第3章 新作

次の作品と悩み

マンガ家赤松碧波は打ち切り候補にリストアップされたことを知って途中で作品が完成せずに終わるのは自分自身も読者もツラいと考えて一旦区切りを付けた。従姉妹恋愛物語は1位で幕を終えてみて感じることがあった。


色々な作品が載っている中、順位には乱高下あったが長期間やってこれたのは間違いなく楽しみにしている読者、そしてまた読みたいと心待ちにしている方々がいるからこそ続けてこられた。この事に偽りもない。


お手紙を書いてくれた人にはそれぞれお返事をしたいと考えていた。マンガ家として出来ること、それは作品の質を上げて読みたいと思われる、それが大事だと実感していた。


自分で終わらせると決めて描ききった碧波、いざ終わってみると虚無感で次のことは何も考えていなかった。さて次は何を描こうか……何も思い浮かばない。


描くテーマやどのジャンルにするかくらい予め考えてから描ききればよかったと後悔をしていた。とはいえすぐにテーマが思い浮かぶものではない。


碧波はしばらく普通の女子校生として友達と遊びつつ学校帰りに何か参考になるものはないかと模索していた。


何を考えてもコレといった案が全く思い浮かばない。こんなにもマンガを描くのは難しいのかと実感する。


従姉妹恋愛物語は名前を変えているものの従姉妹、白翔と碧波。自分たちがデートで行った場所。どこに行ったらお互いに話し合って描いてきたためそこまで困るということはなかった。


それに加えて白翔が細かいところを変えた方がいいとアドバイスのおかげもある。終始頭を抱えていることが数ヶ月続いた。


すると河島さんから電話がかかってきた。

「碧波ちゃん、新作の原案出来た? 出来てないならばいつても相談に乗るよ」


いつも気にかけてくれる河島さん、口では言わないが心配そうに碧波を見つめている白翔のためにも次はどうするか早く決めようと焦っていた。


焦れば焦るほど何も思い浮かばないし空回りする。ウェブマンガや友達の家でマンガを読むがピンとひらめくものは何もない。白翔に何か案が何か聞く。


白翔とともに様々なジャンルのマンガを読んで参考に出来ればと考えるがキャラクターがかわいい、ストーリーが面白いとなるがいざ自分たちで描こう、そういう感じにはならない。碧波はわらにもすがる思いで河島さんに電話をする。


「白翔とともにどのような作品を描くか考えてきたんですがこれぞっていうものが思い浮かばなくて……。河島さんにご意見を伺いたくアポなしで電話してすみません」


「原稿を元に打ち合わせするのが担当の仕事だけど描くマンガ家さんがいてこそ仕事が出来るからさ。だから困ったことがあったらいつでも頼ってね」


忙しいからなのかキャッチが入ったからなのかブツっと電話は切れた。


申し訳ないと思いつつも自分たちでどうにもならないと行き詰まっていた時に河島さんからいつでも頼っていいと言ってもらえて心が軽くなった気がした。


これならば

白翔の家に数箱の段ボールが届いた。送り主を見ると河島さんからで中身はなんだろうと開けた。

すると参考にして欲しいと異なるジャンルのマンガが入っていた。自分たちは何を描くべきかと碧波と白翔、2人の共同作業が始まった。


全て読み終わるのに数週間を要したが方向性が決まらない。早く読者に連載したものを読んでもらいたい、だけどクオリティーの低いものは届けたくないと気持ちの狭間にいて白翔に話しかける。


「白翔だったらどんな作品を読みたいと思う?」

ジャンルが決まらないとどうも言えないよ。何を重きを置くか。キャラクターなのか?ストーリーなのか?マンガ家ってスゴいなって改めて感じるな。


確かにそうだよね、舞台は北海道にしたい。碧波は旭川、白翔は函館とずっといる街だからこそこだわりたいな。とは言っても何もアイデアが浮かばなくてさ。

そうこうしているうちに晩御飯の時間となってリビングに向かう。


テレビを見つつ箸を進めているとあるニュースが飛び込んできた。

「全国各地でクマが畑を荒らし、住宅街にも現れる」

このニュースを見て白翔は呟いていた。


「人間が山を切り拓いてクマたちの暮らす環境を阻害したから人里に降りて果物や畑のものを食べてヒドイって言うのは違うかな。空砲や麻酔銃で自然に返すならともかく射殺するのは違うよね」

碧波の方を見ると目を輝かしていた。


白翔、決まったよ。マンガ家赤松碧波が描くマンガの方向性が分かった気がする。まだタイトルとか何も決めてないけどさ。だから前みたいに手伝って欲しいと考えているけどいいかな?


手伝うのは構わないけど今度はどんなの考えてるの?

テレビでやっているでしょ?クマが住宅街に来てるって。人間の動物が別々に暮らしているけど共存する世界があってもいいと思うの。


大きいクマだと怖いからどれだけ食べても大きくなれないクマだったらかわいくて親しみ易いかなと考えていてさ。


舞台は北海道、主人公になる子グマも北海道の名産のものを使ったものにすればこういうものが有名だと知ってもらえるキッカケにもなるしマンガに触れない人も地元が載っているマンガなら読んでみようと思う人もいてくれたら嬉しいな。


詳しいことはこれからだが大枠は決まってきた。

年が明けて、碧波は高校を卒業して制服と名残惜しく別れることになった。

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