間話:一滴の毒/美玖②


「それでね〜、この前えっちした人がめちゃくちゃ上手くて...」


「え〜、この前の人?」


「ううん、新規!」


「ちょっと!初耳なんだけど!」


「えへへ。昨日ナンパされて、そのまま...」


「もう〜。本当彼氏さん可哀想!こんなビッチに騙されて...」


「うわ、ひっど〜い!沙耶香ちゃんだって浮気してるじゃん!」


「私は最近はしてないもん!」


「それなんの言い訳にもなってないからね?」


「うるさいなぁ〜」


「彼氏とは別れないの?」


「彼氏のことは好きだもん。

でもたまには味変したくなるでしょ?」


「まぁ...わかるけど!」


「でしょ〜!」


「「「あはは!!」」」


「あはは...」




高校生に上がると、

中学とは違って色々経験済みの女の子が増えた。


それに伴ってガールズトークのレベルも格段に跳ね上がり、下世話な話が増えたのもまた、仕方ない話だ。




そして私は日々衝撃を受けていた。



みんな、浮気をしていたのだ。



先日の沙耶香の浮気問題が解決してからと言うもの、沙耶香は言い方は悪いが随分と悪女になった。

それに伴い、浮気した話をここだけの話と嬉々として話し始めるようになったのだ。


勿論私は焦った。

なぜなら私にとって浮気と言うものは本来あり得ないもので、圧倒的にマイノリティな事柄だと思っていたからだ。


少数派は淘汰される。


沙耶香の彼氏の佐々木君はあれでそこそこ人気がある男性なのだ。

そこにこんなあけっぴろげに自分の隙を見せれば、いくらそれなりに仲が良いとは言え女の子は平然と裏切ってくる生き物なのだから。


だけど結果は違った。


勿論もっと世界を見渡せば違うのかもしれないけれど、それでも。


この高校の、この狭い教室のこの狭い集団に置いて、マイノリティはだった。



◇◇◇



「ねえ、ハンカチ落としたよ」



周囲との恋愛観の違いに鬱蒼としていた頃、

私はイケメンで有名な小林大我先輩に声を掛けられた。


──私の周りは何故だか男子の平均顔面偏差値が高い。

それは私の彼氏の優貴や、その親友の佐々木君が揃ってイケメンと言われていることからも伺えると思う。


そんな私から見ても、

この小林先輩は圧倒的だった。


優貴や佐々木君が読者モデルのようなイケメンだとするならば、この先輩はジャ○ーズだ。それもマウンテンピーレベル。

その証拠に昔からジャ○ーズにスカウトされ続けているらしいけど頑なに入らないらしい。

風の噂だと社長が恐ろしいとかなんとか...

やっぱキラキラしたジャ○ーズでも体罰とかあるのかな?

そういえば中学の同級生に元ジャ○ーズJrの男の子がいたっけ。

その子も社長が怖いって何故かお尻を押さえながら言っていたなぁ...


まぁそれはともかく、


「あ、ありがとうございます。

えっと...小林先輩?」


「いえいえ。さん、俺の名前知っていてくれたんだ」


「小林先輩は有名人なので...

え、あれ?えっと、どうして私の名前を?」


「あはは。それ、そのまま返すよ。

桐島さんは有名人だからね」


「そんな、私なんて...」


「本当だよ?3年生の中でも話題になってたんだ。凄く可愛い新入生がいるって」


「恐縮です...」


一応しおらしくしておくけれど、

内心は当然だと思っていた。

私はひたすらに優貴の1番で居続けるために人一倍努力している自負があるからだ。

持って生まれた可愛さにも若さにも一切かまけず、毎晩のスキンケアや流行の化粧や服装の研究など、一切の妥協をしていない。

だから普段から可愛いと持て囃されているし、受け流すのにも慣れている。

3年生の中で可愛いと話題になっているなんて今更、なんとも思わなかった。

そもそも私には大好きな優貴以外からの評価なんて気にしてないしね。


──それ、でも。


「勿論俺も可愛いなって思ってるよ。

こうして改めて顔を合わせてみて、益々その気持ちが強くなったかな」


「っっ...あ、ありがとうございます」


これほどのイケメンに正面切って褒められたのは初めての経験で、さすがに照れてしまったのは仕方ないでしょう...

いや別に優貴が1番だし私が大好きなのは優貴だけだし優貴以外からの評価なんてせいぜい私が気持ち良くなるだけのバックコーラスレベルなんだけどでもでもでも!

そ、そう、これはある種アイドルと話して照れてしまっているようなものでそんなの私に限らず──いや、女子に限らず男子だって例えば石と原っぱのさとみとかに正面切って格好良いねなんて微笑まれたら絶対に照れるでしょうは?俺だったら照れない?黙れよ童貞が!...そ、それとおんなじだからだから仕方ないそれも不意打ちだしあうう....



「じゃあ、また」


「あ、は、はい!」


そこからは正直舞い上がってしまって頭が回っていなくて、多分上の空で小林先輩と話していたんだけど気が付いたらいつの間にかお互いの連絡先を交換していた。



(ま、まぁ連絡先交換くらいなら別にクラスの男子ともしてるし、私も優貴もお互い以外の異性の連絡先消せなんて重いタイプじゃないしべ、別にいいよね...)


そんな誰に聞かせるでもない言い訳をしながらも私は小林先輩と別れ、その場を後にした。





少しだけ、

心にチクっとした痛みを抱えながら──


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幼馴染彼女を寝取られたけどぶっちゃけ俺も浮気してたから怒るに怒れない件 けら @kakuyomanaiyo

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