4.三奈

「お兄ちゃん、今日も部屋から出なかったの……?」


 私はお兄ちゃんが心配だ。毎日部屋に引きこもって、ずっとPCだけを相手にしているようなお兄ちゃんの事を心底心配していた。


 お兄ちゃんは、子供の頃からカッコ良くて頼りになる理想のお兄ちゃんだった。


 優しくて、頭が良くて、力はそんなに無かったけど、それでも優秀なお兄ちゃんは私の自慢だった。


「そうね……トイレとお風呂の時だけ出てきたようよ。それも私が買い物に行っている間にね。三奈、後で昌也に夕ご飯を持って行ってあげてくれる?」

「分かったわ。お父さんは今日も遅いの?」

「えぇ。今日も残業らしいわ。あの人は本当に仕事人間だから」


 私はお母さんの事も心配だ。


 お母さんは、優秀なお兄ちゃんの事をいつも誇りに思っていたから、今の部屋に引きこもるお兄ちゃんの姿を悲しんで憔悴していた。


 お父さんもお母さんも、お兄ちゃんの事を凄く大切にしていたって私でも分かる。


 お兄ちゃんはいつだって優秀だったから、きっと一流企業に入って素敵な女の人と結婚するんだろうって思ってた。


 だから、お兄ちゃんが就職活動でどこにも受からなかったときは、家族中が驚きを隠せなかった。


 お父さんは、酔ってお兄ちゃんに「失望した」だなんて言葉を投げかけていたけど、あれはお父さんの本心じゃないと思う。


 お父さんは、そういう厳しい言葉を投げかけてお兄ちゃんを鼓舞しようとしたんだと思う。


 でもお兄ちゃんはそれからずっと部屋に引きこもったままだ。


 そうだ。今日お兄ちゃんに夕ご飯を持って行ったら、一緒に外出しようって誘ってみよう。


 きっとお兄ちゃんだって、可愛い妹がそう提案したら無碍むげにはしないわよね。

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