第7話 夢と現
他人に対して攻撃的になった代償は大きかった。結果として、相手に加えた何倍ものダメージを僕は受けることとなった。自業自得だ。僕は気力を失い、仕事にも行かず、生きているのか死んでいるのか、わからないような生活を送っていた。
ある日、僕は人生相談に答えようとしてた。それは夢なのか、現実なのか、僕にはわからない。しかし僕は、普段よりも重くて濃い空気の中で懸命に相談に答えようともがいていた。
30代ベトナム人男性
先日、日本の警察に逮捕されました。仲間と子豚を盗んで捌いて売った事件です。私たちは技能実習生として日本にやって来ました。本国では日本に行くために多額の借金をしています。しかし仕事は辛くて給料も安いので、生活できません。借金の返済や家族の生活費のためにほとんどを仕送りしています。仲間は仕事が辛くて職場の寮から抜け出して私の家に来ました。私の家は会社が借りている6畳一間のアパートですが、そこに10人で暮らしていました。このままだとベトナムに強制送還されてしまいます。どうしたら良いでしょうか?
回答
グェンさん、あなたの起こした事件については、新聞で知りました。
日本人には生活保護という制度がありますが、外国人には適応されません。あなた達は生きていくために盗むしかなかったのです。日本では犯罪になりますが、ではどうすれば良かったのでしょうか?きっと犯罪を犯さず保護してもらえる制度があるのかもしれません。しかし日本人でも理解できないような難解な日本語で書かれている法律でしょうから、あなた達外国人が理解出来るわけはありません。
過酷な環境、且つ低賃金で働かせるだけ働かせておいて、なんの保護もしない日本の技能実習生制度なんてのが、元々詐欺的な制度なのです。あなた達には生きる権利があります。生きるために盗むことは必要なのですから、あなたは間違ったことはしていません。
もしかしたらあなたはベトナムへ強制送還されて、借金だけが残るようなことになってしまうかも知れません。そんなことに負けないでください、そう言うのはあまりにも残酷で僕にはできません。
日本人を恨んでください。そして日本にはこんな酷い制度があって、アジア人を差別していることを母国で訴えてください。
0歳女性
私の父親は覚醒剤中毒で逮捕されてしまいました。そのせいで母親は私を育てる気力を無くしてしまったようです。いわゆるネグレクトで、母親といた時私の体重はあまり増えなかったそうです。児童相談所の人が来て、私は乳児院という施設に預けられました。そこでは食事も出るのでしっかりと食べることが出来、体重も徐々に増えています。私の面倒を見てくれる保母さんを私はママだと思っていました。でもずっと一緒にいてくれる訳ではありません。他の子の面倒を診たり、夜になると自分の家に帰っていきます。私のママはどの人なのか、ずっとわかりませんでした。
先日祖母だという人が来て、私は祖母の家で暮らすことになりました。保母さんたちはみんな喜んでくれました。それが私にとって良いことなのか分かりませんが、みんなが喜んでくれたので嬉しかったです。
一つだけお願いがあります。どうかもう少し大人になるまで私を生きさせてください。私はまだ何も知りません。世の中のことをもっと知りたいのです。とんなに辛い境遇になろうとも、決して不満は言いません。 もう少し生きて色々なことを知れれば満足です。お願いです。どうか私をもう少しだけ生きさせてください。
僕はいつの間にか眠ってしまっていたようだった。後で確認すると、新聞にこの二つの相談は載っていなかった。僕は夢でもみていたのだろうか。夢にしては妙に生々しく、握ったペンの感触まで覚えている。でもどちらでも構わない、グェンさんとスズの思いを知ることが出来たのだから。
「灰には気をつけなくてはいけないわ。」
ミホの声が聞こえたような気がした。
灰を片付け続けないとそこでは生きてはいけないのよ。積もって分だけ灰を片付け続けないと、いつか灰で埋もれてしまうの。
あなたの中に降る灰は、あなたが片付けないといけないわ。そうしないとあなたもいつか灰に埋もれてしまうし、あなた以外片付ける人はいないのだから。
もう一度言うわ、灰には気をつけなさいよ。
僕は僕の灰を片付けないといけない。今まで積もり続けた灰を片付けなくてはならない。そして埋もれていた地表を見えるようにするのだ。
寝起きのぼんやりした頭で、果たしてそれが正しいかどうかわからないまま、灰を片付ける決意していた。しかし一方で、そんな考えを巡らす自分という存在さえ疑わしく感じているのだった。
灰の日 クジラ牛乳 @nakajiman
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