肖る

商品と一緒に

4月になり、函館から所沢に来て1年になる。


近くの公園には桜吹雪が舞っていてその中を真新しい制服やスーツに袖を通している様子を見て初々しいなと感じていた。


その姿を見て去年の自分と重ねていた碧波。右も左も分からず、電車に乗る多さに圧倒されていた。


そんなことを振り返りながらネームを描いていた。アシスタントさんが来るまでにスムーズに出来るようにとやっていた。


予定時間、呼鈴が鳴って6人が家に入る。

みんなコンビニで何かを買ってきたのか袋を持っていた。タイミングを見計らってお菓子や何か飲むのかなと感じていた。


碧波の中ではあることを決めていた。

やるべき事をすれば時間内であっても飲食や私語をしたらダメだと言わないようにする。


それは話している内容から何かいい案が浮かぶかも。これをキッカケに参考して取り入れて感覚が掴めたこともあったから。


午後3時、ちょっと小腹が空く時間に6人が袋から取り出したのは揃って同じお菓子。このお菓子が流行っているのか聞いてみるとそれもあるが別の理由がある。


話を聞くと「石岡杏子と子グマのリナちゃん」とのコラボで指人形でランダムで出る。出たやつを見させてもらうと小さいのに精巧でとてもかわいい。見つけたらこのお菓子買ってきて欲しい。お金は払うから。


自分を奮い立たせるものは何か、それは雑誌を手に取って読む読者。新年度になって何か始めようと買ってきてもらったお菓子の指人形を見える位置に置いた。


可能なら全商品を置きたいが場所は限られているし、マンガを描くスペースが減っては意味がない。


翌週、今度は揃って同じ雑誌を持っていた。この雑誌を持っているということは何か欲しい付録があるのだなと感じていた。


どんなものなのか見ると子グマのリナちゃんのカバン。何コレ?めっちゃかわいいとテンションが上がってネット通販で早速注文をする。


色々な企業が自分の作品とコラボしたい、そう思ってくれているのはとても嬉しいこと。


街中で付録品を持ち歩いている姿、お手紙で買いたかったけど売り切れと聞くと人気はまだ続いているなと実感していた。


数年に渡って作品を好きでいてくれる、アニメや映画グッズを持ってくれているファンの方、付録品であっでかわいいからと手に取ってくれている人たち。その人たちに支えられている。


その一方で人気は水ものという言葉もある。「石岡杏子と子グマのリナちゃん物語」が爆発的な人気になったことにより何か別の作品を描くにしても同じようなクオリティーが求められる。


この作品のピリオドはどこなのか、もし終わるとしたらどのような形になるのかと少しながら考えていた。


地元を感じる

ある朝、家の郵便を見るとチラシが入っていた。それは少し離れた川口市というところに北海道のアンテナショップが出来るとのことで気持ちが高揚していた。


開店日はまだ未定と書いてあるがお土産で有名な白い恋人、北海道では有名な飲み物のカツゲンを買おうなど色々と考えていた。


地元がアンテナショップとして道外にも出来るって嬉しいと率直に感じていた。


行ったことのない人にも知ってもらえるキッカケになることはとてもいいことだな。


もう少し時間に余裕が出来たら埼玉や東京だけでなく他の地域にも行ってみたいと考えていた。


ぼんやり考えていると知らない番号から電話がかかってくる。


かけてきたのはアンテナショップが入る予定の商業施設からで開店日にトークショーのゲストとして出演して欲しいとの依頼だった。


お客さんとして行く予定でいたのにまさかのゲストとして呼ばれるとは思ってもいなかった。参加することを表明をして開店1ヶ月前には連絡が欲しいと伝えた。


トークショーの日程の確認など直接話し合いが必要だなと感じていたが碧波の予定とアンテナショップの広報さんとの予定が中々合わずにいた。


ビデオ通話アプリで行うことにする。自分だけでマンガを描いているならいくらでもスケジュールを変えられるがアシスタントさんがいてそれぞれ予定がある。何かある度にスケジュールを変えるのは中々出来ないからと感じている。


日中、アシスタントさんがいる中でビデオ通話アプリで打ち合わせをしていた。トークショーを終えてからサイン会に移る。


翌月に行われるイベントにワクワクする。どれくらいの人が来るかその時にならないと分からないが碧波を見たいと思って遠くから足を運ぶ人たちもいると毎回聞くと嬉しくて言葉にならない。


開始時間の数時間前に待機室で集まるとポスターにはゲスト赤松碧波とは書かれておらず、シークレットゲストとなっている。


これはどれくらい集まるのか不安になっていた。開場時間になり、カーテン越しから覗くと沢山の人が集まり、シークレットゲストを予想しながら誰なのかという会話が飛び交っていた。


時間になって会場に登壇すると驚く人、泣く人と沢山いた。司会者が質問をして碧波が答える。


質問コーナーで集まった人が質問をするとやっていること自体はさほど変わらないが辛辣しんらつの質問、好きな人はいるのかとプライベートを聞く小学生などいた。


トークショーを終えてからお客さんとともに写真を撮ってサイン会に移る。いつも作品を見てるという女子校生、今日初めてイベントに参加したという小学生の男の子。次はどんなイベントに呼んでもらえるのか。


マンガを描きつつアシスタントさんの日程を聞きつつイベントの予定を組む。ホント休まる時間がなく、赤松碧波の後援会を作るかイベントの調整をするために広報を雇ってお願いするか考えていた。

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