第40話 サミーさんとユニー

 皆が買い物に行くために屋敷を出ていくのを見送って、俺とリラは使用人の中で唯一屋敷に残ったサミーさんと魔車に向かっている。

 サミーさんにはできる限り早くユニーと仲良くなって魔車を扱えるようになって欲しいので、今は残ってもらったのだ。サミーさんの生活必需品はこの後、一緒に魔車で買いに行けば良いかなと思っている。


「サミーさん、さっきも見たと思いますがこちらがうちの魔車で、この魔車を引くのが俺の従魔であるユニコーンのユニーです」


 サミーさんは俺のその言葉を聞くと、瞳を輝かせて魔車を色んな角度から眺めた。


「こんなに立派な魔車の御者を任せてもらえるなど……本当に光栄です。ありがとうございます。借金奴隷になった時には人生どん底だと思いましたが、分からないものですね」

「中も見て良いですよ。魔道具の魔車なので、空調完備でほとんど揺れることはないです。一度乗ってみますか?」

「良いのですか!?」

「もちろんです」


 さっきまでは穏やかな壮年の男性という感じだったのに、魔車を前にしたサミーさんは少年みたいだ。やっぱり誰でも好きなものの前ではこうなるんだな。


 それからサミーさんと俺が魔車に乗って、リラが御者席に座り魔車を動かしてくれた。


「本当に揺れませんね……窓の外の景色が移り変わっていくのが信じられないほどです」

「凄いですよね。俺とリラもこんなに凄いものをもらっちゃって、まだ少し困惑してるんです」

「そうなのですね……壊さないようにしなければいけませんね」


 小さな声でポツリとそう呟いたサミーさんの声は暗く、まだ商家でのことがトラウマになっていることが分かった。


「別に壊してしまっても大丈夫ですよ。修理すれば良いですし、ダメになってしまったら新しいものを買えば良いんです。物はいずれ壊れるんですから。わざと壊したっていうのはやめて欲しいですけど、不可抗力ならばサミーさんの所為ではありませんよ」


 少しでものびのびと働いてほしいなと思って思わずそう伝えると、サミーさんは暗い表情を消し去り穏やかな笑顔を浮かべてくれた。


「ありがとうございます。本当に素敵な方に雇われて、私は幸せ者です」

「ははっ、大袈裟ですよ。それに俺達は冒険者ですから、危険なところにも向かいます。なので良い雇い主かは……微妙な気がします」

「いえいえ、私は元々運送の仕事をしていたのです。街の外で一年のほとんどを過ごしていましたから、危険には慣れております」

「それは心強いです」


 そこまで話したところで庭を一周したようで、魔車が止まって窓の外の景色が動かなくなった。そこで俺達はドアを開けて魔車から降りる。


「リラ、ありがと」

「うん。サミーさん、どうでしたか?」

「とても素晴らしい魔車でした。御者をできるのが楽しみです」

「それなら良かったです。これからよろしくお願いします。ユニーちゃん、こっちにおいで」


 ユニーは魔車と繋がる器具をすでに外してもらったようで、リラに呼ばれて嬉しそうに駆け寄ってきた。そしてリラに頭を擦り付けてから、俺の方に来て俺のお腹に顔をぐりぐり押し付けてくる。


「ちょっと、ユニー、激しいって」

「ふふっ、ユニーちゃんは甘えん坊だね」

「サミーさんも撫でてあげてください。ユニーは人懐っこいので大丈夫です。ユニー、御者をしてくれるサミーさん。仲良くするんだよ」


 ユニーは俺のその言葉を聞いてサミーさんに視線を向け、少しだけ警戒しながらも顔を近づけた。そしてサミーさんがユニーの首元を何度か撫でると、大丈夫だと思ったのか嬉しそうに顔を擦り付ける。


「ユニコーンとは、こんなにも人懐っこいのですね」

「そうなんです。ただユニーが特別なのかもしれません」


 それから数分でサミーさんとユニーは完全に打ち解けたようで、ユニーはサミーさんの言う通りに動いている。これなら御者をやってもらうのも問題ないかな。


「じゃあ御者をやってみましょうか。敷地内で問題なければ、そのまま買い物に行きましょう」

「分かりました。じゃあユニー、器具をつけるよ?」


 サミーさんは手際良くユニーに器具を取り付けて、俺とリラはスラくんを連れて魔車に乗り込んだ。すると問題なく魔車は進み、ユニーはサミーさんの指示通りに動いている。


「リラさん、リョータさん、このまま買い物に行ってしまって良いでしょうか?」

「良いですよ。ただ門の鍵を閉めたいので、外に出たところで一度止まってもらえますか?」

「かしこまりました」


 そうして俺達はサミーさんの運転で魔車に乗って、買い物のために市場へ向かった。王都の中心部にも中心部で働く人達向けの市場があるので、目的地はそこだ。


「かなり人がいるんだなぁ」

「貴族の屋敷で働く人からお店で働く人までたくさんいるからね。あっ、皆がいるみたい」

「本当だ」


 使用人の皆も市場に着いていたようで、俺達に気づくと頭を下げてくれる。


「皆さん、大きい荷物や持ちきれない荷物があったら、魔車に載せて良いので言ってください!」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 リラの言葉に皆がもう一度頭を下げてくれて、既に買い物をしていた人達からいくつか荷物を受け取った。受け取った荷物は石鹸や掃除道具など、屋敷の中の管理に必要な物みたいだ。


 それから俺達はサミーさんの生活必需品を購入し、俺達もアイテムバッグが手に入ったことでなんでも持ち運べるようになったので欲しいものをたくさん買い、最後に皆の荷物をできる限り魔車に詰め込んで屋敷に戻った。

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