第16話 「占」から「異」「鬼」に流れた宝

 突っかかり気味のユキに、堂本は黙ってうなずいてみせた。

「そんなあ……。題名に『白の六騎士』ってあるのに。主人公がいなくなる。……ツァークが主人公になるのかしら」

「遺体はそれぞれ、一部が切り取られていた」

 ユキの言葉を無視して、堂本は続ける。彼は別のメモを取り出した。

「弓が得意なエメーゼは腕と胸部、女たらしのオルトンは腰、持久戦のドゲンドルフは腹部、脚力のあるフーパは膝から下の両足、知略に長けたポルティスは頭、馬上の戦いを好むユストリングは大腿部がなかった。つまり、各自の最も優れた肉体部分を切り取っている訳」

「女たらしの腰はいいとして、何で持久戦が腹部になるの?」

 思わぬ質問だったらしく、堂本は明らかに戸惑っていた。

「それは……持久戦と言えば、食事のことが一番の問題だろ。何日経とうが、何も食べずに頑張れるという意味で」

「こじつけっぽいなあ。まあ、いいけど。よーするに、身体を六つの部分に分けたかったんだ」

「それは置くとして……そこに巫術師ふじゅつしが登場」

「フジュツシ?」

「シャーマン、巫女さんのことだよ」

「巫女さんなら巫女さんと言えばいいのに」

 不満を示すユキ。他に分かりやすい言葉があるのに、難しい単語を使う奴は、嫌いな彼女だ。

「巫女さんやシャーマンだと一般的に知られすぎて、安っぽい感じがする。ファンタジーでは聞き慣れない単語の方が、しっくり来るんじゃないかなと」

「分かった。次」

 字で読めば、意味も分かるだろうと思い直し、ユキは続きを促した。

「その巫術師の名は、ルナイ・ウボツサ。巫女ってぐらいだから当然、女性」

 またおかしな名前が出てきたぞ。そんな風に思いつつも、ユキは黙って聞く。

「彼女は戦況について、近い未来のことを当ててみせ、たちまちコウティ・ワルドーに取り入る。コウティはルナイの言うことなら、ほぼ無条件に受け入れるようにさえなった。で、あるとき、ルナイが予言する。『白の六騎士の死は、反対勢力の悪計。その失われし肉体を集め、総ての能力を有す<黒の騎士>を生み出さんがために。<黒の騎士>がアストブの進撃を阻むであろう』と」

「ほ? それって、バラバラ死体を引っ付けて、新しく人間を造るってこと……?」

「そうだよ」

 にやっと笑う堂本。ユキは強く頭を振った。

「だめよ。ぜーんぜん、だめ! どーして唐突に魔法、魔術が出てくるのよ。今まで、いくらファンタジーと言っても、中世ヨーロッパ辺りの雰囲気だったのに」

「中世の頃は、魔術が実際にあったかもしれないじゃないか」

「あったかもしれないって……これまでのお話はどうなんのよ」

 次第に熱っぽい口調になるユキ。と言っても、言葉遣いは普段とあまり変わりないが。

「戦争するのだって、魔術が少しも出てきてないじゃないの。それとも、言わなかっただけ?」

「いや、魔術は全然、使っていない。そもそも、この物語の世界に、魔術師なんていないんだ」

「あー? 分かんないなあ。さっき、魔術でバラバラ死体をくっつけて蘇らせるって言ったじゃないの」

「魔術なんて、ひとことも言ってないよ、僕は」

「そうかしら。でも、魔術なしに、死んだ人を蘇らせるなんて。残っているのはドラキュラかキョンシーぐらいじゃないの?」

「手品がある」

「手品って、鳩を出してどうすんの?」

「そういう意味じゃなくて、どう言ったらいいのかな」

「どう聞いたらいいのかな」

 ユキが反射的にふざけると、堂本は疲れたように両手を床に突いた。

「ごめんごめん。気にせず、続けてくれたまえ,堂本クン」

「……手品的な手法と言えばいいかな。要するにトリックがあるんだ」

「トリック」

 ぼけて「とっくり」と呟こうかとも思ったが、さすがに自重するユキ。おかげで?堂本は話をスムースに続けられた。

「うん。マニアの間では知らぬ者がいないくらい有名な推理小説のトリックの応用だから自慢にはならないが、この使い方ならカムフラージュできると思っている。種明かししてしまうのはもったいないから、ヒントだけ教えよう。黒の騎士が魔術で復活したんじゃないとしたら、当然、人間になるよね。で、黒の騎士の顔は誰の顔?」

「え? 確か……ポルティスってことになるのよね」

「その通り。もう少し、ヒントだ。ポルティスは生きているということ」

「う、何となく、見えてきたよーな……」

 ユキは両肘を突いて考えを巡らせる。その思考に待ったをかける堂本。

「そこから先は、考えないでくれよ。読んでからのお楽しみということに」

「はいはい」

 堂本の懇願する様子がおかしかったせいもあって、ユキはあっさり、うなずいてみせた。

「要は、ポルティスが生きていた、と」

「そうなんだ。彼がツァークやヒネガ族の味方する状況を、自然に作り出すため、黒の騎士なんていう『怪物』を創り出すんだ」

「ということは、巫女さんのルナイも……」

「ヒネガ族らの味方。ポルティスを自然な形でアストブから抜け出させるための作戦だよ」

「そこまで面倒な方法を使うからには、何か理由がいるんじゃない? 他の白騎士達を殺すのは、戦争するんだから、まあ、しょうがないとしても」

「考えているよ」

 抜かりはないとばかり、強くうなずく堂本。

「ポルティスがあからさまに反旗を翻せないのは、さっき言った理由の他にも、ちゃんと考えている。両親がいるからだよ。自分一人なら、勝手に動けるかもしれないけど、両親は残さざるを得ない。ポルティスは両親に国の手が延びることのないよう、一度、死んだように見せかける必要があった」

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