」

「はっ、はい。けど」

「わかっている。お前は廊下でいて良い」


 直美の言葉に真斗はありがとうございますと言い、その場のソファに座った。


「どれだけ酷かったんだよ」


 碧斗は母親を抱えて去っていく背中を見つめながら言った。


「おい、入れ」


 直美の言葉に3人は入っていた。


 そこには仏壇と布に被せられたのが目の前にあった。


 せなかを台車に近づき、直美は顔を険しくして言った。


「聞こうと思ったんだが、母親があんなになってね。聞きそびれた。お前たちが断言してくれ」


 直美はそう言うと、布を半分どかした。どかした瞬間、3人は目開き、大輔は嘔吐しそうにまでなった。


 陽の顔は全て糸で縫われており、鼻や髪の毛などが少しだけ残っているが全て切られている状態だった。それでも陽だってことわかった。理由は口元のほくろ位置だった。何回も見慣れているため、すぐに康介は「陽だ」と直美に言うと、「そうか」と一言言った。


 このような姿を見て、発狂をして、失神するもの無理はない。自分の息子が予想以上な殺されたことに誰もが叫ばれずにはいないだろう。


 おまけに真斗だってそうだ。このような形を見るなんて想像もしなかっただろう。直美の下に派遣されて一ヶ月しか経っていない刑事はまずあのような顔になるかもしれない。


 康介は陽の遺体を見つめていると、碧斗はあることに気が付いた。


「なぁ、なんで肩から下が変に凹んでいるんだ?」


 よく見てみると、肩から下が変に凹んでいる状態だった。本来なら布の中でも少しだけ体の形わかるはずが不自然に凹んでいた。嫌な予感がした康介は布をめくった。


 布をめくった瞬間、康介はその場に崩れた。上半身の肩から下半身が綿で補充され、胸から下半身がなかった。


 その光景に、大輔はその場にあったゴミ箱に嘔吐をした。


 碧斗はその場に立ち尽くしかなかった。


 康介は真斗があんな顔色になっていたのはこれを見てからかと察した。


 その後、直美は布を綺麗に元通りをし、全員は霊安室を出ていった。廊下に出ると、康介はソファに座り込んだ。大輔と碧斗も隣に座った。


 真斗は直美の横に立った。


「なぁ直美。あいつの下」

「私が一言言って布をどかそうとしたら、母親が自分で確認しますと言って、下も見た」


 直美は説明すると、生唾を飲み込んだ。


「なぁ、出来ればなんだけど、あいつが見つかったときの状況、教えてくれないか?」
 


 康介は顔を蹲くまらせながら言うと、直美は髪を耳に掛けて言った。


「あいつを目撃されたのは午前6時。私と真斗はその時一通り晴馬を知っている人物に話を聞きながら事件での不自然な人がいないかの目撃者を探したわ。大体は終えたから、そのまま家に戻って寝ていた。そしたら6時半に本庁から連絡きたから現場に言ったら血生臭い匂いが充満していた。そして、私が見た光景はとってもおぞましかったわ。真斗だって、見た瞬間にギブアップしたもの」


 直美は何枚かの写真を取り出し、「特別にみせてやる」と言って康介に渡した。見てみると、悍ましい血の惨状が映し出されていた。壁には血の跡。床には体の肉片らしきものが転がっていた。


「まず、発見された時はほぼ胸から下までが細かく粉々にされ、内臓や目ん玉などは壁に張り付いていたり、床に転がっていたりなどもした。骨は粉々にされたけど、そこ等へんに転がっていた。髪は全部切った後、それを壁に張り付けてた。原型をとどめないぐらいだったからあんな風になったんだ。綺麗に整っていたのは頭から肩だけ。きっと分かりやすくするためだったんだろうな」


 直美はそう説明をすると、「それから」と言って康介が持っていつ一枚の写真を指指した。


「凶器はこの錆びた包丁と電動ノコギリ、普通のナイフにガスバーナー。その他半々が錆びていないのと錆びている凶器があって、数えるのに鑑識が大変だったとさ」

「なんで錆びているやつなんか」


 碧斗は血に覆われている包丁を目にして言った。


「それはきっと、錆びている方が痛みが十分に増すからです」


 真斗はそう言うと、ハンカチで口を抑えて再びしゃがみ込んだ。


「痛みが増す?」


 康介が復唱して言った。


「もしかしたらの私なりの考えだが、普通の刃物だと簡単に切れるだろ。だけど、錆びた方が余計切れにくくて拷問するのが長時間になるから尚更いい」


 康介は直美の口調から自分の考えで言っているかのように思えた。


「おまけにそれぞれ錆びていましたので、もしかしたら」

「真斗、お前は黙れ。その方が気分が楽になる」


 真斗が顔色を青くしながら説明する姿に、直美は心配の声と共に厳しい言葉も掛け、水が入ったペットボトルを渡した。


「それとさ、あいつがした主な虐めはなんだ?」


 ポケットにペットボトルを入れながら康介に問いただした。


「あいつは、晴馬の大事な物を壊したことだ」


 康介がそう言うと、直美は顎に手を置いて考えた。


「じゃあ、今陽にとって大事なのはきっと体だ。客にはコミュニケーション、髪を丁寧に切れる手。そして髪型などを決めるために必要な目。そしていつでも客の髪を切れるようにするための健康な体だ。だからあいつの体を細かく刻んで壊したのか?」
  

「きっと、そうかもしれませんね。なんか、納得いきます」


 直美の説明に真斗が同感するような感じにして言った。勿論その場にいた康介たちも納得した。


「それよりさ」


 大輔は咳ばらいをしながら直美に顔を向けた。


「晴馬のことでなんか分かったことあるのか?」


 その言葉に、直美は「あぁ」と言い、説明しだした。


「昨日、その親しい人に会って聞いたことを全て言うよ。まず、第一最初に仲良くなったきっかけが食堂でだ。食事を食べながら自分も小説を呼んでいてね、それで仲良くなって休憩の時とかは良くお喋りなどをしていたんだ。お喋りする時は時々微笑んだりするらしい。けれど、ある時に晴馬の寮でお茶をしていたんだ。それでな、丁度テーブルに計画と書かれた綺麗なノートを持っていたんだ。それで、こっそり見ようとしたら物凄い力で手首を捕まれた。そん時の顔、忘れないほどの怖さだって」


 直美は髪を掻き上げて、ため息を付いた。


「じゃあそのノートに俺達を殺す計画が載っていたのかもな」


 大輔は体を震わせながら言った。


「それでその後はあまり付き合いはなくなり、卒業したその後はぱったりと合わなくなったよ」


 直美は康介から写真を取り、整えてポケットにしまった。


「でも、私はあいつの殺し方がきっと酷かったと思うよ」

「……見たのか?」


 碧斗は顔を見ながら言うと、直美は顔を横に振った。


 真斗は顔を青くしながら話だした。


「防犯カメラは黒く塗りつぶされていたから分からなかったが、あいつの叫びがずっと響いてたさ。黒くても、晴馬が罵倒する声と笑いの声、電動ノコギリの音と混じって肉が切られていく音、死ぬまで永遠と聞こえてました」


 真斗は説明をすると、再び気持ち悪かったのか手で口を覆って壁に手を着いた。


 その話を聞いた3人は、晴馬がどのように笑顔で樹を殺してるかの様子が浮かび、寒気が走った。


「痛み苦しむ陽の声が聞こえなくなった後、晴馬の奴、三つの言葉を呟きながら陽を刻む音が聞こえたわ」


 何の言葉かと、康介が言うと直美は「まず一つ目」と言った。


「溺死、二つ目は苦手な物、三つ目は殺しってさ。ちなみに、私の中で気になった内容は殺し、康介。今更なんだがお前は主に何をしたんだ」


 直美は質問をすると、康介は昔、晴馬が大事にしていた子猫を蹴るなどをしていたことを話した。2人の刑事は「はぁ?」と声をあげた。

 

 真斗は先ほどまでの気持ち悪さが吹っ飛んだのか、いきなり立ち上がった。


「子猫をって、お前ら何処までクズなんだよマジで。あいつを虐めるだけではなく、子猫まで半殺しするとか、お前らの方が頭いかれてるだろ。人間としてのクズ!」

「あんた直美さんの言うとおりほんっとーに頭イカれてるよ。人間なら多少の反抗とかするけど、無抵抗の動物まで傷つけて蹴るなんて!」


 真斗は先ほどとは違って怒りの顔になりながら叫んだ。


 何も反論できない三人はただ黙ったままだった。


「はぁもぉ、このこと言ったほうがはやぇかな。親御さんとかに」


 直美の言葉に、康介は思わず立ち上がって反論した。


「それはやめてくれ! 今の俺たちは長年掛けて掴んだ幸せなんだぞ! そんなことは」

「その幸せを、あいつには復讐心しか残らなくしたのは何処のどいつだ?」


 直美の言葉に、康介は黙り込んでしまった。


「取り合えず、今日は会社を休め。それからはお前らの顔なんて見たくもねぇよ。早く帰れ。クズども」

「えぇ。僕も見たくありません。それから、自分達の足で出口に向かってください。案内も、したくありまりません」


 直美と真斗は3人にそう言い残すと、速足でその場を去った。
3人は黙ったまま警察署を後にした。しばらく道を歩いていると、大輔は体を震わせながら言った。


「なぁ康介」

「……なんだ」

「次に殺されるのは誰だと思う?」


 大輔の言葉に、碧斗は思わず叫んでしまった。


「お前、何不吉なことを言ってるんだよ!」

「だって見ただろお前も‼ あの陽の姿。あいつは俺達のことを酷く憎んでる。本気なんだよ、晴馬は本気で俺達を殺す気なんだよ! それに、捕まったとしてもあいつは絶対過去のことを全てぶちまけるかもしれないし、おまけにそれが全国に流出しちまったら、俺ら、俺ら!」


 大輔は絶望の叫びをしながら頭を抱え、その場に蹲ってしまった。


「おい! 落ち着け大輔! 康介。お前は家に帰ってろ。俺が大輔を家まで送る」

「けど」

「いいから、家に帰ってろよ」


 碧斗はそう言うと大輔を支えるようにして立たせ、二人は康介とは反対の道で歩いた。


 一人残された康介は会社に休みの連絡を言うと、無気力のまま家に向かった。


 康介は家に向かいながら過去のことを思い返した。


 教科書とノートを破り、下箱には針を入れ、トイレに行ったときは晴馬をトイレの中に閉じ込めさせてそのまま水浸しにした。


 勿論脅迫などをして虐めのことを黙らせた。右頬に小さく頬に傷をしたときは木登りしたと言えと強く脅迫した。


 こんなことが起こるのなら虐めなどをせず、真っ当に高校生活をすればよかった。お陰であいつの心は今は復讐心、俺達に対する怒りをぶつける他はない。


 すると、スマホの着信音が鳴り出した。


(誰だ?)


 見てみると、それは非通知。警戒しながらも康介は電話を出た。


「はい、もしもし」

「いやぁ、康介。久し振り」


 電話から聞こえたのは久々に聞いた晴馬の声だった。


「お前、どうしてこの電話番号を」


 思わず震えた声で話すと、晴馬は鼻で笑った。


「ハハ、そんなに怯えることか? 昔はよく俺を酷く虐めて王様気分していたくせに」


 晴馬は康介に過去のことを口にした。震えながらも、康介は晴馬に話しかけた。


「どういうつもりだ。あの、陽と樹の」

「あーあいつら。俺にしたことを同じく、そして更に残虐に殺したんだ。陽の奴、最後まで謝罪してきたんだぜ。汚らしく泣きながら「ごめんなさい。もぉ許してください」って、俺が行ったときは止めなかったよね? って口にしたらその後はただ単にうるさく鳴いていたよ。はぁ、思い出しただけでイラつく」


 電話越しから何か、金属を蹴る音が強く聞こえた。し過去の晴馬だったら弱く蹴るはずだが今はそんな風には聞こえない。


「あっ、この電話お前だけだからね。もし警察や他の奴に行ったら、お前の奥さんに何するか分からないよ」

「ッ」


 奥さん、百合に何か殺害紛いなことをされるなんて溜まったもんじゃない。大事な嫁に過去のことがバレたらこの先どのようになるか考えたくもない。


「わかった。勿論誰にも言わない。だから、百合には」

「へぇ、百合って言うんだ。確かに綺麗だよね、百合の花見たいに綺麗な顔立ちしてるもんな」


 晴馬は康介の話をさえずるかのように言うと、そのまま電話を切った。


 寒気がした康介は小走りで自宅に向かった。


 家に着き、色んな事の積み重ねで玄関で倒れてしまった。


「あなた! どうしたの? 大丈夫?」


 百合は玄関で倒れている康介に驚愕をしながら抱え、ソファまで運んだ。


「ちょっと、体調がな」

「そう。それにしても酷い顔よ。もぉ、真っ青ね。今、水持ってくるわね。その後ベットに行ってくださいね」


 百合はそう言い、キッチンから水を入れたコップを康介の横に置いた。


 康介はコップを掴み、一気に水を飲み干せた。


「あっ、あなた」

「なんだ?」

「樹さんの奥さんからの連絡で、葬儀が今日あるのですが、今のところこのような事件が続いているため、お線香はまた今度してきてくださいだそうです」

「あぁ、わかった。ありがとう」


 お陰で頭の痛みが和らいだが、晴馬の声が頭から離れない。過去の晴馬はもっと弱弱しく声を出していたはずが、今は立場が逆転している。


 百合に服などを預け、ふらふら歩きながら寝室に行き、着くと倒れ込むかのようにベット上に乗り込んだ。


 そして、夢を見た。中学生時代、晴馬を虐めていた記憶だ。


 晴馬を陽と樹に押さえて貰い、こっそり学校で飼っていた子猫の首を掴んで壁に叩きつけた。


「やめろ‼ その子は関係ないでしょ!」


 晴馬の叫ぶ声を聞いても、康介と大輔とで子猫を蹴ったりなどを笑いながらし続けた。


 ボロボロになって弱った子猫に飽きてやめると、晴馬はすぐに駆け寄って子猫を抱き上げて睨みつけて、叫んで言った。


「お前らを絶対、殺してやる!」


 叫びと同時に康介は飛び起きた。


 晴馬の言葉が脳裏で響き続けている。昔の頃はあんなことに罪悪感などが全くなかったが、今になってはそれが感じられている。


 なぜこの感じを中学生時代に感じなかったのだろう。虐めをやっている間にこの気持ちを早めに知って、止めていれば今頃はこんなことにはならなかったのかもしれない。


(……すまない、晴馬)


 康介は思わず謝罪の言葉を口にして、目を閉じた。

 

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