第15話復讐

 私がやっていることはいじめなんかじゃない。立派な復讐なんだ。

 須実が今まで私に対してやってきた嫌がらせは許されるようなことではない。だから、私には須実を傷付けてもいい権利がある。と思えてならなかった。


 千夏と明日美は馬鹿が付くほどのお人好しだから何をしたって誰かを恨むようなことはしないだろう。

 一翔と五郎は曲がったことが嫌いな性分だからこのまま須実を庇い続けるのだろう。

 もう少しズルさとか、「アイツは自業自得だから」と言って見放す冷たさが4人に備わっていればこんな事にはならなかったのに。

 クラスメイトから嫌がらせをされている須実。なんでそうなってしまったのかの理由すら考えずに手を差し伸べた私。あの時の自分はなんてお人好しで馬鹿だったのだろうかと今でも思ってしまう。

 けれど、須実の陰湿さや、底意地の悪さを知った上で彼女を庇い続ける千夏達は何て馬鹿なのだろうか。

 私は今更ながらそんな千夏達の事を可哀想だなと思ってしまった。


「優ねえ!!」

 明日美が満面の笑顔で私に駆け寄って来てくれたこと。彼女は、私にとって妹みたいな存在だった。私には持っていない美貌と性格の良さを兼ね備えた彼女。そんな彼女は私にとってあまりにも眩しすぎた。


「ねえ優香、今度一緒に中華街に行かない?」

 優しい笑みを浮かべながら私を遊びに誘ってくれた千夏。落ち着いていて、美人で優しかった彼女。


 冷静沈着で曲がったことが大嫌いだった一翔と五郎。二人とも私に勉強や昔の法律などを色々と教えてくれた。夜道は危ないからと言って家まで送ってくれたこと。


 少し前までは彼ら彼女らとまた仲良くしたいと思っていたのに、今では微塵も思わなくなった。

 千夏達は私に直接何かをしたという訳ではない。けれど須実に復讐をするには千夏達を潰さなければならない。

 それに、悪気が無かったとは言え千夏達が私を傷付けたのは事実なのだから。


 それから体育が終わり、着替えの為に更衣室へと入る。

 私は、須実のセーラー服を乱暴に掴むと近くに置かれてあったゴミ箱に入れてあげた。

 綺麗な紺色だったはずのセーラー服は塵に塗れて白く汚れてしまう。

 実にいい気味だ。須実が私に嫌がらせをしなければこうはならなかったのに。

 須実は私の好意を平気で踏み躙った。おまけにあることないことを言いふらして私の評判を意図的に下げた。

 だから須実に私の苦しみを何倍にもして返してあげなくては。


 それからわたしは須実の上履きを便座の中に入れてやった。

 保健室から帰って来た須実はゴミ箱に投げ捨てられたセーラー服を見てただただ唖然としていた。

 実にいい気味だ。もっともっと苦しめばいいのに。

 いつかこいつの泣き顔を拝んでみたいな。と私の心の中はドス黒い悪意で埋め尽くされてしまった。

 須実を徹底的に排他する為には彼女の味方である千夏や明日美、五郎、一翔を潰さなくてはならない。

 友達想いであることが取り柄だったかつての私はそこにはもう居なかった。

 ついこの間まで友達だったはずの子をどうやって傷つけようかと考えている始末だ。


 千夏達は私の事を頭ごなしに非難したから。須実は私に対して度重なる嫌がらせを行ったから。

 これらの理由を並べておけば私の行いは正当化されるはずだ。


 次はどんなことをして須実を傷付けてやろうか。そうだ、須実が私にしたようにあることないこと言いふらしてその評判を下げてやればいい。

 須実を悪者に仕立てあげればいいんだ。そうすれば、何も知らない外野は何の躊躇いもなく須実に石を投げ付ける筈だから。


 これから起こることを考えながら私は不気味な笑みを浮かべていた。

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