第16話 地獄学級

 須美はゴミ箱に捨てられている自分の制服を見てただ唖然とした様子で突っ立っていた。

 周囲に居る女子達はそんな須美を横目で見ながら嘲笑っている。

「須美のアホ面マジで最高なんだけど〜」

「須美って自業自得じゃね?今まで散々人に嫌がらせしていたみたいだし。」

「だよね。気に入らないことが少しでもあるとすぐキレるし、マジで扱いづらいよね。」

 みんなわざと須美に聞こえるように悪口を言っていた。


 私はその様子を見て、思わず口元が緩んでしまうのを感じた。須美の味方になる奴だなんて千夏と明日美と一翔と五郎しか居ない。この学校で須美の味方になる奴は千夏しか居ないから孤独も同然だ。


 私は、須美の悪口を言っている数人の女子に近づいた。そして満面の笑みでこう言ってやった。

「須美ってさ、援交してるらしいよ。」

 数人の女子は一瞬面食らった顔をしていたが、すぐに須美のことを軽蔑に満ちた目で見つめる。

 須美が、ゴミ箱に捨てられて埃まみれになったセーラー服を拾いながら顔を引き攣らせた。


「えー。あいつあんな顔して援交してるの!?マジでキモイんですけどー!」

「まあ、大人しそうな顔してワガママなクズ野郎だからそういう事をやっていても不思議ではないよね〜。」


 彼女らの唇から放たれる醜い言葉を聞いて須美は今にも泣きそうな顔で俯いていた。

「被害者振るのもいい加減にしろよクソ野郎。」

 須美の泣き顔にイラついた私は須美の耳元で罵詈雑言を呟く。彼女は私の一言に固まってしまう。

「千夏達が居なければ何も出来ないくせに。」

 私は須美に向かってそう言うと更衣室を後にした。


 本当に須美は千夏達が居なければ何も出来ない。どうせこの後、この女は千夏達に泣き付くに違いない。

 散々、私をストレス発散の道具に使ったくせに。散々金品をせびってきたくせに。私があんたのせいでどれだけ辛い思いをしてきたというのか。

 自己中でクズでワガママなあんたには分からないだろうけれど。だからたっぷりと分からせてあげなくては。


 私は着替え終わると、すぐさま教室へと戻った。須美の奴、今頃どんな顔をしているのだろうか?そんなことを考えながら教室の扉を開く。

 すると、須美が今にも泣きそうな顔で教科書とプリントを拾っている姿が目に入る。

 きっと小百合達に机とリュックの中身をばら撒かれでもしたのだろう。

 私は、須美の方へ歩んで行き、床に散らばっているプリントと教科書を目の前で踏み躙ってやった。

 綺麗だったプリントと教科書に生々しい上履きの跡が付く。


「お願いだからもうやめてよ…」

 須美が今にも泣き出してしまいそうな声で言った。散々人に嫌がらせをしておいて今更やめてだなんて、馬鹿げてる。

「は?あんた何言ってるの?」

 口から出た言葉はあまりにも冷たいものだった。奴は驚いたような顔で私のことを見上げている。

「今まで私に何してきたと思ってんの?あんたのせいでいっぱい辛い思いをしてきたんだよ?」

「…。」

 須美は何も言わなかった。

「あんたさあ、被害者振るのもいい加減にしてくれない?どうせ千夏達に泣き付く脳しかないんだからさ。」

 私の言葉に須美が息を詰まらせる。

「さっさと私に謝ってよ。」

 その言葉に須美は「え…」と声を漏らす。

「謝るくらいならあんたにだって出来るでしょ?」

 私の言葉に項垂れた須美が今にも消え入りそうな声で

「ごめんね…。だからもう許して…。」

 と言った。けれど私は奴を許す気はない。だって、あれだけのことをされたのだから。


「許す訳ないでしょう!?」

 私の言葉に須美が酷く驚いた表情を浮かべる。そのマヌケ面に思わず笑ってしまいそうになった。

「まさか謝れば許して貰えると思っちゃった?本当にあんたってどこまでも自己中だよね。私、許すなんて一言も言ってないんですけど!」

 須美の表情が酷く驚いたものから絶望に満ちたものへと変わった。それが面白くてつい、私は奴の弁当箱を手に取って蓋を開ける。

 中には、美味しそうな唐揚げやサラダ、卵焼き、たこさんウィンナーが詰まっていた。

 私は弁当の中身を須美の目の前でゴミ箱に捨ててやった。唖然とする須美。周囲のクラスメイトは思わず驚きの声を上げている。


 須美は必死に涙を堪えていたみたいだけれど、遂に堪えられなくなったのだろう。須美は大粒の涙をポロポロ零していた。

「こんなのあんまりだよ…」

 須美はしゃくり上げながらそう言った。

「お願いだからもうやめて!」

 先程の出来事を見ていられなくなった千夏が私を鋭い視線で射抜く。

「なんでそんなことをするの?須美ちゃんに謝ってよ!」

「は?なんで私がこいつに謝らなきゃならないの?最初に嫌がらせをしてきたのはこいつでしょ?」

 私は負けじと千夏を睨みつけた。

「何かあったら私達に相談してってあれだけ言ったじゃん。私も明日美も、一翔も五郎も。みんな優香の味方だったんだよ?優香の力になりたかったんだよ?」

 千夏の言葉に私は腸が煮えくり返るような気持ちになった。


「嘘ばっかり。あんたら全員、須美のことばかり庇って、私のこと責めたじゃない!」

 依然として他のクラスメイトは唖然として私達のことを眺めている。


 千夏は須美を立たせると私に向かって一言。

「優香はすっかり変わってしまったね。」











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