復活して欲しい

あの作品をもういちど

北海道のアンテナショップで行われたトークショーが終わって気がついたら月が変わっていた。


そして毎月送られてくる多くのお手紙が届いて読んでいると気になるものが複数あった。その中に気になるものがあった。


「赤松碧波さんへ 小学生時代に通っていた時、家族の都合によってアメリカに引越すことになり、孤独を感じていた時に従姉妹恋愛物語で救われていました。この作品を再び復活させてもらえることを願っているファンの1人より」


この作品は赤松碧波が小学生時代に描いた処女作であって数年に渡って雑誌に掲載されていた。


だが今とは違ってずっと安定した順位を得ていた訳ではなく、ランクインする時もあればしない時もあった。


日を追う事に後ろに追いやられるような形で自らの手で一旦作品を終わらせる形を選ぶ。打ち切りになるくらいなら描き終えたいという思いがあったから。


ならばダブル物語としてやっていこうと河島さんに連絡をして提案をする。だが同じマンガ家が複数作品の連載は基本的に出来ないし、上に提案をしても却下されることが多い。


電話を切って復活して欲しいという声をもらったならどういう形であれ、再び描きたい思いがある。同じ雑誌で掲載するということは厳しいのか……。


かといって作品別に雑誌を変えるとなると担当者も変わればアシスタントさんもまた変わる。やったことの無い子たちだった場合、またイチから教えなくてはならない。


映画化までしてもらった「石岡杏子と子グマのリナちゃん物語」にピリオドを打ってその代わりに「新従姉妹恋愛物語」をやっていこうかと河島さんに相談する。


翌日、河島さんと編集長がやって来てそれはダメ。看板作品を終わらせることは会社が潰れると言うのと同等を意味をするから引き続き描いて欲しいと泣き付かれる。ならばどうにか出来ないか案を伺う。


編集長から出た言葉は意外なことだった。

「石岡杏子と子グマのリナちゃん物語」と「新従姉妹恋愛物語」両方作品を掲載する方法ならある。


どちらかを週刊でやってどちらかを月刊でやる。必ずしも保証はされるものではないけど可能性はあるかな。どちらの作品を週刊、月刊でするのかは本人次第だけどねと家を出ていった。


どちらかを週刊、どちらかを月刊でやる。そうなると再びアシスタントさんを別に必要になってくる。今いる人たちにお願いするのも手だがそうなるとこれまで以上に時間を拘束することになる。


基本的にアシスタントさんがずっといてくれるなんて毛頭にもない。


誰かが抜けたら誰かを補わなきゃいけないがそれをするのはマンガ家である碧波の仕事。その上、どのイベントに参加するかなどの広報的な役目をする人の問題もまだ解決はしていなかった。


人員確保

碧波とアシスタントさんたちは直接雇っているというよりは出版社との契約でたまたま来てもらっている形になる。とりあえず「石岡杏子と子グマのリナちゃん物語」は現状、週刊として毎週原稿を描いている。


月刊で新しくやるといっても決まったというよりもやっていきたいという願望に近いところがある。


それよりまずは碧波のスケジュール管理やオファーに対してどうするかをしてくれる人の方が急務になっていた。


考え事をしていると佐藤さんが碧波の下に、やってきた。アシスタントを辞めるって話なのかビクビクしていた。


「碧波さん、スケジュール管理する人っていますか?いないなら瑠那がやろうかなと。大学の講義はフル単取って行くのはゼミの時だけなので」


佐藤さんが自分から碧波のスケジュールを管理すると言ってくれるのはホントありがたい。だが問題もある。


それは大学に行かない期間はお願いを出来ても卒業してしまうとアシスタントも辞める。そうなればまた探さなくてはならず流動的になってしまう。


株式会社赤松碧波を設立して正社員として契約をしてマンガ家とアシスタント、そして広報とそれぞれ募集をするのも手ではある。


だがどれだけ人が集まるか分からないし一定の人数を達すると就業規則を作らなきゃいけないし、固定給や残業代の支払いの他にも労働組合の加盟や社会保険といったこともする必要がある。


碧波は頭を抱えながら呟いていた。


瑠那は大学を卒業をしても引き続きアシスタントをやりつつ空いてる時間を見つけて自分の作品を描いているので卒業と同時にいなくなることはないので。他の人たちも同様のことを言ってくれてとても嬉しい。


その気持ちだけでとても嬉しい。


だけどアシスタントさんや広報を見つけるのは碧波の仕事だから6人が気負う必要はないよ、それぞれの人生だからゆっくり時間をかけてこれからどうしていきたいか考えて。その上で碧波と一緒に居たいってなったらまた教えてね。


立場を利用した強要やパワハラということが大嫌い。そんなことをするのは人としてどうかと思っていた。


例えばマンガ家が上、アシスタントさんが下で指図をしたり物々しい雰囲気にすることは考えていない。


自分の作品に関わってもらっているからにはやりやすい雰囲気を作るのも大事だと思っていたからだ。


なので私語をしようが飲食しようが構わない姿勢で立場を超えてフラットの関係でいようとする。


とりあえず赤松碧波の広報はひとまず佐藤瑠那を起用することを決めた。

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