第39話 仕事の割り振り

 皆を屋敷まで連れ帰ってきて、今はリビングに全員で集まっている。初めての場所だからか、予想以上に豪華な屋敷だったからか、皆は緊張しているようだ。


「まずは自己紹介からしようか。皆さん、私はリラです。こっちのリョータと一緒に冒険者をやっていて、今回は大きな功績をあげて国からこの屋敷をもらえたので皆さんを雇いました」


 リラのその説明を聞いて、皆はギョッと驚いたような表情を浮かべる。国からこの屋敷がもらえるとか、どんな立場なんだよって思うよな。うん、俺も思ってる。


「初めまして、リョータです。この子はスラくんでこっちがユニー」


 俺もリラに続いて挨拶をすると、皆は戸惑いつつも頭を下げてくれた。


「私達は冒険者だからこの屋敷を何日も離れることが多いと思うし、そうでなくてもこの屋敷を二人で管理はできないから、管理全般は皆に頼みたいと思います」

「そっちから五人がこの屋敷の掃除や備品管理とか、屋敷の中の管理。そして後ろにいる三人は屋敷全体の警備。そっちの二人が庭師。そしてあなたが料理担当で、最後の一人は魔車の御者を頼みたいと思ってます。じゃあまずは、皆さんも自己紹介を」


 俺のその言葉によって、雇った皆が端から名前と年齢、そして今までやってきた仕事や得意なことなどを話していった。

 十二人の名前はさすがにすぐ覚えるのは無理だな。とりあえず接することが多いだろう人から覚えていこう。まずは誰よりも御者を頼む人かな。


 御者を頼むのはサミーという名前の壮年の男性だ。優しげな風貌で、以前はある商家で商品の運送を担当していたらしい。しかしある日の仕事の途中、突然の豪雨に見舞われて魔車が雨漏りをして、商品を全てダメにしてしまったんだそうだ。


 普通に考えたらサミーさんの過失じゃないけど、その商家はあまり良い雇い主じゃなかったらしく、サミーさんの過失にされて借金を背負わされて放り出されてしまったらしい。

 これってかなり酷い話だよな……こういう理由で借金奴隷になることを考えると、やるせない。


「では皆さんさっそくですが、今日は皆さんが住む場所を決めたり、生活するにあたって必要なものを揃えたり、そういうことをお願いしたいです」

「かしこまりました。私達が住むのは屋根裏でしょうか? それとも別棟か何かがあるのでしょうか?」


 そう質問したのは、屋敷内の管理として雇われた女性だ。


「いえ、皆さんには客室を使っていただこうかなと思っています。二階と三階に十部屋ずつ部屋があるのですが、二階が女性で三階が男性とする予定です」


 俺とリラで事前に決めていたそのことを伝えた途端に、皆はギョッと目を見開いて俺達を凝視した。そして口を開いたのは警備担当として雇われた男性だ。


「俺達は奴隷だから、主人であるあんたたちと同じ階に住むっていうのは……いいのか?」

「屋根裏部屋や地下に部屋はないのでしょうか?」


 やっぱりそう思うのか……一応この屋敷にも屋根裏に小さな部屋がいくつもあるにはある。ちゃんと見て回ってないけど、文官によると十五部屋はあるって話だった。


 だからそこを使ってもらうんでも良いんだけど……二十部屋もある豪華な部屋をほとんど使わずに屋根裏を使ってるなんてもったいないので、使用人にも客室を使ってもらおうってリラと決めたのだ。

 屋根裏は一部屋だけ見たけど、薄暗くてベッドしか置けないような小さな部屋だったし。


「一応屋根裏に部屋はありますが、客室の方が快適ですし使ってもらって構いません。この屋敷に客人が来る予定もないですし、皆さんが全員一部屋使っても六部屋残りますので問題はないと思います」

「――それなら、使わせてもらいましょうか。良い主人に雇われて幸せですね」


 優しい笑顔でそう言ったサミーさんの言葉を聞いて、皆も俺達が良いならって雰囲気に変わった。そして最終的には全員が客室を使うことで納得してくれたみたいだ。


「部屋割りは皆さんで話し合って決めてください。ただその前に、まずは必要なものを買いに行かないとですね。調理器具と食材もなくて、今夜の夕食もここでは食べられないので」

「それは大変だ。調理器具とかを揃える金はもらえるんですか?」


 リラの言葉に反応したのは料理人として雇った男性だ。


「もちろん渡します。とりあえず最初はお金がかかると思うので、今日は多めにお金を渡すので必要なものを自由に揃えてください。これから先は使用人の代表者に定期的にお金を渡して管理してもらうので、そこから必要なものは購入してください」

「分かりました、ありがとうございます。リーダーは誰になるんでしょう?」


 誰が良いかな……俺は十二人の顔を順番に見回してからリラに視線を向けた。するとリラもちょうど俺を振り返ったところだったようで、視線がパチっと合う。


「リラ、誰が良いと思う?」

「うーん、私はフルールさん」

「おっ、俺も同意見」

「じゃあ決定で良いか」


 フルールさんは屋敷の管理に雇った女性で、ふんわりとした優しい容姿をしているけれど、ここまで見てきた限りではかなりしっかりしていて芯が強い性格だと思う。

 この中なら一番、皆をまとめるという役には向いてるだろう。さらに生まれが商家で、計算などお金の管理が得意というのもリーダーに向いてるポイントだ。


「フルールさん、使用人の代表者をやってもらえますか? お金の管理をお願いしたいです」

「……私で良いのでしょうか? 任せていただけるならば、精一杯務めさせて頂きます」

「もちろんです。ではよろしくお願いします。皆さん、これからはフルールさんがリーダーですので、反発などしないようにお願いします」


 リラのその言葉に皆が頷いてくれたのを確認して、俺達はそれぞれに必要なお金を多めに渡して、皆を買い物に送り出した。

 これでとりあえず屋敷の管理は回っていくかな。こんなに大きな屋敷を突然もらってどうすれば良いのかと不安だったけど、なんとかなりそうで良かった。




〜お知らせ〜

明日と明後日の投稿はお休みさせていただきます。また月曜日からは毎日投稿する予定ですので、楽しんでいただけたら嬉しいです。


いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。


蒼井美紗

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