第7話

「ただいまー」


カランッ!と音を立ててただいまと声をかけたのは学校から帰ってきた美琴ちゃんだった。


美琴ちゃんは少し顔色を悪くして扉を開けるとすぐに閉めてほっとしていた。


「美琴ちゃん、おかえり」


「美琴おかえり。何か食べるか?」


「うーん、先に宿題してくる」


美琴ちゃんはそういうとカウンターを抜けて二階へと向かった。


「美琴ちゃん、なんか疲れてませんか?」


「え?そうかな。走って帰ってきたからじゃないかな」


「そうかな?」


準一さんは気にした様子もなかったが私の様子に手早くホットケーキを焼き出した。


「今はお客さんも少ないから休憩していいよ、これ美琴と食べてね」


「わー!美味しそう!」


準一さんは本当に料理が上手でただのホットケーキでさえ美味しくなる。


私はホットケーキを受け取ると美琴ちゃんの分の飲み物を用意して二階に向かった。


「美琴ちゃん、一緒に休憩しない?」


両手が塞がっているので美琴ちゃんの部屋の扉に向かって声をかけた。


しかし美琴ちゃんから返事がない。


「あれ?美琴ちゃーん」


少し声を大きくすると「にゃーん……」と中からこの前の幽霊の猫と同じ声がした。


「美琴ちゃん!入るよ!」


私は嫌な予感にホットケーキを床に置くと扉を開いた。


するとそこにはふらっと立っている美琴ちゃんがいた。


そして足元にはあの猫がフーっ!と警戒して唸り声をあげている。


「美琴ちゃん!」


私は今にも倒れそうな美琴ちゃんを抱きしめると美琴ちゃんは力が抜けたようにだらんとした。


そして目を開くと私の名前を呼んだ。


「結奈さん、ありがとう」


「どうしたの?」


美琴ちゃんはふらっとしながらどうにか起き上がる。


私は廊下のジュースを取ると美琴ちゃんに飲ませた。


「ふー、落ち着いた」


そういう美琴ちゃんは本当に少し顔色が良くなった。


「大丈夫?体調悪いなら準一さん呼んでこようか?」


「もう大丈夫、結奈さんのそばにいると平気みたい」


そういうとピタッと体を寄せてきた。

その体は冷たくなっていた。


「こんなに冷えて!ちょっと待ってて!」


私は急いで下に行くとホットココアを作るとまたすぐに二階に上がる。


美琴ちゃんにココアを渡して布団を持ってくると美琴ちゃんに被せた。


「少しでもあったまって!私体温高いから」


そして美琴ちゃんをぎゅっと包み込むように抱きしめた。


するとココアのおかげが少しずつ美琴ちゃんの体温が戻ってきた。


「ありがとう、もう大丈夫みたい」


「本当に?」


心配するが確かに美琴ちゃんの顔色は良くて体温も暖かくなっていた。


「なんかお腹も空いてきた。結奈さんホットケーキの匂いがするね」


「あっ!」


私は廊下に置きっぱなしのホットケーキを急いで持ってきた。


その後大丈夫そうな美琴ちゃんとホットケーキを食べる。


お腹が膨れたところでわけを聞いてみた。


「美琴ちゃん、さっきのは何?大丈夫なの?」


「うん時折なるんだよね。でも今回は変に憑かれちゃったみたい、結奈さんがいてよかった」


「疲れた?そう……」


体育でもあって疲れたのかとその時は思っていた。


そして次の日美琴ちゃんが帰ってくると……


「結奈さん!話があるの!」


帰ってくるなり私の名前を呼んできた。


「美琴、まずはただいまだろ」


「お父さんただいま!ねぇ結奈さん貸して!」


「貸してって結奈ちゃんはお店が……」


「お客さんいないじゃん!ちょっとだけ!」


美琴ちゃんは準一さんの許可なく私の手を引くと二階へと上がった。


「美琴ちゃん、どうしたの?」


私は美琴ちゃんがランドセルを置くと迎えに座った。

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