第19話 依頼達成報告

 スキル封じを掛けてもらい、街に戻って冒険者ギルドに向かうと、まだお昼を少し過ぎたぐらいの時間だったのでギルド内は閑散としていた。


「ユニーはどうする? ここで待ってるか?」

「ヒヒンッ」


 空いている冒険者ギルドにならユニーも入れるけど、それでも窮屈そうではあるので入り口で聞いてみると、ユニーは一声鳴いてから俺に顔を擦り付けて待機場所に向かった。


「ヒヒーンッ」

「待ってるんだな。すぐ来るから大人しくしてるんだぞ」


 ユニーを追いかけて首元をわしゃわしゃと撫でてあげると、ユニーは目を細めて嬉しそうに体を揺らす。俺はそんなユニーが可愛くてしばらく撫でてやってから、リラを追いかけてギルド内に入った。


「ふふっ、やっと来たね」

「待たせてごめん」

「大丈夫だよ。ユニーちゃんは可愛いからね〜」

「そうなんだよ。あいつめちゃくちゃ可愛いよな?」

「リョータは親バカだね」


 リラはそう言って笑みを浮かべると受付に向かってしまったので、俺は慌ててリラを追いかけた。日本に帰れることになったとしたら、スラくんとユニーとはお別れなんだよな……それはちょっと辛い。


 俺は初めて日本に帰りたいという気持ちが少し揺らいだ。この世界で知り合いや大切な人が増えるほど、帰るのが辛くなるんだろうな……そんなこと考えてもどうしようもないんだけど。


「依頼を達成しました」


 リラが受付の女性にそう声をかけると、女性はにっこりと笑みを浮かべて依頼票を受け取る。


「ギルドカードとパーティーカードもご提示ください」

「はい、これでお願いします。リョータも出してね」

「了解」


 本当にギルドカードって便利だ。この認識が合ってるのか分からないけど、機能制限型のスマホみたいな感じかな。いや、自分で中を見ることはできないからメモリーカードだろうか。


「ゴブリンの討伐証明部位をいただけますか?」

「こちらでお願いします。実はゴブリンの村を見つけまして……」

「それは、本当ですか?」


 リラがゴブリンの村と口にした途端に、にこやかだった女性の表情が強張った。本当にゴブリン村って脅威なんだな……リラが一瞬で灰にしたから、あんまり深刻さを理解できていない。


「はい」

「場所を教えていただけますか? 緊急依頼を出さなくてはいけません」

「いえ、その必要はありません。もう壊滅させてきましたので。その袋の中に魔石が入ってるので確認してみてください」

「……え?」


 受付の女性は深刻な表情から一転、理解できないとでもいうように、口を半開きにして首を傾げた。そしてしばらく固まってから、やっと動き出して口を開く。


「そ、その、ゴブリン村の討伐をお二人でということでしょうか……?」

「そうです。そこまで大きな村じゃなくて、まだ作られたばかりだったので」


 リラがそう断言するのを聞いて、自分の耳がおかしいのではないと確認した女性は、カウンターの上に置いた袋に手を伸ばした。そして袋から一つずつゴブリンの魔石を取り出して確認していき、全部で四十二個、数え切ってから一度深呼吸をした。


「確かに……まだ討伐から時間が経っていない魔石です。しょ、少々お待ちください。上に確認して参ります」


 受付の女性は驚愕の表情を浮かべたまま、後ろに下がってしまった。二階に向かったみたいなので、ギルドマスターにでも報告するのかもしれない。

 やっぱり二人であの数のゴブリン村を壊滅させるのって、規格外だったんだな。


「リラ、なんで討伐から時間がかかってないって魔石を見て分かるんだ?」

「あっ、その説明をしてなかったっけ。魔石って討伐から二日ぐらいは魔力が揺らいでるから、見てすぐに分かるんだよ。ちょっと待ってね」


 そう言ったリラが鞄を探って、一つの魔石を取り出してくれた。ゴブリンのものより二回りぐらい大きくて色も違う。


「これはこの前に倒したオークの魔石なんだけど、さっきと違うでしょ?」

「うん。さっきのゴブリンの魔石は茶色のインクが水の中で揺らいでる感じだったけど、このオークの魔石は綺麗に透き通った緑だな」

「その揺らぎが最初の二日間ぐらいだけ見られるんだよ。だから討伐して数日は判別できるんだ」

「そうだったんだ」


 これは便利だな。討伐依頼で前に討伐した魔石を渡して誤魔化すことはできないってことだ。


「魔石の色は何を表してるんだ?」

「それは属性だよ。魔力にはそれぞれ属性があって、それによって色が変わるの。ゴブリンの茶色は土属性で、オークの緑は風属性だね」

「ということは、ゴブリンは土魔法を使えたってこと?」

「ううん。その属性の魔力を持ってても魔法を使えるとは限らないよ。リョータだって魔力を持ってるけど、魅了以外は使えないでしょ?」

「確かにそっか」


 魔力は誰でも持っててそれに属性もあるけど、それによって無条件に魔法を使えるわけではないってことか。俺も魔法が使えたら良かったんだけどな……魅了じゃなくて、カッコ良い魔法スキルが良かった。


 今まで聞いた話から考えると、スキルがなくてもかなり努力すれば魔法が使えるようになって、魔法のスキルを後天的にも取得できるのだと思う。でも俺にはそんなことをしている時間はない。日本とこっちの世界の時間経過の差も分からないし、できる限り早く帰りたいのだ。


「あと魔石の色の濃さにも違いがあって、濃い方が魔力量が多くて、薄いと魔力量が少ないよ」

「魔力量って個体によって違うとか?」

「ううん。基本的には生きてる年齢で決まるんだ。だから強い魔物の方が魔力量が多い魔石のことが多いかな」


 そうなのか。強い魔物は他の魔物との競争に勝てるし、生き残って年を重ねることが多いってことだな。


「魔石は魔道具のエネルギー源だから、魔力量が多いほど高く売れるよ」

「魔道具……って、例えばどんなやつ?」

「そっか、それも知らないのか。分からないことがあったらなんでも聞いてね。私もリョータが何を知らないのかイマイチ把握できてないから」

「本当にありがと。しばらくは色々と聞かせてもらうよ」


 リラには感謝してもしきれない。あとで余裕ができたら絶対に恩返ししよう。


「それで魔道具だよね。魔道具は魔石をエネルギー源として動く物の総称って感じかな。宿の部屋にあるトイレを使ったでしょ? あれも魔道具だよ」

「ああ、あれか!」


 この世界にも水洗トイレがあるんだって驚いたんだ。あれが魔道具か……この世界は魔道具のおかげで結構便利なのかもしれないな。俺にとっては朗報だ。生活水準が下がるのはかなり苦痛だろうから。


 そこまで話したところで、受付の女性が戻ってきた。ゴブリンの魔石を全て渡したけど、それはもう持ってないみたいだ。


「お待たせして申し訳ございませんでした。応接室にご案内いたしますので、そちらに向かっていただけますでしょうか?」

「分かりました。リョータ、行こうか」

「うん」


 まさかの応接室行きなのか……その事実に少しだけ驚きつつ受付の女性について行くと、案内されたのは昨日と同じ部屋だった。

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