第48話 どちらかなんて選べない

 俺は多分パソコンとかの仕事をしていたわけやないと思う。やから理屈がさっぱりわからんわ。

「結局なんなん?」

「魔力が何かっていうのはこの世界ではよくわからないんだよ」

「俺もわからん」

「体感的にわからないっていうのとは違う次元の話だ。例えば地球では物質はクォークとレプトンから出来ていてそれを支配するのは4つの力。電磁気力、重力、弱い力、」

「ごめん、俺物理わからん。文系っぽい」

「まあこの世界には電磁気力とか重力とかと同じようなレベルで魔力っていう地球に存在しない力がある、んだと思う」

「う、うん」

「アブソルトはその未知の力、魔力の働きの性質を解析して、信じがたいことだが自由に操る方法を習得した」

ー魔女様もそのようにおっしゃっておられました。だから経験を積めばアブソルトも魔女に到れただろう、と。そのように魔女様がおっしゃられたそうなのですが、マホウショウジョカッコオトコは勘弁して下さい、と言って全く興味がなさそうだったそうです。


 魔法少女? 魔女? アブソルトって男ちゃうの? 男でも魔女なん? 魔男はなんや変やけど。

 ボニたんは魔女いうんはこの世界の魔力の制御をする役割言うとったけど今のマルセスの話やったらアブソルトはその魔女? 魔男? になれるんかな。

 でもキナたんからそれを聞いたマルセスはコチンと固まっていた。


「魔女の仕事なんて私にはわかりませんよ?」

「でも祭壇いうん、うまくできたやん? 俺はボニたん助けたいん。そんで『初期化』と『再インストール』てなんなん?」

「……そうだな。今はそれだ。アブソルトは多分島中のどこででも自分の術式が使えるようにするためのプログラムを小さなPC、つまりナノたんにつめて魔力回路に大量に放流したんだよ。そうじゃないと使う度に使うためのプログラムを設定し直さないと駄目だから」

「ふんふん」

「それで魔女様の封印術式は大厄災の時に大急ぎで作ったものだろうから細かい設定とかしてなくて、解除には一旦アブソルトのシステムを『初期化』するしかないんだと思う」

「他の術式も全部なしにするってこと?」

「そうそう。でもそれだとこの国の機甲術式もアブシウム教会の術式も使えなくなるから『再インストール』する」

ーお二人が何を仰っているのかさっぱりわかりません。

「俺もようはわからんのやけど」


 ええと、魔女さんが封印されとるんがそのアブソルトの術式のせいで、やから解除して、それで出られたら、再インストールしてもとに戻すん?

「それって危険なん?」

「術式自体はおそらく問題ない。けれども『初期化』した時に魔女様と一緒に封印された大量の魔力とやらも開放される。……その時、おそらく無事ではいられない、と思う」

「は、え? その前に逃げて来たらええんちゃうん?」

「術式は口頭で行使しなければ駄目なのだと、思う」

「え、え、ちょまって、またれて。何でそれをボニたんがやるん? そんなんこの国の人がやったらええやん」

 それ、そんなに急いでやらなあかんことなん。

 聞いとったら200年は大丈夫やったんやろ? そしたらゆっくり対策したらええんとちゃうんかな。

ーその、大変申し上げにくいのですが、今直す必要があるのです。

「なんで」

ーその、デュラはん様が行使された魔力が魔力回路を破損しました。その破損によって魔力が回路から漏れ出して竜をおびき寄せるのです。

「ま、魔力?」

ーそしてこの領域で機甲を製造するのは帝都カレルギアだけです。帝都が滅びればこの領域で人は竜に対抗することができません。だから今魔女様を解放して破損を修繕して頂く必要があります。

「でも俺、魔法いわれたかて」

「デュラはん、スピリッツ・アイだ。理屈は分からないが、それで帝都の魔力回路が破損した。昨晩から恐ろしい数の竜が帝都を襲っている」


 え、え、待って、待たれて。

 俺のせいなん?

 俺がスピリッツ・アイつこたから破損ができて、それでほっといたらこの国が滅ぶん?

 でもそんなん俺のせいやないし。俺を捕まえたやつのせいやし。

 でも、でも。それ、多分ボニたんに通用せん理屈やんな。

 それにそれがなくてもボニたんがその術式いうんを人に教えるとは思えへん。それに、その。

 キナたんの表情は全然わからんけど、マルセスがめっちゃ悲痛な顔しとる。


ーですからリシャールが代わりに向かいました。

「か、代わりに?」

ーリシャールがボニ様から『初期化』の術式を聞き出します。そうすればボニ様は戻ってこられます。

「あの、ボニたんが教えたらリシャたんが死んでしまうん、ちゃうん?」

ーリシャは神子ですからその覚悟は出来てます。

「そんなんボニたんが教えるわけないやんか! なんなん、俺のせいでリシャたんかボニたんが死ぬとか絶対ないわ!」

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