第12話 出会い

「さて、どんな魔物を狩ろうか……印象が悪かったから大きなやつでも狩って少しでも良くしとくか?」


 お金が無いなら代わりに魔物を狩れと言われたので、現在俺は森を探索中である。


 しかし、どんな魔物を狩ればいいか聞いてなかったためとりあえずパッと見で高く売れそうな奴を探す事にした。


「虫系統は素材が取れそうにないからな……熊でもいくか?それかイノシシでも良いかもしれん。ああ、迷宮が楽しみだな。」


 虫系統は体が小さいからか一撃で爆発四散し何も残らないため、熊やイノシシと言った体が大きく狩りやすい魔物をターゲットにする事にした。


「何処かに居ないか、熊やイノシシ……。」


 そうして探す事三十分―――






「見つからん。」


 スキルの気配感知を使っても半径1km圏内では何の反応も無かった。


「むぅ、何故だ?こんなにも見当たらないなんて初めてだぞ……。」


 この時真斗は気づいていなかったのだが、真斗から無意識に発される戦意もとい殺気に怯え、魔物達は本能によって真斗から逃げ出していたのだ。


「このままじゃ迷宮に入れないではないか。何か居ないものか……。ん?この反応は……。」


 少し焦りを感じていた真斗だったが、ふと何かが気配感知に引っかかったのが分かった。


「ふむ、この気配はアイツだろうな。しかし、その周りにいるヤツらの気配は何だ?三、四、五……全部で五人居るな。フーム……。」


 よく知る気配に向かい合う形で知らない気配が五つ。自分が知らない魔物か、それとも人が居るのか。


「……一先ず行くだけ行ってみるか。どっちにしろ損は無い訳だしな。」


 魔物だったら両方を狩り、人だったらならば場合によっては助けて都市に入る為の恩を売ろう。そう考えて目的地に向かって歩き出した。






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         side 謎の五人組


 始まりは<旅立ちの朝>という幼馴染で構成されたパーティーに採取依頼かなんかで森に行くから護衛としてついてきて欲しいと頼まれたことから始まった。


 最初は断ったが報酬が私の好きな油揚げ、その専門店の油揚げ食べ放だい券に元々何度か交流もある知り合いの為、やむ無く承諾した。


 そうして向かった先は大森林だった。成程、私が護衛として頼まれたのも納得がいく。しかし、自分で言うのもなんだが私は迷宮五百階層まで踏破したことのある猛者である。そのため如何に魔境と呼ばれ恐れられる場所でも動じることなく、次々と襲いかかって来る魔物をバッタバッタとなぎ倒して行った。


 そんなこんなで三時間くらい森を練り歩きようやく必要量に達したので帰ろうとした矢先に、そいつが現れた。


「グルルルル…。」


「こいつはフローシャス、ベアーか…?」


「にしてはでかいような気がするけど…。」


 レギィとリィルが不思議そうに言う。


「確かにフローシャスベアーだけど、魔境に適応したことで更に凶暴かつ強大に変化した個体。通称”ヘルベアー”と呼ばれている奴だけどね。ほら、若干毛の色が青みがかってる。」


5mはありそうな大きな体に獲物を引き裂くための鋭く尖った爪。魔境に適応した証である少し青くなった毛並みとその巨大な威圧感と共にヘルベアーが私たちの目の前を阻んだ。


「これはまた……。」


「全く、滅多に現れるもんじゃねぇのに。今日はついてねぇな…。ウル、勝算はどれくらいある?」


 私は渋い顔をしながら呟く。


「良くて二割。悪くて全滅。」


「はは、天下のウル様がいてもそんなに低いのか。それじゃあこいつから全員逃げ切ることは可能か?」


「無理。私一人ならどうにか逃げ切れるけど、全員だと追いつかれる。」


「お前だけなら、か。まあ、確かに俺たちはお前より遅いが元々走るのが不向きな奴もいるからな。それならお前だけでも逃げてくれ。元々無理やり付き合ってもらってたんだ。だから、」


 その言葉に私はカチンときた。


「それはダメ。ここであなた達を見捨てるほど私は落ちぶれてない。勝算がいくら低くとも私は最後まで戦う。」


 例え負けたとしても死ぬその時までアシュレット一族として誇らしく在りたいのだから。


「…そうか。そうだな、お前はそういう奴だったな。全く、ダメ元で聞いてみたがやはり無理か…。」


「済まない、僕が皆より体力がないせいで…。その代わりって言ってはなんだけど、万が一の時は僕が囮になるからその隙に皆は逃げてほしい。少しくらいなら時間は稼げるはずだから。」


「そんなこと出来るわけないだろ!全員じゃなきゃこのパーティーは成り立たねぇんだ、誰か一人でも欠けさせるつもりはない!」


 確かに誰か一人を犠牲に逃げるなんて反対だ。レギィが言わなかったら私が言っていたとこだ。


「レギィ……。」


 ッ!奴から殺気が!


「そんなことしているうちに、来るよ!」


「グオオオオオオ!!」


「ッ全員避けろ!」


 ドンッ!と、ヘルベアーが放った一撃で地面にクレーター出来ていた。


「ッ…。」


 流石ヘルベアー、あんなの食らったら私でも致命傷を負いかねない。


「うわ…食らったらひとたまりもないわよ、あんなの…。」


「そんなの見ればわかる!だが、レイ、あれを防げるか?」


「死ぬ気でやれば何とか一発は耐えれそうだが、それ以上は……。」


「一発か…よし、それじゃあこれから奴を倒す作戦を話す。心して聞け。」


「ちょっと、本気!?」


「逃げることが出来ないんじゃ、どのみちここで全滅だ。それなら一か八か、やるしかねぇだろ!」


 成程、確かに現状はそれが一番生き残る可能性がある。


「そう、だけど…。皆はどうする?」


「私は大丈夫だ。何時でも行ける。」


「私も。」


「まあ、それしかないだろうからね。僕も賛成するよ。」


「どうやら全員賛成のようだな。リィルはどうする?」


「あんた達ってやつは…。わかった、腹くくってやるわよ!もう!」


「助かる。それじゃあ先ず俺とリィルで攪乱して、その間にロムとウルは合図を出したら何時でも攻撃が放てるように力を溜めててくれ。そしてレイは二人の体制が整ったらあいつを一か所に固定するよう留めろ。その隙をついて俺たちが一気に仕留める。最後にリィルは俺たちの総攻撃前にレイを逃がしてくれ。……作戦は分かったな?」


 どうやら各々覚悟を決めたのか、力強く頷いた。もちろん私もその一人だ。


「おし、それじゃあ何としてでも生きて迷宮都市に戻るぞ!いくぞ、リィル!」


「覚悟しろ、熊公がぁ!」


「ウルさん、僕たちも。」


「うん。」


「頼んだぞ二人とも。」


 そうして私たちは生き残るために動き出した。






「こっちだバケモン!」


「グアァッ!」


「くっ、早いな!」


 レギィが挑発し注意を引き付け、余裕をもって回避しようとしたが、思ったよりも攻撃が早かったため寸での所で躱す。


「グルルル…。」


「そっちばっかに注意を向けてていいのかしら?」


「グル!?」


「遅い!これでも食らいな!」


ビュンッ!とヘルベアーの目に向かって落ちていた石を投げつけ、右目に命中させる。


「グァ!?」


「よし、視力を奪った!」


「グアアアア!!!」


「立ち直り早!?ちょ、まっ。」


「これでも食らいやがれ熊公!」


 ズバンッ!とヘルベアーの背中を大剣で切りつける。


「ガアア!?」


「前に出過ぎだ!ほら、今のうちに体制を整えろ!」


「た、助かったわ。危うく死ぬかと思った…。」


 レギィが間一髪の所でカバーが間に合いリィルは何とか危機を回避した。


「グルルルル…。」


「まともに直撃してんのに倒れないのかよ…。」

 

「流石に強化個体なだけはあるわね……。でも、」


 チラと横を見て妹のレイの様子を確認した。その目線に気付いたのか、こちらを見つめ返した後一度力強く頷いた。


「二人とも!こちらは準備が整った!何時でも交代出来るぞ!」


 そう声を張り上げて二人に確認を取る。


「よし、これなら……リィル、一旦引くぞ!」


「合点承知!」


「グル!?」


「レイ!」


「任せろ!」


 二人はその場から一旦離れたことによりヘルベアーが困惑し、その間にレイがヘルベアーの前に立った。


「こっちだ、化け物め!今度は私が相手だ!」


 レイは盾を鳴らしながらヘルベアーを挑発しだす。


「グアアアッ!」


 挑発されたのが分かったのか、ヘルベアーは目の前にいる矮小な存在を叩きのめそうと大きく腕を振り下ろした。


「ぐっ、ううぅうぅ!!」


 ズガンッと大きな音を立てレイごと地面を陥没させたもののギリギリの所でレイは耐えた。


「行くぞ、リィル!」


「分かってるわ!」


「うおおおおぉ!スキル、”豪断”ッ!」


 レイに夢中になってる間にレギィはその大剣でヘルベアーを背後から切りつけた。


「グガアアアァァ!?」


 流石に今のは効いたのか、悲鳴を上げながらその場で蹲った。


「リィル!」


「今行く!レイ、立てる?」


「な、何とか……しかし、力が入らん……。」


「とりあえず急いでここから離れるわよ。」


 その隙を付いてレイとリィルはその場から離脱し、レギィは魔法の軌道上から離れた。


「グルルルル……。」


「ッ今だ二人とも!やれ!」


 声を上げ、二人に合図を出す。






 ッ。合図が来た!


「これでも食らえ!最上級火魔法”インフェルノ”!」


「倒れて。最上級複合魔法”雷撃”。」


 私たちはそれぞれが持てる最大火力の魔法をヘルベアーに向けて放った。


 そして直撃し、目の前で大きな音を立てながら盛大に爆発が起きた。


「よし、当たった!」


「これで倒れてくれれば助かるんだが……。」


「ハア、ハア、ハア……これで倒れてくれなきゃ、もう魔力が尽きた僕としては困るんだけど……。」


「私ももう動けんぞ……。」


 四人ともそれぞれが違う反応をしながらも、その心は同じ思いだった。


 私を覗いて。


「……まだ、」


「何?」


「まだ、終わってないっ!」


 言い終わると同時にグアア!と雄叫びを上げ、煙から出てきて一番近くで様子を伺ってたリィルに攻撃を仕掛けた。


「え……。」


「リィル、避けろ!!」


 咄嗟の事に対応出来なかったのか肩から足までバッサリ爪で裂かれ、命の源である赤い血が大量に噴き出した。


「なに、これ……。」


 そのままリィルは自身の血で濡れた地面に倒れた。


「リィルーー!?」


「ね、姉さん!」


「くそっ、あれだけやってもまだ生きてやがるのか!?誰かリィルを!」


「私が行くっ。」


 急いでリィルの元に向かおうとするが、ヘルベアーが道を遮る。


「くっ、邪魔!」


「グアア!」


 そういって切りつけたものの毛皮が鎧替わりになっているのか、切りつけた傷は浅かった。


「片手間じゃ無理!誰か代わりに相手しといて!」


「それなら俺が……!」


「よくも姉さんを!殺してやる!」


「バカっ。行くな、レイ!戻れ!」


 姉をやられて激昂したのか、レイは武器を持てぬ潰れた両腕のまま単身ヘルベアーに突撃して行った。


「アアアアアァァ!!」


「ガァ!」


「ごっ。」


「レイ!」


 しかし、軽く振られた腕でレイは飛んでいき、近くにあった木にぶつかってピクリともしなくなった。


「くそっ、レイもやられた!一体どうすりゃ!」


「一先ず私は二人を助けに行く。レギィはヘルベアーを足止めしといて。ロムは回復薬ポーションを用意して置いて。良い?」


「け、けどよ……。」


「返事!」


「わ、分かった。ほら、ロム。さっさと準備しろ!俺は行くからな!」


「あ、う、うん。」


 そしてレギィは、うおおおおぉ!と声を出しながら突撃して行った。


「私も行く。ここに連れてくるから二人の回復お願い。じゃ。」


「あっ。」


 私は返事を待たずにそのまま最初にリィルの元に向かった。


「リィル、しっかりして。」


「う……あ……。」


「とりあえず、ロムのとこに移動するよ。よいしょっと、……しっかり捕まってて。」


「う……。」


 リィルを背負い一旦ロムのとこまで戻る。


「幸いにもリィルは死んでなかった。けど大量に血を流し過ぎているからポーションを飲ませて傷を塞いだら安静にしといて。今度はレイのとこ行ってくる。」


「う、うん。ほら、リィル。ゆっくりで良いからこれ飲んで。」


「ん……。」


 一先ずこれで彼女は一命を取り留めた。次はレイだ。私は急いでレイが倒れている場所まで向かった。


「レイ、しっかりして。」


 しかし、私が声を掛けても返事を返さなかった。咄嗟に首筋に手を当てて脈があるかを確認し、次に呼吸をしているか胸元を見た。


「……大丈夫、生きている。気を失ってるだけ、急いで戻らないと。」


 当たりどころが良かったのか、はたまた鎧に守られたのか、どっちにしろ強い衝撃を受けて気絶しているだけで命に別状は無いようだ。


「よいしょっと。」


 リィルと同じようにレイを背負い、そのままロムの元に向かった。


「レイは気絶しているだけで命に別状は無い。とりあえず腕だけ治しといて。」


「よ、良かった〜二人とも死んでなくて。」


 ロムは安心したのか、腰が抜けながらも喜びの声を上げる。


「リィルは油断したらすぐ死ぬ。だから無理させないように気を付けて。私はレギィのカバーに…。」


「ぐああぁぁ!!」


 二人を運び終わり、ロムに気をつけるように言っていたら向こうからレギィの叫び声が聞こえてきた。


「ッあとは任せる!」


 ロムの返事を待たずにすぐにレギィの元へ向かう。


「グルルルル……。」


「ハア、ハア、ハア、ハア……。」


「ゴメン、待たせた。ッ!レギィ、右腕が……。」


「ハア、ハア、おう。待ちくたびれたぜ。危うく俺が仕留めちまいそうだったよ。ハア、ハア、腕の事は気にするな。それより二人は…。」


 レギィは真っ二つに切り裂かれた腕をヒラヒラさせながらも二人の安否を確認した。


「大丈夫。リィルはあと少しで危なかったけど、どちらも生きてる。だからレギィも戻ってて。あとは私がやる。」


「ハア、ハア、そうか。ありがとう、二人を助けてくれて。じゃあ、後は頼むわ。」


「頼まれた。」


 フラフラになりながらもレギィは腕を治療すべくロムの元へ戻った。


「グルルルル……。」


「私も残り魔力は少ないけど、それでも満身創痍のお前が相手なら殺れる。覚悟しろ化け物。」


 残りの魔力を全て身体強化に使い、居合の構えを取る。


「一撃で終わらせてやる。」


「グルルルル!」


 お互いこの一手で決まると感じており、必殺の一撃を決めるべく読み合いが始まった。


「……。」


「グルルルル……。」


 まだ、まだ、まだ………………。ッ!見えた!


「フッ!」


 過去最高の速度でヘルベアーに向けて抜刀する。


「ッグアアアァァ!!」


 しかし、流石はヘルベアー。一手遅れているものの、私の居合に反応してきた。


「!」


 それをギリギリで避けて私はヘルベアーの首を跳ねた。


「……ふぅ。終わった。……あ。」


 刀を鞘に仕舞おうとしたら、どうやら先の一撃に耐えられなかったのか、半ばから折れてしまっていた。


「はあ……。」


 私は酷く落ち込んだ。


「……。」


 何とか勝てたものの、出来ればもう二度と戦いたくない相手だった。


「皆の所に戻らないと……。」


 踵を返して皆の所に戻ろうと足を踏み出したが、疲れたからかよろけてしまった。


「あ、あれ……。おかしい、なんか、体に力が……ごふっ。」


 吐血。


 何故?それに体に段々と力が入らなくなってきている。更に寒くなり、体がガクガクしてきた。


「ま、さか、毒?けど、ダメージは受けて……。ッ!」


 思わず自分の体を見回した。すると、僅かではあるがお腹の部分が薄く切り裂かれていた。


「そん、な。」


 どうやらあの時に避け切れていなかったようだ。


「みんな、は……。」


 周りを見渡して見ると誰かが泣き叫んでいるのが聞こえてきた。


「何で!?どうして傷が塞がらないんだ!早く、早くしないと皆が死んじゃうってのに!?治れ、治ってくれよ!頼むから!」


 どうやらポーションで回復出来ないらしく、倒れ伏している三人に向けてロムが一人喚き散らしていた。


「くっ、体が……。」


 余程ヘルベアーの毒が強かったのか、私は既に体の自由が効かなくなっていた。


「ッ!殺気!」


 突然の強い気配に、私はそれが何から発せられているのかを確認した。


 して、しまった。


「……嘘。」


「グルルルル……。」


 そこにはもう一匹のヘルベアーが居た。


「何で、もう一匹……まさか……。」


 最初から強い敵意を感じた。そして倒れ伏すヘルベアーを見下ろすもう一匹のヘルベアーを見て、この二匹は番であることを確信した。


「最、悪。」


 全く、レギィじゃないが何てついてないんだろうか。一匹だけでも全滅寸前なのに。


(不味い、意識が薄れて……。)


 しかもここに来て意識の混濁が始まった。


「グルルルル!!」


 最悪に次ぐ最悪な事態に、思わず諦めて笑ってしまいたくなる。けれど、


(諦めて、堪るものか……!私は、誇りあるアシュレット一族なんだ……!)


 自由が効かない体を無理やり動かして立たせ、薄れる意識を舌を噛みきる事で何とか保つ。


「諦める、訳には……いかない!」


「グルル……。」


 私の精神性に恐れを成したのか、一歩ではあるが後ろに下がった。


「ガァ!」


 だがプライドが許さないのか、咆哮を上げ、私に向かって今にも突進してきそうだ。


「……固有スキル、【天上知らずの心ヘブンハート】発動。」


 そう言って私は切り札を切った。


「フゥゥゥウ……。」


 身体が熱くなって高揚感を感じ、力が溢れてくる。今なら何でも出来るという思いが身体中を駆け巡る。


「グル!?」


 私の様子が変わったのが分かったのか、一瞬驚いていたが、


「グルァァ!」


 今更気にしてられないと突進してきた。


「……さあ、来い!私はお前を倒して生きて帰ってみせる!」


 その事に私は口端を歪めて笑い、自分の鼓舞も兼ねて宣言した。


「フゥゥゥウ……!」


 そして私は居合の構えをして気を待つ。


「グアアァァ!!」


 その間にもヘルベアーは刻一刻と近づいてくる。


「……。」


 20m。まだ。15m。まだ!10m。ッ!今!


「アアアアアァァ!!」


 そして先程の居合よりも速く抜刀し―――






「アアアァあ、……あ?」


 ようとしたら、目の前にいきなり壁がせりあがって来た。


 そしてドンッ!と大きな音が向こうからして、続けてギャアッ!と声がしたので恐らく突進の勢いを止められず壁にぶつかってしまったのだろう。南無三。


「……え、何コレ。」


 改めて見ても意味が分からない出来事に、私は呆然とするしか無かった。


 壁は縦に長く横に狭くだったので、何となしに向こう側を見てみようと顔を出したら、同じことを考えてたのか丁度壁越しにヘルベアーと目が合ってしまった。


「……どうしよ?」


「……グア?」


 突然の事にお互い困惑して、どうするか話し(?)合ってたらどこからとも無く声が聞こえてきた。


「成程、この称号はこういう使い方も出来るのか。今度色々試してみるか。」


 声の方を向くと足下まで伸びた白髪に鍛え上げられた肉体を申し訳程度にボロボロな服で覆って、一人ブツブツと呟いている変な奴がいた。


「……誰?」


「迷宮に入ったら……ん?ああ、済まない。俺は道影 真斗。見知らぬ気配を感知したのでここまで歩いてきた。そしたら丁度そこの熊に襲われていたのでな。地面を盛り上がらせて壁にし、助けた訳だが…大丈夫か?」


「はぁ。」


 歩いて?いや、本当にに何者なのこの人……いや、人?


「む、何か釈然としない顔だな。。助かったのに嬉しくないのか?」


「いや、まあ。一世一代の勢いでお前を倒して私は生き残る!なんて宣言して、その後お互いに技を繰り出して決着が決まる―――直前にいきなり壁を出されたら、そりゃ困惑するって。」


「グア。」


 これには流石のヘルベアーも同意のようだ。


「それは、なんというか……済まん。しかし、その、結果的には助かったのだし、いいのでは無いか……?」


「助かってない。向こうで今にも死にそうな三人がいる。ついでに私も瀕死。」


「それを早く言え!」


 そう言って渡してきたのは木で作られた水筒だった。


「これは?」


「良いから早く飲め、瀕死なのだろう?」


「……むぅ。」


 押し切られるようにそのまま木の水筒を傾けて飲んだ。


「ッ!」


 その瞬間、あれ程毒で感じていた痛みが消え、何だか都市から出る前よりも体が軽く感じる。枯渇していた魔力すらも元通りになって行った。


「こ、これは……?」


「唯のエリクサーだ。何かに使えるかもと、念の為に持ってきて置いて正解だった様だな。」


「エ”リッ……!?」


「向こうの三人にも飲ませてこよう、しばし待っててくれ。」


 そう言って向こうに行ってしまった。


「あ、あ、貴方は……?」


「心配するな。直ぐに良くなる。」


「あ、ちょっ!?」


 ムロの返事を待たず、複数持っていたのかそれぞれにエリクサーを飲ませて行った。


「あれ……?俺は確か腕を切断された筈じゃ…。」


「けほっ、けほっ。あー、死ぬかと思ったー。てか何で私は生きているの?」


「う……ん……?私は、一体何があって……。」


 すると完治したのか、初めに意識は保っていた二人が困惑しながら起き出して、遅れてレイが起き出した。


「え、み、皆……どうして……けど、でも、よ、良かったぁ〜!!皆いぎてるぅぅ〜!!」


 ムロは号泣しながら、全員が生きてることに全身で喜びを表していた。


「うむ、これで良し。さて……。」


 満足そうに頷きながらこちらに帰ってきた。


「あれでもう心配は無くなった。そういう訳でこいつは俺が貰ってもいいか?」


「は?え、いや。え?」


「うむ、良しと言うことだな。感謝する。」


「あ、ちょっ!?」


 いきなりヘルベアーを指差し、貰っても良いかなんて聞いてくるものだから思考が停止し、まともに返事が出来なかったのに何を勘違いしたのかそのまま私に感謝してきた。


「グルルルル……。」


 そして変な人を敵と認識したのか、ヘルベアーは唸り声を上げ始めた。


「ふむ、これなら良い値で買い取ってくれるだろう。なるべく素材は大事にしたいから……アレだな。」


 なんて事ないようにその人はヘルベアーと対峙する。


(ッ!不味い!このままじゃあの人死んじゃう!)


 ヘルベアーの強さを知らないのか、はたまた何か策でもあるのか、どちらにしろ生半可な力では対応することは不可能。


「ガァァァ!!」


「ふむ。」


(間に合えっ!)


 何とかしてヘルベアーの気を引こうと咄嗟に動こうとして、次の瞬間私は信じられない光景を目にした。


「フッ!」


 ドスンッ!とお腹に響く様な音がしたと思ったら、何とあの変な人の人差し指がヘルベアーの頭に突き刺さっているではないか。


「え……?」


 何で人差し指?何で突き刺さってるの?


 色々な疑問が生じるが、一先ずトドメを刺そうと刀に手を掛けたが、


「グァ……ァァ?」


 何が起きたか分からなかったのか、そんな情けない声を出してそのままヘルベアーは倒れてしまった。


「よし、これくらいの奴ならこれで十分だな。」

 

 そう満足気に一言呟き、うんうんと謎の変な人は頷いていた。


「嘘……一撃であのヘルベアーを。」


 何をしたのか分からなかったけど何か凄いことをしたのは分かった。


「凄い……。私もあんな風に……。」


 この時には既に私は彼の強さに惹かれていたのだろう。


「あ、あのっ!」


「ん?どうした?」


「私を弟子にして下さい!」


 気づいたらそんな言葉が口から出ていた。この人の元で修行したら私もあんな風になれるかと思うととても我慢ができなかったのだ。


「は?いきなり何を言って……というかそんな君みたいな小さい子に教える事は何も無いと思うが……。」


 ?小さい子?一体何を言っているのだろうか。


「わたしははちいさくなんかありません!」


「いや、どう見ても小さいだろ。」


「だから、ちいさくなんか……。」


 そういいつつ、自身の体を見下ろしてみたら、なんと縮んでしまっていた。どうやら固有スキルの代償が来た様だ。道理で先程から目線が低いと思った。


「こ、これにはふかいわけがあるんです!」


「ふむ、とりあえず仲間の元に戻ろうか?何かあったら困るし……。」


「はなしをちゃんときいてくださいっ!」

 

「後でな、後で。」


「もう〜〜〜!」


 こうして私は彼と出会ったのであった。

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