第35話 国からの褒美

 俺とリラがほっとして体に入った余計な力を抜いていると、謁見室にいた文官の一人が俺達に近づいて来た。


「リョータ殿、リラ殿、謁見はこれで終了となります。褒美についての話がございますので、別室までご案内いたします」

「分かりました。よろしくお願いします」


 さっきまでよりも体が何倍も軽い気がして、ふわふわしながら文官の言葉に頷くと、案内されたのは謁見室からすぐ近くの個室だった。


「ソファーをどうぞ」

「ありがとうございます」


 俺達が腰掛けるとさっそく本題に入るのか、豪華な布が張られて宝石があしらわれた……例えるなら、日本の高級レストランのメニューみたいなやつが渡された。


 開いてみると、褒美として四つの項目がある。一つ目は信じられないほどに莫大なお金。これだけあれば一生遊んで暮らせるほどだ。そして二つ目は王都の中心部に位置している屋敷。三つ目は屋敷三つ分ほどの容量があるアイテムバッグ。最後四つ目は魔道具を使って快適に作られた高級魔車だ。


「これって……どれか一つを選ぶんですよね?」

「いえ、全て褒美となっております。アイテムバッグとお金はこちらに、魔車は王宮のエントランス近くに、そして屋敷は言わずもがな、そちらの地図に描かれた場所にございます」


 うわぁ……マジか。これ全部もらえるとか信じられない。俺達が欲しいものを把握してるのも怖い。

 魔車は今すぐに欲しかったし、アイテムバッグもダンジョンで探す予定だった。お金はいくらあっても良いし、屋敷は俺の魅了スキルを家にいる時は気にする必要がなくなるから最高だ。


「リラ、受け取って良いんだよな?」


 怖くなってリラに尋ねると、リラも俺と同じような心境のようで顔色が悪くなっている。


「断るのは不敬だと思う。でも、それにしても豪華すぎるよ」

「だよな……」

「陛下がこちらの褒美に値する働きをお二人に認めたということですから、気になさらずに受け取っておけば良いと思います」


 俺達があまりの内容に固まっていると、文官が助け舟を出してくれた。確かにそうなんだけど……そんなふうに考えてもやっぱりこれを受け取るのは怖い。でも受け取らない選択肢なんてないんだし、仕方がないよな。


 そもそもさっき謁見で、国のために動くって内容に同意しちゃったんだから、俺達は実質的にこの国に所属という形になる。それなら今更、褒美をもらったぐらいで何かが変わることはないだろう。


「ではありがたく、いただきます」

「かしこまりました。ではこれから私が全ての褒美の受け渡しに同席いたしますので、その時には受け渡し書にサインをお願いいたします。それからこちらの契約書なのですが、先ほど陛下が謁見で仰られた内容が記載されております。問題がなければこちらにも署名をお願いいたします」


 その紙には国が積極的に日本に関する情報を収集する代わりに、この国、ランドサイル王国と敵対しないこと。国からの依頼を最優先で受注すること、そして他国に向かう際の制限についてが色々と書かれていた。


 端からしっかりと確認したけど、特に大きな問題はなさそうだ。さっき謁見で言われた内容とほぼ変わらない。

 でも一点だけ、気になる部分がある。


「一つだけ聞いても良いでしょうか?」

「もちろんです」

「日本への帰り方が分かった場合に関する取り決めがないのですが、その場合は帰還する権利を与える。というような文言を付け足して欲しいです。さらにリラとスラくん、ユニーのその後の生活に不便がないように取り計らうとも。……そのようなことはできるでしょうか?」


 俺のその問いかけに文官はしばらく悩み、自分では判断できないと思ったのか俺達を部屋に置いて別の場所に向かった。


「そんな要望をしちゃって良いのかな?」

「多分大丈夫だと思うけど……、その代わりに何かやれとかは言われるかも」


 ちょっと危ない橋だけど、これを取り決めておかないとせっかく日本に帰れるようになったのに、使えるスキルだから返さないとかって妨害されても困るのだ。

 契約なんて破られる時は破られると思うけど、ないよりはマシだろう。


 それからしばらく待っていると、やっと文官が戻って来た。


「お待たせいたしました。リョータ殿の要望は認められましたので、追加で記載してあります。こちらで問題なければ署名をお願いいたします」

 

 そう言って差し出された用紙をもう一度最初から最後まで確認して、問題なさそうなので署名をした。


「ありがとうございます。契約はこちらで終了となります。……では次は褒美の受け渡しですね。まずはこちらのアイテムバッグと、中身のお金です」


 トレーに載せられた小綺麗なバッグを受け取ると、重さはほとんどなかった。中身に何も入っていない軽いバッグという印象だ。


「これはどうやって中身を取り出すのでしょうか。中に手を入れてしまっても良いのですか?」

「はい。中に手を入れて、取り出したいものを思い浮かべると手に触れるそうです。それを引き出せば取り出せます」


 俺はその言葉を聞いて恐る恐る鞄に手を入れてみた。すると……見た目では手のひら二つ分ぐらいしか深さがない鞄なのに、腕がどんどん中に入っていく。

 怖くなったので肘あたりで止めて報酬のお金を思い描いてみると、指先に布のようなものが触れた。それを引き出してみると……両腕で抱えるほどの布袋だ。


 中にはお金が詰まってるのかあり得ないほど重く、じゃらじゃらと音を立てている。


「うっ……鞄の中では重さを感じないけど、外に出した途端に重い」

「そんな仕組みになってるんだ。それにしても鞄の大きさよりこの布袋のほうが全然大きいよね。アイテムバッグって不思議」

「そちらの布袋が十個入っておりますので、全てご確認ください」

「「十個!?」」


 俺とリラは思わず声が揃ってしまった。だってこの布袋だけで持ちきれないほどのお金が入ってるのに、この十倍とか……ヤバすぎる。

 数字で金額を聞いた時には実感できなかったけど、やっと凄い大金だということを理解してきた。


「市井で使いやすいようにと細かい硬貨も入れてありますので、量が増えております。百万ラル硬貨は屋敷の改築など、大きなお買い物でご利用ください」


 それから俺とリラは、一時間以上の時間をかけてお金を全て数えた。もうしばらく硬貨は見たくないほどに疲れたよ。これほどにお金を手に入れちゃうと、働く意欲がなくなりそうだな……


「次は魔車の受け渡しを行いますので、王宮の正面エントランスまでお願いいたします」

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