衝撃の事実

 紫音への恋心に気づいた私は、その日から雅のアドバイス参考にアピールしていくことにした。


 放課後、今日もいつものように二人でスーパーに寄った後、私たちは並んで歩いていた。

 ただ、いつもと違うのは、今日はまだ手を繋いでいない。


 しばらく歩いた後、私は意を決して紫音の腕に自信の腕を絡めてみる。


「あれ?今日は手を繋ぐんじゃなくて腕を組んでくれるんだね。でも、いつもより白玖乃が近くて嬉しいかも」


「そ…そっか」


「うん!」


 嬉しそうに笑う紫音はとても可愛くて、恋愛フィルターのせいか私の胸はいつも以上にドキドキする。


(おかしいな。紫音に意識させるはずだったのに、私の方がドキドキしてる)


 その後は恥ずかしくて何も言う事ができず、気づけばアパートの前に到着していた。

 私は名残惜しいのを我慢して紫音から腕を離すと、彼女は床に荷物を置いて整頓していく。


「白玖乃、お風呂の掃除お願いできる?」


「任せて」


 一人でお風呂場を掃除しながら、次はどうやってアピールするかを考える。


(なにか良い方法はないかな。…あ、お風呂とかいいかもしれない)


 私は初めて紫音と一緒にお風呂に入った日のことを思い出す。

 あの日はすごくドキドキして、夜もまともに寝れないくらいに彼女のことを意識してしまった。


「よし。今度はお風呂でアピールしよう」


 気合いを入れた私は、まずはお風呂を綺麗に洗って紫音に褒めてもらうことを目標に手を動かし続けた。





 ご飯を食べた後、私たちは少しだけ休憩してお風呂に向かう。

 最近では当たり前のように二人でお風呂に入っているが、それも今日までだ。


(絶対に紫音を意識させるんだ)


 服を脱いでお風呂場に入り髪を洗った後、紫音はいつも私の体を洗ってくれるが、今日は私が彼女の体を洗うのだ。


「紫音。今日は私が体を洗ってあげる」


「え、白玖乃が?」


「うん」


「ありがと!すごく嬉しいよ!」


 紫音は嬉しそうに笑った後、椅子に座って私の方に背を向けてくる。

 髪を洗った後なので、水で濡れた髪と頸がなんとも艶めかしく、また私の方がドキドキしてしまう。


「あ、洗うね」


 私はそう言うと、ボディーソープを取るフリをしながら彼女に私の体を押し当てる。


(ふふ。これで紫音も意識してくれるはず。女の子にこんな事されたら、嫌でも意識するよね)


 私はそう思いながら勝ち誇った気持ちでさらに体を押し付けてみる。


「白玖乃…」


(きた!絶対恥ずかしがってるいはず!)


「なに?」


 私は紫音が言葉を上擦らせ、顔を赤くしながら恥ずかしがる姿を想像して歓喜しそうになるが、それが声に出ないよう平静を装って返事をする。


「もしかしてボディーソープ届かないの?…はい、これ」


 しかし、彼女はいつもと変わらない顔で振り向くと、ボディーソープを私に手渡してくる。


「…あり、がと」


「どういたしまして!」


 おかしい。私はあんなに意識していたのに、何故紫音は全く変わらないのか。

 私は何故なのかと考えながらボディーソープを泡立てていると、ある事実に気づく。


(あ。そもそも女の子が女の子にこんな事しても、友達だと思われていたら何も感じないのでは?)


 私はその事実に気づいた瞬間、大きな絶望感に襲われる。


(てことは私、意識させる以前に、スタートラインにすら立ててないってこと?)


 あまりの悲しさに涙が溢れ出そうになるが、突然泣いたら紫音を驚かせてしまうので、私はなんとか我慢する。


 そして、慣れない手つきで紫音の体を洗った後、今度は紫音が洗ってくれると言うので場所を変わる。


「あれ、紫音。太もものところどうしたの」


 紫音の太ももには、何でできたのかは分からないが赤いあざができており、私はそれがすごく気になった。


「な、なんでもないよ!早く白玖乃の体を洗わないとね!」


 私は何故か慌てる紫音に背中を押され、彼女に背を向けて椅子に座る。

 そして、いつもより少しだけ強い力で背中を洗われるのであった。





 翌日。私は授業の合間の休み時間を利用しして、雅に声をかけて教室を出る。


「どうしたのよ、白玖乃」


「雅、私はもうだめかもしれない」


「どういうこと?」


「実は…」


 私は雅からもらったアドバイスを基に、頑張って腕を組んだことや笑顔が可愛かったこと、そしてお風呂で体を押し付けても全然意識してもらえなかったことを伝えた。


「なるほどね。途中惚気も入っていた気がするけど状況は理解したわ」


「そうなんだ。紫音の笑顔が本当に可愛くて、意識してもらうはずが逆に私がドキドキしちゃって…」


「その話はもういいから。でも、そこまでしてもダメとなると、あとは告白とかキスするくらいしかないんじゃないかしら」


「こく…はく。キス…?」


 私は雅に言われたことの意味が理解できず、まるで未知の何かに出会ったかのような感覚になり、思わず思考が停止してしまう。


「えぇ。告白をされたりキスをされると、その相手のことが急に気になりだすことがあるでしょ?そうしたら、紫音もあなたのことを意識してくれるようになると思ったのだけど」


「なる…ほどね。でも、さすがにまだ早すぎると思うんだけど」


「何言ってるの。あなたたち二人は普通の子たちよりも明らかに距離が近いし、恋人になってからするようなことをほとんどしちゃってるじゃない。他にできることなんてないわよ?」


「うっ。確かにそうなんだけど…」


「別に急がせたりはしないし、どうするかはゆっくり考えればいいと思うけど、あなたたちのこれまでを考えると、たぶん普通の方法じゃ難しいと思うわよ?」


 雅が言っていることはおそらく正解で、私たちのこれまでを思い返してみれば、明らかに普通の友達よりも距離が近かった。

 そしてそれは、私がそれらに慣れてしまったように、紫音も慣れてしまったという可能性が十分に考えられるということだ。


「少し考えてみる。ありがと雅」


「どういたしまして。…まぁそんなに考える必要はないと思うけど」


 最後の方は私が考えこんでしまったため聞き逃してしまったが、おそらく応援でもしてくれたのだろう。





 それから一週間ほど今後のことについて考えていると、気づけば10月に入っていた。


「そういえば、今月は紫音の誕生日だ」


 以前、紫音に誕生日はいつなのかと尋ねたとき、10月15日だと言っていた。


「よし。この時にサプライズで誕生日をお祝いして、キスをしよう」


 といっても、さすがにいきなり唇にする勇気はないので、頬にする予定だが。

 さすがの紫音も、頬にキスをされれば少しは私のことを意識してくれるだろう。


「そうと決まれば、いろいろと準備しないと」


 プレゼントや部屋の飾り付けなど、必要なものを一つずつスマホのメモ帳にメモしていく。


「あとは料理か…」


 まさか、紫音の誕生日なのに彼女自身に料理をさせるわけにもいかないし、スーパーで買うという手もあるが、紫音にはできれば私の手料理を食べて欲しかった。


 しかし、これまで料理はずっと彼女に任せっきりだったので、ほとんどした事がない。

 彼女が風邪を引いた時に頑張ろうと思ったのに、気づけば料理は紫音、掃除は私という感じに分担されていた。


「練習するしかない。大丈夫、紫音のためなら頑張れる」


 頑張ろうと決心した私は、さっそく料理本と飾り付けの下見をすることに決め、一人で学校を出た。

 ちなみに、紫音は図書委員の仕事で先輩に呼ばれたため、今日は一緒に帰れなかった。


「そういえば、一人で帰るのは初めてかもしれない」


 入学してからこれまで、私の隣にはずっと紫音がいた。

 だからなのか、今日は彼女がいないことに寂しさを感じた。しかし、誕生日に向けての準備をするには好都合なので、そちらに気持ちを切り替える。


 そして、まずは雑貨屋に向かい飾り付けをどうするか考えた後、本屋で料理本を買ってアパートへと帰った。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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