第14話[完]

美琴ちゃんは病院での泊まりに付き添いに改めて私を希望した。


準一さんは複雑そうな顔をしたが私に美琴ちゃんを頼むと店に戻っていった。


お店で心配して待っている人達に事情を説明と明日は休業にする貼り紙をしてくると言っていた。


その日美琴ちゃんの部屋に簡易ベッドを備えてもらい一緒に寝泊まりする事になった。


美琴ちゃんは嬉しそうに色々とお喋りをしてきた。


準一さんの失敗談や学校での事などたくさん教えてくれた。


そして嬉しそうに時折お母さんって呼ぼうか、それともママかな、やっぱりいつも通り結奈さんがいいかな?と楽しそうに聞いてきた。


「でもお父さんがようやく覚悟を決めてくれて良かった。結奈さんに早く気持ちを言わないとお客さんに取られるよって何度も言ったのに年の差を気にして渋ってて」


美琴ちゃんはやっとひと仕事終えたとスッキリしていた。


「でも……準一さん素敵だし、もっと綺麗な人がせまったらどうしよう」


私の方こそ自分でいいのかと不安になる。


「大丈夫だよ、お父さんが自分から言ったのって結奈さんが初めてだもん」


「え?でも美琴ちゃんの本当のお母さんは……」


そこまで言ってしまったと言葉を止めた。


「あー、本当のお母さんね……私はあったこと無いんだ」


美琴ちゃんはなんでもなさそうに話した。


「なんか聞いたところによると私を産んですぐに若い男と逃げたって言ってるのを常連さん達が話してるの聞いた」


もう!


常連さん達の口の軽さに怒りがわく。


しかし美琴ちゃんは気にした様子もなく話を続けた。


「お父さんからはお母さんの悪口聞いた事ないけど、お父さんが頼りなくて出てちゃったって言ってた。だから本当のお母さんなんてなんとも思ってないよ」


「そうなんだ……ごめんね。辛いことを話させて……」


私は申し訳ないと謝った。


「私は結奈さんに自分のお母さんになってって思ってないよ。結奈さんだからそばにいて欲しい。それでお父さんと幸せになってもらいたい」


「美琴ちゃん……本当に小学生?」


大人な意見に驚いてしまう。


「伊達に10年生きてませんから!」


美琴ちゃんはニコッと笑った。


「だから結奈さん、私と友達でお母さんって事でよろしくね」


「友達でお母さんか、それならなんとかできるかな?」


「うん!」


美琴ちゃんがベッドから手を出てきた。


私はそれを握りしめて二人で手を繋ぎながら眠りについた。


その後無事に美琴ちゃんは退院して迎えに来た準一さんと店へと戻った。


「ただいまー」


美琴ちゃんは家に戻ると疲れたーと部屋で横になる。


「やっぱり自分の部屋がいいね」


「ふふ、良かったね。じゃあ私も自分の部屋に行くね」


「うん、少し休んだら下に行くよ」


私も部屋に戻りとりあえずシャワーを浴びて服を着替えた。


髪を乾かして下に行くと美琴ちゃんはまだ来ておらず準一さんがコーヒーを入れてくれていた。


「結奈ちゃんも飲まない?」


「はい、是非!」


私は準一さんの目の前のカウンターに腰掛けた。


準一さんが真剣にコーヒーを入れる真剣な様子をじっと見つめる。


「はい、どうぞ」


「いただきます」


ひと口飲んでもう普通のコーヒーには戻れないかも……と本気で悩んだ。


「本当に美味しそうに飲んでくれるね」


準一さんは気がつくと嬉しそうに私の顔を見つめていた。


そんな視線に気がついてサッと顔を逸らす。


「今思うと初めて結奈ちゃんが店に来た時から好きだったのかもな……」


「え?」


「いや、なんでもないよ。おかわりいる?」


「はい!」


私はカップを差し出した。


準一さんは嬉しそうに受け取るとコーヒーを入れて背を向けた。


何かコーヒーに付け足している。


「はい」


そして差し出された物をみて驚いた。


それは泡でラテアートを施されてハートが描かれていた。


「本当はいつかもっと上手くなって、その時に君に恋人がいなかったら思いを伝えようと思っていたんだ……」


恥ずかしそうにそう言ってくれた。


「十分に上手ですよ!」


私はラテアートの技術に驚いていると準一さんが苦笑いをする。


「本当に聞いて欲しいところはそこじゃないんだけどね……まぁそれはもう少し上手くなってからかな」


「なんですか?」


「なんでもないよ、結奈ちゃんが喜んでくれて良かった。次はどんな絵に挑戦しようかな?」


「それなら三毛猫なんてどうですか?」


「いいね」


準一さんは早速とコーヒーに泡を注いで絵を描いている。


「すごい、私もできるかな?」


「教えてあげようか?」


「本当ですか!」


私は嬉しくてお願いしますと頼み込んだ。


「でもなんで覚えようと?僕が出来れば十分なのに」


「私だって準一さんの役に立ちたいです」


「結奈ちゃん……」


準一さんがカップを置くとその手を私の頬に伸ばしてきた。


準一さんの顔が徐々に近づいてくると私はそっと瞳を閉じた。


「あっと……私、もう少し二階にいようか?」


するとちょっど降りてきた美琴ちゃんが戻ろかと声をかける。


「だ、大丈夫だよ!」


私は慌てて目を開けると準一さんから離れた。


「じゃあご飯にしようか?」


準一さんは残念そうな顔をして食事の支度に向かってしまう。


美琴ちゃんに見られて顔が熱くなった私は落ち着かなく既にピカピカのテーブルを拭いていた。


「結奈さん、今度は私ちゃんと二階にいるから安心してね」


美琴ちゃんがニコッと笑いながら私の顔を見つめている。


「そ、そんなことしなくても大丈夫だよ!それに私と寝た方が美琴ちゃんはいいんじゃない?」


「それなんだけど……病院に入院してから一度も影を見てないんだ。ミーちゃんの気配も感じないし」


美琴ちゃんは少し寂しそうにそう言った。


「あっ……ミーちゃんはもしかしたら私達の事をみて天に上がったかも」


あの時スっと消えた様子にそんな気がしていた。


「そっか……寂しいけどそれなら良かった」


美琴ちゃんがそういうと……「にゃん」と後ろで声がした。


「え?」


私が振り返るとそこには姿が微かにしか見えないミーちゃんがいた。

そして目を細めてもう一度ありがとうと言うようにひと鳴きすると煙になって天へと登って行く。


「美琴ちゃん……」


私が美琴ちゃんの顔を見るが美琴ちゃんは見えなかったのか前をみて料理が来るのを嬉しそうに待っていた。


「こちらこそありがとう」


私はそっとつぶやきこの二人に会わせてくれた三毛猫に軽く頭を下げると料理を手伝いに向かったのだった。


【終わり】

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お化けが見えるだけなのに…… 三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5 @nawananasi

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