スポーツ

 私はその日、夢を見ていた。


「あんた!早く起きなさい!試験遅刻するわよ!」


 母親にそう言われて起こされた私は、眠いのを我慢して起きる。

 今日は高校の受験日で、絶対に遅刻してはいけない日だ。

 それなのに、いつものように起きるのが遅くなり、結局はギリギリに家を出る事になってしまった。


「やばいなー。試験受ける前に失格とか普通に笑えない」


 そんな事を言いながら必死に走り、なんとか遅刻せずに受験会場の近くに来る事ができた。


「ふぅ。間に合った……あれ?」


 すると受験会場の近くで、会場には向かわず、ウロウロしている女の子がいた。


(あの子、どうしたんだろ)


 不思議に思って彼女のことを眺めて見る。背は私より少し高い程度で、綺麗な黒髪を腰まで伸ばし、顔は整っている方だがメガネをかけていて少し垢抜けない感じがする。

 気になった私は彼女のもとへ向かっていき声をかけて見る。


「あの、どうかしましたか?」


「…あ、すみません。実は受験のために来たのですが、道に迷ってしまって」


 どうやら彼女は私と同じ受験生で、会場近くには来れたが、そこから迷ってしまったらしい。


(会場近くまでは来れたのに、肝心なところで迷ってしまうとは)


「なら、私も受験しに来ましたから、一緒に行きませんか?」


「いいんですか?ありがとうございます。本当に分からなくて困ってたんです」


 私たちはそう言うと、二人で会場まで向かい受付を済ませる。


「本当にありがとうございました。せっかく来たのに試験すら受けられなかったらって焦ってたんです」


「いえ、大丈夫ですよ。では、お互い頑張りましょう」


「はい!」


 彼女はそう返事をした後、私に一度頭を下げ、指定された自分の席に向かっていった。それを見送った後、私も自分の席に向かい試験が始まるのを待った。





 私は微睡の中から少しずつ意識を覚醒させていき、ゆっくりと目を開ける。

 今日もすでに隣には紫音の姿はなく、私はキッチンの方に目をやる。


(そういえば、さっき夢で見た子と紫音、どことなく雰囲気が似てる気がする。…でも、あの子は紫音よりもっと背が低かったし、メガネをしてたからなぁ。気のせいかも)


 あんな夢を見たせいか、紫音が受験の日のあの子に似ている気がしたが、おそらく気のせいだろうと思い、私はベットから体を起こして彼女のもとへ向かう。


「おはよ、紫音」


「おはよ、白玖乃。今日は雅たちと遊びに行くんだから、忘れずに準備してね?」


「わかってるから大丈夫だよ」


 ゴールデンウィークも残すところ二日。今日は雅と一花たちと一緒に遊びに行く約束をしている。

 場所は屋内で色々なスポーツができるアミューズメント施設で、一花の提案により遊ぶことになった。


 準備を済ませた私たちは、待ち合わせの駅に向かうため部屋を出る。すると、紫音が自然と手を繋いできたが、いつものことなので私も気にせず握り返した。

 待ち合わせ場所に着くと、一花と雅はすでに来ていて、話をしながら私たちを待っていた。


「お待たせ、二人とも」


「おはよー、時間通りだから大丈夫だよ」


「あら?あなたたち、本当に仲がいいのね」


 雅は私と紫音が手を繋いでいるのを見て、ニマニマしていた。どこか含みのあるその笑い方が少し気になったが、聞いてもはぐらかされそうなので聞かないことにした。


「それじゃあ、体を動かしに行こうか!」


 紫音がいかにも楽しみという雰囲気でそう言うと、私の手を引きながら歩き出す。私と雅と一花は、そんな彼女を微笑ましく思いながら後に続いた。





 施設に着いた私たちは、さっそく何から遊ぶか話し合う。


「紫音は何から遊びたい?」


「んー、悩むなぁ。白玖乃は?」


「私はバドミントンやってみたいかも、一花は?」


「うちはバレーボールかな」


「私はみんなにお任せするわ」


「じゃあまずはバドミントンからいこう!」


 最初に遊ぶものが決まった私たちは、バドミントンができる場所に向かう。ちょうどバドミントンのコートが空いていたので、私たちはコートに入り準備をしていると、一花が勝負を持ち掛けてきた。


「せっかくだから勝負しない?」


「いいけど、チーム分けはどうするの?」


「寮生のうちと雅、アパート生の紫音さんと白玖乃で分けよう。多く負けたペアの方が罰ゲームね」


「分かった!頑張ろう白玖乃!」


「そうだね。私たちの絆を見せてあげよう」


「ふふふ、楽しそうね。なら、私たちも頑張りましょうか、一花」


 ということで急遽、私と紫音vs雅と一花で勝負をすることになった。コート内で分かれた私たちは作戦会議をする。


「紫音、バドミントンをやったことある?」


「もちろんあるけど、白玖乃は?」


「ない」


「……え?」


「ありません」


「経験ないのにあんな自信満々だったってこと?!」


「ごめんなさい。……紫音、何とかならないかな。私、負けたくないんだよね」


「経験ないのに負けず嫌いなの?!と、とにかく、私が頑張ってみるから、白玖乃はネットのギリギリに立って、返せそうなのだけ返して。あとは私が何とかする」


「わかった。ネット際は任せて」


 作戦という名の紫音任せも決まったので、私はネットのギリギリに向かって行き立ち止まる。そして、向かいにいる一花のことを見続ける。


「な、なんか、白玖乃からすごい視線を感じる気がする」


「気のせい。さっそく始めよう」


 こうして、私たちの戦いは始まったのだが、紫音は思った以上にすごかった。コート内を一人で縦横無尽に動き回り、一花や雅から撃たれるスマッシュも緩急もすべて拾い、逆にスマッシュを決めてポイントを重ねていく。

 私はというと、頭上を行き来するシャトルをただ眺めているだけで、私が入る隙など全くなかった。


「や、やばい。なんで紫音さん一人のはずなのに、うちらが押されてるんだろ」


「わからないわ。た、ただ、彼女の体力が無尽蔵なことだけは分かるわね」


「ふぅ。さすがに少し疲れるなぁ」


(あれだけ動いて少しなんだ。紫音やばすぎでしょ)


 その後も勝負は続いていき、いよいよ私たちのチームがマッチポイントになった。そして、この試合初のネット際ギリギリにシャトルが緩く飛んでくる。


「白玖乃、お願い!」


 私は紫音の呼びかけに答えるため、ラケットを振りかぶり、シャトルめがけて振り下ろす。すると、シャトルはラケットのガットにあたらずラケットヘッドの部分にあたり、カツーンという良い音を鳴らした後、ひょろひょろと一花たちのコートに飛んでいき、コートのライン上ギリギリに落ちた。

 周りはしばらくの間静寂に包まれていたが、突然私は後ろから紫音に抱きしめられる。


「やったよ白玖乃!私たちの勝ちだよ!」


「勝った…?」


 私は後ろから紫音に抱きしめられたまま顔を横に向けると、満面の笑みで私を見てくる紫音の顔があった。

 そして、向かいのコートからは一花と雅がやってきて、私たちに声をかけてくる。


「はぁー、負けちゃったかぁ。まさか最後の最後に白玖乃にやられるとはね」


「ほんとね。後半の方なんて、白玖乃ちゃんのこと忘れてたから、すっかり意表を突かれてしまったわね」


「でも、まだ一敗だし、次は勝つよ!」


「次も負けないよ!ね、白玖乃!」


「うん。負けない」


 そうして私たちは他の競技でも勝負をしていく。バレーボールは私が上手くパスを回せなくて負けてしまったが、バスケットでは紫音が二人をうまく引き付けて私がゴール下からゴールを決めたりして何とか勝てた。

 ストラックアウトでは私のノーコンが際立ち敗北。二勝二敗で向かえた最後の競技はボーリングで、紫音がストライクを連発したおかげでなんとか勝てた。

 その結果、私たちが三勝したので、私たちの勝利となった。


「それにしても、紫音さんのスペックが高すぎてびっくりした」


「ほんとよね。何でそんなに色々できるの?」


「んー、何でだろ?特に何かしたわけではないんだけど、実家にいた時は暇すぎて、友達といろんなスポーツで遊んでたからかも」


「絶対それだよ。うちたちなんて部活入ってなければ体育くらいでしかそんなにスポーツしないもんね」


「確かにそうね。っと、そろそろ時間も終わり見たいよ?最後は何かしたいのある?」


「あ、なら、うち最後はローラースケートやりたい」


「あ、いいね!私も実家にいた時はよくやってたよ!」


「なら、最後はローラースケートにしよう」


 最後はローラースケートをする事に決まった私たちは、さっそくスケートリングに向かい靴を借りる。


「紫音。大切なことを思い出した」


「ん?どしたの、白玖乃」


「私、ローラースケートもやったことなかった」


「…わかった。なら、私が手を引いて引っ張ってあげるから、白玖乃は立ってるだけでいいよ」


「ありがと」


 最後の最後まで紫音に助けてもらった私は、紫音に手を引っ張ってもらいながら、人生初のローラースケートを楽しんだ。


 ちなみに、負けた側の罰ゲームは、今度私たちにスイーツ食べ放題を奢る事に決まった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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