異世界でパッシブスキル「魅了」を得て無双する〜最強だけど最悪なスキルに振り回されてます〜

第36話 魔車と屋敷へ

　王宮のエントランス前に堂々と鎮座していた魔車は、俺達が王都まで乗ってきた快適な魔車と同程度に豪華なものだった。

　豪奢な装飾は付いてないけど、一目で質が良くて高いことは伝わってくる。

「中古の魔車を買おうとか言ってたのに、めちゃくちゃ豪華なやつが手に入ったな……」

「本当だね……こんなのお金があったからって手に入るものじゃないよ。多分予約しても何年後に受け取りですとか、そういう魔車だと思う」

「そんなのを俺達が……盗まれたりしない？」

「それはないかな。これに乗ってる人に逆らおうって考える人がいないだろうから」

　そういう感じの魔車なのか…………日本で例えたらリムジンとか、そういうのと同じかな。確かに絶対に手を出さないでおこうって思う車だ。

「内装なども問題がないか確認してください」

「分かりました」

　ドアを開けて中を見てみると、中はかなり広いことが分かる。魔道具で空調完備なのはもちろんのこと、かなり小さなものだけどキッチンのような場所まであるみたいだ。お茶を淹れられるようになってるんだろう。

　ふかふかのソファーにテーブルが設置されていて、もうさながらリビングだ。確かにあそこまで揺れなかったら、飲食をすることも可能だろう。

「凄いね。もう凄すぎて驚けなくなってきた」

「分かる。これってどうやって準備したんだろう」

「……まあ、他の誰かに売る予定だったやつを国が買い取ったんだろうね」

　やっぱりそうだよな……その誰かに恨まれてないことを祈ろう。

「内装も問題ありませんでした。とても素晴らしい魔車をありがとうございます」

「それならば良かったです。ではこちらの魔車で屋敷に向かっていただけますか？　車を引くのは従魔だと聞いているのですが……」

「はい。城壁に預けてあるんです。呼んできますね」

　それから城壁に戻ってユニーとスラくんと合流し、二人と一緒に魔車がある場所まで戻った。

「ユニー、この車を引ける？」

「ヒヒンッ！」

「結構大きいけど、重くないかな」

「ヒヒーンッ」

　ユニーは問題ないとやる気満々だ。ユニコーンは強い魔物みたいだし、大丈夫なのかな……俺は少し不安に思いつつも、王宮の使用人に教えてもらいながらユニーに器具を取り付けた。

「じゃあユニー、ゆっくりお願いね」

　御者席に一人は座らないといけないみたいなので、俺はスキルのことも考えて後ろに乗ることにして、リラが御者席に座ってくれた。

「ヒヒンッ」

　そうしてユニーが引く魔車は、文官が乗った王宮の魔車に付いて順調に進んでいき、数十分後には大きな屋敷に到着した。

　俺は魔車を降りる前にリラに車の方へ来てもらい、スキル封じをかけてもらってから魔車から降りた。リラにずっと御者を任せるのも微妙だし、誰か御者ができる人を雇ったほうが良いかな。

「リョータ殿、リラ殿、こちらが褒美の屋敷です。以前はある貴族が別邸として使用していたのですが、現在は領地に戻ったために使わなくなり、売りに出されていた物件です。掃除など一通りの手入れは済ませてありますので、今日からでも住んでいただけます」

　屋敷は日本ではまず見たことがないほどに大きな建物だった。高さは三階建て程度だと思うけど、横にかなり大きい。

「全部で二十部屋ほど、客室や自室として使っていただける部屋がございます。さらに大食堂が一つとお風呂が大小二つ、テラスなどもございます。以前の持ち主が美食家でしたので、厨房はとても広く最新設備が完備されています」

　二十部屋とか……誰が使うんだよ。というかこの広い屋敷、どうやって管理すれば良いんだろう。掃除だけで一日が終わりそうだ。

「リョータ、使用人を雇わないとダメだね……」

「うん。俺達だけだと無理だよな。さっき御者も雇いたいと思ったし、一斉に募集する？」

「そうだね。それか奴隷を雇うのもありかな。使用人だと住み込みでっていうのは難しいだろうし」

「え、奴隷！？」

　俺はリラの言葉に心から驚いて思わず叫んでしまった。この国って奴隷なんて存在がいたのか……今まで気づかなかった。でも奴隷みたいな人は、今まで見たことがない気がするんだけど……

「説明してなかったっけ？　この国には犯罪奴隷と借金奴隷がいて、借金奴隷の方は誰でも雇えるんだよ。使用人を募集するよりかなり安く雇えるから、結構人気かな。奴隷に対する給料は一律で決まってて、三割が奴隷商に、そして七割がその人のものになるの。それで奴隷はお金を貯めて借金を返し終えたら奴隷から解放されるから、雇ってる人は解放された奴隷をそのまま雇い続けるか、解雇してまた新たな奴隷を雇うのかは自由なんだ」

　なんか、意外としっかりしてる制度だった。俺が奴隷と聞いて想像するのとは違いそうだな。

「奴隷に対する接し方の決まりとかはあるの？」

「接し方の決まり？　ああ、働き方ってこと？　それなら一日に十二時間以上は休息を取らせないといけないって決まってるよ」

「……例えば、暴力を振るったりとかは？」

「そんなことしたら捕まるに決まってるでしょ？　え、もしかしてこの国では暴力は認められてると思ってた！？　確かに冒険者ってガサツな人が多いもんね……この国で暴力は捕まるからダメだよ。ちゃんと覚えておいてね」

　リラの反応からして、この国では一般人と奴隷で人権に差はないんだな。そういうことなら雇うハードルがかなり下がった。

「分かった、覚えておくよ。じゃあ奴隷を雇うことも視野に入れようか」

「うん。私はそれが良いと思うよ。奴隷の人達も雇われないと、いつまでも借金を返せないからね」

　確かにそうなのか……本当に奴隷って名前なだけなんだな。そうしてリラと話がまとまったところで、俺達は屋敷の中を見て回ることにした。