第17話 ゴブリン村

 森に入って数分後、さっそく俺達に、というか俺に向かって一匹の魔物が駆け寄ってきた。


「止まれ!」


 声に魔力を乗せて魅了を放つと、凶悪な表情のウサギ型の魔物はビクッと震えてその場に止まる。本当に魔物も言うことを聞かせられるのか……緊張したけど成功して良かった。


「ブラビットだね。この森で一番頻繁に遭遇する魔物だよ。特に高く売れる素材もないし、倒さなくて良いかな」

「了解。――俺達から離れろ」


 俺のその言葉に従って、ブラビットという魔物は少しぎこちない動きで森の向こうに消えていった。


「やっぱり高レベルの魅了は凄いね。魅了は好かれるならまだしも、言うことを聞かせるのって凄く難しいって話なのに。どの程度の魔物の強さまで言うことを聞かせられるのかは、これから検証だね」

「うん。とりあえず新しい魔物と遭遇したら、まずは魅了をやってみるよ」

「完全じゃなくても動きを少し止められるだけで違うし、やっぱりリョータのスキルは最強だよ!」


 リラは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、そう褒めてくれた。喜んで良いのか微妙だよな……そもそも努力で手に入れたものではないし、さらに俺にとっては有能というよりも有害だし。


「じゃあこの調子でゴブリンを倒そうか!」


 それから数分経って、俺達はやっとゴブリンと遭遇していた。はぐれのゴブリンだったようで一匹だけで、俺の魅了で完全に動きを封じられている。


「リョータ、ゴブリンって基本的に群れで行動するんだけど、このゴブリンに命じて群れまで案内させることってできる?」

「分かんないけど……とりあえずやってみるよ」


 俺は簡単な命令を下すときよりも魔力を多めに使い、集中して声を発した。


「仲間の元に戻れ」


 するとゴブリンはロボットのようなぎこちない動きで森の中を歩き始める。これは成功かもしれない!


「凄いよリョータ! もうこのスキルがあれば無敵かも」

「それは言い過ぎだよ。でも確かに便利だよな」



 それから森の奥に向かって案内されること十分以上。次々に襲いかかってくる魔物達を対処しながら進んでいくと、遠くにゴブリンの村らしきものが見えてきた。


「え、村になってるのはヤバいよ」


 村が見えた途端にリラは足を止め、火魔法で案内させていたゴブリンを魔石だけ残して炭にして、慌てた様子で俺にスキル封じをかけた。

 リラの火魔法って……めちゃくちゃ強いんだな。さすがレベル六だ。


「村ができてるのって普通じゃないのか?」

「うん。かなり大きな群れにならないと村は作り始めないから。ゴブリンの村が発見されたら、冒険者ギルドで緊急依頼が出されるレベルだよ」


 緊急依頼って……そんなにこれはヤバいことなのか。じゃあ早く帰って知らせないと。


「ユニーに乗って街に帰る?」

「どうしようか……とりあえず、もう少しだけ近づいてみよう。何匹いるのか確認したい」

「了解」


 スキル封じをかけてもらっているので、気付かれることなくゴブリン村に近づくと、ゴブリン達の様子がよく見えるようになった。まだこちらは気付かれていないようだ。


「凄いよ……数十匹はいる」

「それってヤバい?」

「ううん、村としては小さい方かな。でも放置してたらヤバいよ。ゴブリンって繁殖能力が高いから、この規模を放っておくと、そのうち数百匹、数千匹と対処しきれない数になっちゃうんだ」


 マジか。ゴブリンが数千匹……想像するだけで鳥肌がヤバい。それほどのゴブリンが街を襲ってきたら、かなりの被害が出そうだ。


「じゃあ早く帰ろう。報告しないとだよな」

「……ううん。私とリョータならこの数は討伐できるよ。討伐していっちゃおう?」

「え、この数を二人で!?」

「全く問題ないと思う。もう少しゴブリンの村に近づいて、リョータの魅了で動きを止められれば。できそう?」


 どうなのだろうか。俺の魅了の強さは自分で身をもって体験してるけど……こんなにたくさんの魔物に言うことを聞かせられるかは分からない。

 でもまあ、もしダメだとしても無条件に好かれるスキルは発動してるから、襲われても害されることはないだろうし覚悟を決めるか。


「やってみよう」

「分かった。じゃあリョータが魅了を発動したら、すぐにゴブリンを倒すよ」

「よろしく。ユニー、俺に近づいてきたゴブリンがいたら倒してくれたら嬉しい。スラくんは危ないから俺の腕の中な」


 ユニーの背中の上にいたスラくんをぎゅっと抱きしめると、スラくんは腕をみょんっと伸ばして俺の頬を突いてくれた。やっぱりスラくん、めちゃくちゃ可愛いな。


「じゃあスキル封じを解除するよ? ――解除」

「動きを止めろ!」


 俺はスキル封じが解除されてゴブリンの顔が俺に向いたその瞬間、無意識のうちにそう叫んでいた。だってめちゃくちゃ気持ち悪かったのだ。ゴブリンが瞳をハートにして俺を凝視してくるとか、なんの悪夢かと思った。


「リョータさすが!」


 十メートルの範囲外でも俺の声が届いたゴブリンは魅了にかけられたようで、ゴブリン村にいる数十匹のゴブリンは全員が動きを止めている。

 パッシブは十メートルの範囲にしか効果がないけど、意図的に魅了を使えばその範囲より遠くにいる魔物にも魅了をかけられるんだな。


「ファイヤーストーム」


 両手を前に突き出したリラがそう声を発すると、炎の竜巻がゴブリン村を襲い、気づいた時には村は跡形もなくなっていた。草も燃え尽きた土剥き出しの地面には、数十個の魔石だけが落ちている。


「凄いな……」

「レベル六だからね。このぐらいは簡単だよ」

「魔石って燃えないのか?」

「うん。魔石は相当高温じゃないと燃えないよ。だから火魔法は楽で良いんだよね、解体しなくても良いし。魔石以外の素材が欲しい時は手加減しないとだけどね」


 他の木々は燃えてないのもリラの実力を表してるんだろうな。改めて、本当に心強い仲間を得た。


「俺の力は要らなかった……?」

「ううん。ゴブリンが動きを止めてくれてるなんて、凄く狙いやすくて最高だよ。私だけだと一気に壊滅させることはできないから」

「そっか。役に立てて良かったよ」


 それから俺達は地面に落ちている魔石を拾って麻袋に仕舞いこみ、依頼は十分に達成したので森を後にした。

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