第48話 知らない間に

 翌日、飲食街へ俺と一樹が一緒に食事をするつもりで向かい始めると、何か様子が変なのだ。

 誰かにつけられているような気配がある気がして、周囲を確認しても気配がない。


「あの店はどうかしら?雰囲気がとってもよさそうに見えるわ。ねえ、一度入ってみましょ?」


 ハンターとして活動している時、一樹は男装して男のふりをしていた。

 分かる人が見れば所作なんかでバレるのだが、それでもずっと女性とばれずに隠し通してきた一樹。


 当然ながら女性が好む店には女性として立ち入った事がない。

 そんな一樹だが、実はセンスがいい。

 男性として振る舞ってきたのに、こうしていると実に気配りの出来る素晴らしい女性なのだ!え?惚気はいいって?

 言わせてくれ!そして俺は運が良かった。

こうした偏った生活を送ってきたにもかかわらず、実にセンスがいいのだ!

最近は公認で、つまり正式に婚姻届けが役場に受理され、晴れて俺と一樹は夫婦となった。

そして2人で暮らしている。

無駄な物は持たない性格の一樹。

唯一酒だけが沢山ストックされているが、まあこれは言うまい。

必要最低限の物しか持たないのだが、実用的でありながら何故かお洒落なのだ。

何がっだって?

キッチン小物にしても収納関連にしても何かが違う。

使えたらそれでイイ的な1人暮らしだった俺とは大違いだ。


で、そんな一樹が気になったお店・・・・入ってみるとこざっぱりしつつも清潔で、よくわからないながらもセンスが良いと俺ですら感じたのだ。

そして、

「うん、大当たり!今度から迷った時はここ一択ね。」

小さな店だったが食事は美味しかった。

少しお高かったが今の俺と一樹には全く問題ない。

で、窓を眺めながら外を見ていると、時折変な気配がする。

気配のする方向を見ると、人が歩いているのが見えた。

絶対アイツの気配だ!と思ったがそのまま通り過ぎて行く。


最近はこんなのばっかり。

まさか俺、自意識過剰で過剰反応している?

だが時折すごい勢いで外を走り抜けていくハンターらしき人々を見かける。

まさか大型生命体が近くに発生した?

「なあ一樹、外が慌ただしいが、まさか大型生命体が出現しているんじゃないだろうな?そうであれば・・・・」

「駄目よ、行っては。」

あっさり怒られた。

「何で?」

「ハンター達は挽回のチャンスが欲しいのよ。そしてアピールの場でもあるのよ。」

ん?挽回のチャンスは分からんでもないが、何のアピールだ?

「なあ、最近何か俺の知らない所で、俺に関わる何かが進んでいないか?」

俺は一樹を見た。目が泳いでいる。

 怪しい・・・・実に怪しい。だが新婚である俺は、妻である一樹に追及する事はせず、

「言いたくなったら、若しくは言えるようになったら教えて欲しい。」

と、少しなんだかなあ、と思わなくもないがそう言ってみた。

「う、そ、その、まだ駄目なのよ。」

まだ駄目だそうな。

顔を隠しての隠し事が下手な一樹。

だがまあ、俺が何を目指しているのか知っているし、悪い事にはならないだろう。


折角の食事もこんな事では美味しく頂けない。

この後はこの手の話題に触れないようにしつつ、楽しく会話をしながら食事を終えた。


・・・・

・・・

・・


帰宅すると、スキル学校に顔を出してほしいと連絡があり、俺と一樹はスキル学校へ向かった。


スキル学校に到着すると、直ぐに医務室に連れられてしまった。


医務室につくと、帯野さん付きの擁護教諭、天樹さんだったか、彼女とここの職員でやはり帯野さ付きの藤記さん、2人が待ち構えていた。


「突然呼び出してごめんなさい。今まであまり確認していなかったのだけれど、複数のスキルを得て、あれから何か不具合は無かったかしら?その確認をさせて欲しいのよ。」


実は俺と一樹が複数スキルを取得してから、何かあると困るからと定期的に検診をしてもらっている。

だが今回は突発的だ。何故?

まさか俺達以外のハンターで、スキルを増やす実践を行って何か問題があったのではないだろうか?

だが違った。

「いよいよ選挙ですから、そうなると忙しくなるのでこうして念の為調べたいと思ったのよ。」


意外だな。スキル学校がこうも国政に積極的だったとは。

だが俺は勘違いをしていた。

スキル学校は国立なので、職員は公務員扱いだ。

公務員の政治活動はかなり制限される。

個人での投票は問題ない。

だが、選挙のお願いなんかは制限がある。

そんな国立スキル学校なのにどうして、と思ったが分かった時には手遅れだった。

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