期待と不安

行方

休載していた碧波は再びペンを持ってマンガを書くことを決めた。河島さんとともにいい作品にしようと白翔とともに奮闘している。


同じ高校の友達からはまたマンガ家赤松碧波が復活するんだね、応援してるよ。載る号を教えてくれれば買うよ。そして投票する。温かい言葉を聞いて待っている人がいる以上、頑張らないといけないと今まで以上に気合いを入れていた。


白翔は従姉妹恋愛物語をどうすればよくなるだろうか、キャラクターやどういうセリフにすれば人気が出るかと碧波、そして河島さんとともに考えていた。再連載を果たした号の速報で6位、発売号で4位と上々の仕上がりにひと安心していた。


マンガ家赤松碧波にはまだ読んでくれるファンの人がいてくれる、半年という長い間も休載していたのにも関わらず待っていてくれた人がいたからこそこの順位でいられる。そのことがとても嬉しかった。


その一方でプロとしてやっている以上、上を目指さなくてはいけない。1位でもそれをキープしなくては。それにはどうするべきなのか模索し続ける。


いつも通り白翔も打ち合わせに参加をする。

女の子にキャラクターのヘアピンやカチューシャを付けるのはどうか、男の子にもワンポイントとしてカッコイイネックレスや帽子を被せる、童顔の子にはキャラクターの帽子を被せるなどとそのキャラクターに合わせた緩急を付けるようにしたら色々な年代の男女に好かれるのではないか。


白翔の提案は河島さんも唸るほどで自分にはない着眼点だ、将来は編集社で働いて欲しいと中学生の段階からオファーをするほど優れていた。


大枠はそのままで細かいところを変える。週刊で買ってくれる人は殆どが毎週やひと月に何回も買ってくれるようなコアなファンが多いと睨んでいた。


それぞれ好きなマンガ家、好きな作品が違えど投票してくれる人は少なからず全部目を通してくれる人が多いから。

そうじゃなくてもそう願いたいと中学生だが、そう考えていた。


碧波と白翔は家で話していた。

「自分が求めるものを書くべきなのか、それとも読者が求めるものを書くべきなのか。どうしたらいいのかな」


碧波は悩んでいた。従姉妹恋愛物語は決して順位は悪くないし、休載前や再連載してからも速報、発売号ともにひとケタを維持し続けていて大きく変える必要はないと白翔の考えだった。


飽きられないよう細かい工夫を凝らしている。白翔としては意見はするがあくまでも客観的な意見でそれを取り入れるかどうかは作者である碧波、河島さんに委ねている。


リスト入り

しばらくの間、マンガ家赤松碧波の従姉妹恋愛物語は常にひとケタでいる人気作でいたがある号を境に順位が下がってランクインが出来ないことが増えてきていた。碧波、白翔、河島さんの3人で話し合っていた。


とりわけ大枠を劇的に変えることはしていない。なのになぜか結果が伴わない。巻頭カラーも務めたこともある作品、雑誌の看板作品とも言っても遜色ないのにと白翔は呟いていた。


毎回雑誌は河島さんからもらって中身を確認する。前は最初やセンター辺りに掲載されていた作品がどんどん追いやられているような状況になっている。それをどういうことを意味するのか河島さんが言わずとも作者の碧波と白翔は理解をしていた。


人気作のマンガ家から編集社にマンガを持ち込む新人マンガ家と数えればどれだけライバルがいるのか見当もつかない。


誰かの作品が掲載されるということは誰がの作品が削られる。このことは理解をしているがまさか自分たちがその立場になるの日が来るとは思ってもいなかった。ずっと従姉妹恋愛物語に携われると考えていた白翔として複雑な気持ち。


ファミレスを後にした帰り際、白翔は碧波に声をかけられずにいた。平然とした顔をしているが明らかにムリをしているのが寂しそうな背中が物語っていた。


中途半端な形で作品を終わってしまうのか、キリのいいところでひと区切りさせるのか。自分の作品に誇りを持っている碧波に気軽に聞けずにいる。本人が話したくなった時に聞くまで続ける気持ちでいよう。


次の打ち合わせの始まる前、碧波は口を開いた。


「掲載、休載してそれから復活してからも沢山の方から愛されたこの従姉妹恋愛物語は次で1度ピリオドを打とうと考えています。このままダラダラ続けて中途半端になるよりも自分で作品を締めたい」


それを始めて知らされた河島さんと白翔、驚きつつもその方が作品のためにもいいかもと賛成をしてくれた。

速報で10位、発売号で8位と勢いを取り戻した。


碧波が区切りを付けると決めた次号は記念の1000回目、数年に渡り掲載を続けてきた従姉妹恋愛物語の最後はセンターカラーで決まった。背景には河島さんが編集長に熱意を伝えて決まったと聞いた。その結果、速報1位でそのまま発売号で1位を獲得した。


そしてしばらくして編集社から荷物が届いた。

そこには沢山の手紙が来ていた。

「従姉妹恋愛物語が終わるのは寂しい」、「赤松碧波さんというマンガ家が好きなので次の作品も楽しみ」


作品を終えただけでマンガ家を辞める気など毛頭にもなかった碧波だが改めてそう言われて嬉しい気持ちになっていた。

次はどんな作品を描くか考えていた。

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