第13話恨み

 その日からSAKI MARUIという名のフォロワーとやり取りをする回数が増えていった。

 話す内容は主に須美や千夏達の悪口だ。私は千夏達に慰めてもらいたい訳でも、須美を叱ってほしい訳でもなかった。

 ただ、私が須美から受けた苦しみを分かってもらいたかっただけ。けれど千夏達は私の気持ちを理解しようとせずに一方的に須美を庇い、私のことを非難してきた。

 千夏から言われた「優香はそんな子じゃなかったのに」という言葉や、五郎から言われた「重罪だぞ」という言葉が胸に染み付いて離れない。


 異変に真っ先に気づいて電話を寄越してくれた千夏達。けれど、私は彼ら彼女らには相談しなかった。

 いや、出来なかったと言ったほうが正しいだろう。

 千夏や明日美、一翔や五郎の性格を考えたら何も言えなかった。

 こんな事になったからには多少なりとも須美を悪く言ってしまう。五郎に至っては悪口は重罪だと考えている。

 そんな中で須美のことを相談出来る訳がなかった。

 そして、いつからか千夏達まで憎たらしい存在になってしまっていた。


『あなたは須美や千夏達のことを恨んでいるの?』

 SAKI MARUIから返信があった。答えは簡単だ。

 私は迷うことなく『恨んでいるよ』と答えた。小百合達から嫌がらせを受ける須美を何度も助けた私。私はただ須美と本当の友達になりたかっただけなのに。私が送ったメールを須美は全て無視したこと。SNSのプロフィールに悪口を書かれたこと。

 今思い出しても腸が煮えくり返るような気持ちになる。


 千夏達とだって、本当はいつまでも仲良しで居たかった。

 けれど彼ら彼女らは、須美の味方ばかりするようになっていった。

 その結果、気が付けば私は憎しみという感情に支配された化け物のように成り果ててしまっていた。


『ねえ、今から近くのファミレスで会わない?』

 SAKI MARUIから返信があった。私は考える間もなく即答する。

『いいよ。』

 指定されたのは家から自転車で15分程のファミレスだ。

 支度をしてファミレスへと向かうと駐輪場の近くでスマホを弄っている少女を発見した。

 歳は私よりも2つくらい下だろうか。外巻きのミディアムヘアにパーカーにズボン姿。

 顔立ちはお世辞にも美少女だとは言えないけれど、その鋭い眼光に私は一瞬で心を奪われてしまった。

「あなたがSAKI MARUI?」

 私が声をかけると彼女は「そうだけど?」と答えた。

 年上相手でも物怖じしない態度に私は少しだけ驚いてしまう。

 それからファミレスに入ると店員から案内された席に着きココアを注文する。


「アタシの名前は丸井サキ。あんたの名前は?」

 サキが運ばれてきたココアを啜りながら言った。

「私の名前は葛生優香。サキちゃんってもしかして颯太郎先輩の妹?」

 私が尋ねると彼女は「うん」と頷いた。言われてみれば顔立ちが颯太郎先輩にどことなく似ている気がする。


「本題に入らせて貰うけど、アタシも明日美達にムカついていたんだよね。」

 サキが不愉快そうな表情を浮かべて言った。

「確か明日美達と同じ学校だよね?」

「そうだけど?おまけに中高一貫だから一翔って奴とも一緒。」

「そうなんだ…。」

 確か、明日美達が通っている中高一貫校は県内有数の進学校だったはずだ。

「あとさ、あんたが五郎って呼んでいた奴、アイツの本名は季長だから覚えておいて。」

 サキの言葉に私は衝撃を受けた。まさか五郎という名前が本名ではなかったとは。

「アイツは信頼している人にしか本名を教えない。つまり、あんたは初めから信用されてなかったってこと。」

 私の中で五郎に対する憎しみが大きく育っていくのが分かった。

 私に偽名を使っていただなんてあまりにも酷すぎる。私はあんたの事を友達だと思っていたのに。


「正確に言えば偽名じゃなくて通称ってやつね。竹崎家の五男だから五郎って名乗ってるだけ。」

「そうなんだ…」

 私が消え入りそうな声で呟くとサキが不敵な笑みを浮かべて一言。

「アタシもクラスでムカつく奴を懲らしめているんだけど、明日美達がそいつを庇うからウザいんだよね。」

 やはり明日美達は外でも相変わらずだったみたいだ。

「竹崎もウザいけれど、あいつと仲良しの源って奴も大分ウザい。一翔の弟の裕太もムカつくし。」

 一翔に弟が居ただなんて知らなかった。なんで私に教えてくれなかったのだろうか。

「多分優香のことが信用出来なかったから教えなかったんだよ。」

 サキが悪魔のような笑みを浮かべながら私に囁いた。

 私の心は憎しみでいっぱいだった。千夏も明日美も一翔も五郎も結局は私のことを影で嫌っていたのだろうか。

 みんなのことを友達だって思っていたのは私だけだったんだな。

 辛い事実を目の当たりにいた私は心の中で誓った。


 必ず、須美を千夏を明日美を、一翔を五郎を潰してあげると。

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