球技大会 その一

 5月も残すところ一週間。今日の1時間目は、6月にある球技大会について話し合う時間となっていた。

 球技大会実行委員の子達が前に立ち、黒板に競技名を書いた後、球技大会の説明と出場を希望する種目について尋ねてくる。


「では、最初に球技大会について説明します。球技大会は全部で6種目あり、トーナメント形式による全学年のクラス対抗戦で順位を競います。


 日程は二日あり、一日目に予選から準決勝、二日目に決勝と3位決定戦を行います。

 クラス順位の決め方はポイント制で、優勝クラスに一番高いポイントがつき、2位以降獲得ポイントは下がっていきます。

 そして、6種目での獲得ポイントが一番高いクラスが総合優勝となります。

 なお、優勝したクラスには1ヶ月間の食堂半額券が景品として渡されますので、皆さん頑張りましょう!


 それでは、5分後に出場したい種目を聞くので、それまでに決めてください。一人2つまで出場できるので、悩んだ時は両方に手を挙げていただいて大丈夫です。

 ただ、人数制限があるので、そこは注意してください」


 実行委員の子は説明を終えると、黒板が見やすいように横にズレてくれたので、私は種目名と定員数を確認する。


※以下、括弧内はスタメン+控えになります。


ソフトボール(9+2)

サッカー(11+4)

バスケ(5+2の2チーム)

バレーボール(6+2)

卓球(個人戦4人)

バドミントン(シングル4、ダブルス2組)


「白玖乃、何に出るか決まった?」


 何に出ようか考えていると、一花が振り向いて、何に出るのか聞いてくる。


「まだ。一花はもう決めたの?」


「うちは雅と一緒にソフトボールとバスケに出るつもり。もしよかったら白玖乃も一緒に出ない?雅にも紫音さんのこと誘ってもらうようにお願いしたしさ」


「んー。なら、ソフトボールは出ようかな。バスケは遠慮しとく。私、卓球に出ようと思ってたし」


「わかった」


 そうして5分後、実行委員の子達が時間になった事を告げ、それぞれの種目への出場希望を聞いてくる。


 結果、ソフトボールとサッカー、卓球は一度で決まったが、バスケとバレーボールは定員オーバーとなったため王様ジャンケンで出場者が決められた。


 紫音と一花、雅は、無事に第一希望通りのソフトボールとバスケへの出場が決まった。


 その日の帰り道、私と紫音は手を繋いでアパートに帰っていた。そのとき、紫音から球技大会の出場種目について聞かれる。


「そういえば、白玖乃はバスケじゃなくて卓球にしたんだね?」


「うん。卓球なら、家族との温泉旅行でやった事あるからそれにした」


「なるほどね。じゃあ、当日は白玖乃活躍を楽しみにしてるよ!」


「任せて。一勝はしてみせる」


 私の優勝ではなく一勝宣言に、紫音はなんとも言えない微妙な顔をしていたが、すぐに微笑みながら頭を撫でてくれた。

 それが気持ちよくて、私は自然と笑顔になった。





 球技大会で出場する種目選びをしてから二週間後、今日は球技大会当日である。

 午前は屋外種目がソフトボール、屋内種目がバドミントンとバレーボールである。


 そしてお昼休憩を挟んだ後、午後からは屋外種目がサッカー、屋内種目がバスケと卓球である。


 なので、私は午前にソフトボール、午後に卓球をする事になる。


「さてと、それじゃ白玖乃、ソフトボールに行こうか!」


 紫音にそう言われて、私たちはソフト部がいつも使っているグラウンドへと向かう。初戦の相手は2-Aなので、先輩たちと戦う事になるが、私たちは勝つ気でいくので、先輩だからと遠慮はしない。


 そして、試合が始まる30分前に、ソフトボールのリーダーがスタメンを発表する。


 雅が1番ショートで一花が2番セカンド、紫音が4番ピッチャーで、私が8番ライトになった。何故か私だけ下位打線なので解せないが、とりあえずスタメンという事で、最終回である7回まで頑張ろうと思う。


 私たちの先攻で試合が始まると、初回からチャンスが回ってくる。1番の雅が三遊間を抜けるレフト前ヒットで出塁すると、2番の一花が綺麗にバントを決める。

 3番の子がライト前にヒットを打つと、ランナー、一・三塁の場面で紫音に打席が回る。

 彼女は数回素振りをした後バッターボックスに入り構える。


(なんか、紫音だけ雰囲気が違うんだけど)


 紫音の構えは、まさに経験者のそれであった。

 そして、相手のピッチャーが投げた初球を紫音はなんの躊躇いもなく振り抜く。打球はどんどん伸びていきレフトの頭を越えると、フェンスに直撃した。

 相手のレフトは急いでボールを取りに行くが、その間にランナーは全員帰還し、紫音は二塁で止まる。


(紫音、普通にかっこいいんですけど…)


 そう思ったのは私だけではないようで、同じクラスの子達から黄色い悲鳴があがる。


 その後、初回に得点を取れたことが大きかったのか、他の子達も勢いづいて、気づけば7-0の大勝だった。

 紫音はピッチャーとしても凄くて、ほとんどヒットを打たれることなく無得点で抑えた。


 ちなみにだが、私は5打数2安打とそこそこに頑張った。





 一試合目が終わってから次の試合までは、間にもう二試合入るため、私たちはしばらく休憩をする。


「それにしても紫音さんはすごいね。初回のフェン直なんて痺れたよ」


「ほんとね。あの一打のお陰で他の子も勢いに乗れたし、最高だったわ」


「ありがとう!でも、その前に雅や一花たちが繋いでくれたから得点に繋がったんだよ!みんなのお陰だよ!」


 紫音は心からそう思っていると言わんばかりの笑顔で私たちのことを見る。


「次も頑張らないとね。今はどことどこが戦っているんだったかしら?」


「今は3-Aと1-Aだね。勝った方がうちたちの相手になる」


「それに勝てば後は決勝だけだし、頑張らないとね!」


 その後、私たちは準決勝に向けて、少しでも疲れを取るために水分をしっかりと摂りながら休憩した。





 準決勝の対戦相手は3-Aに決まった。さっきまでの1-Aとの試合を見た感じ、守備が堅く、得点を守り切って勝つタイプのクラスのようだ。


 今回は、紫音はピッチャーではなく4番ファーストとして出ており、ピッチャーは一試合目にベンチで休んでいた子がやる事になった。

 それ以外のスタメンと打順は一試合目と同じだ。


 そして始まった準決勝は、なかなかに厳しい試合となった。

 先攻の私たちは、得点のチャンスは何度かあったが、大事なところで先輩たちの堅い守備に阻まれ、得点に繋げることができないでいた。

 こちらも得点を与えないよう何とか守り切り、0-0で迎えた5回。

 この試合何度目かになる得点のチャンスで、バッターは私だ。ワンアウト、ランナー三塁。バッターボックスに入る前、私はリーダーの子にスクイズをするように言われた。何としても得点を入れるためだ。


 そして、ピッチャーが投げるモーションに入った瞬間、三塁ランナーが走ってくる。

 私はプレッシャーに耐えながらバントの構えをし、何とかバットにボールを当てることができた。打球は一塁側のラインギリギリに転がっていき、私は無事にスクイズを決めることができた。

 そして、三塁ランナーもホームに帰ることができ、何とか先制点を得る。


 その後、私たちはその1点を守り切り、何とか3-Aに勝ち、決勝に進むことができた。





 試合終了後、私はクラスメイトたちに囲まれていた。


「橘さんのバントのおかげで勝てたよ!ありがとう!」


「あんな状況でプレッシャーもあったと思うけど、決めてくれてありがとう!」


 一人ひとりに感謝の言葉を言われていると、突然後ろから抱きしめられた。


「さすが白玖乃だよ!今日のヒーローは白玖乃で決まりだね!晩御飯何食べたい?何でも作るからね!」


 紫音はそう言いながらぎゅうぎゅうと私を抱きしめてくる。そして、さっきまで私のことを褒めてくれていたクラスメイト達は、何故か微笑ましいものを見る目で私たちを見てくる。

 その後も紫音からの抱きしめと誉め言葉は止むことがなく、結局私は、お昼休憩になるまでその状態が続いた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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