第38話 アブシウムのアブソルト=カレルギアの伝説

「この国で使われている機甲も元々は異世界の日本という場所に存在するものだそうです」

「ええと、厳密にはアニメで見たやつなんやけど?」

「デュラはん、でも、みんな機動戦士とか機動警察とかいえばわかるんでしょう?」

「みんなかはわからんけど、男やったらだいたいわかるような気はするなぁ」

「つまりお主は何がいいたいのだ」

 小さい頃から好きで、村でもよく絵本で読んでいた伝説を思い出す。

 アブシウム教に伝わるその伝説だと、アブソルトは4人の魔女が駆けつけるまでこの領域を守った英雄だった。だからアブシウムと名前をかえて神になっている。おそらくカレルギアに配慮してアブソルトそのままの名前は使われなかったのだろう。


 この島以外でもたまに異世界から人が落っこちてくるけれど、そもそも僕らが暮らすこの島自体が不安定だと教わった。僕が聞いたその理由。

 大昔、突然この島に災厄が起きた。

 この島、もっというと現在のアブシウム教国の真上に世界と世界をつなぐ穴が開いて幸運がすべて失われ、島は闇と悲しみに沈んだ。そして世界を守るためにアブソルトは『灰色と熱い鉱石』の魔女と協力してその穴を塞いだ。

 アブシウムの都下に伝わるアブソルトの一般的な伝説では、穴を塞ぎきった時に二人は力を使い果たしていた。アブソルトと魔女は恋仲で、はるか先の未来に再び出会うことを約束してアブソルトは地に倒れ、そこに教都コラプティオが建設された。魔女も同様に力を失いカレルギアの山に戻って眠りについたことになっている。


 これはおとぎ話で空想だと思われているけど、教会にはアブソルトの組み上げた術式が残っていて、実際に魔女ラルフュールの名で行使できた。だからおおよそは事実なのだろう。術式がアブシウムとこの魔女の領域だけにしか残っていないことからも。


 そして教会にはもう少し詳しい伝承がある。

 魔女はアブソルトに封印されてアブシウムまで来ることができなかったのだ。魔女は大穴を塞ぐことをアブソルトに委任してカレルギアに封印されたことになっている。かわりに魔力回路の行使許可をアブソルトに与えて、具体的にはその魔力回路を使用するための術式をアブソルトが構築した。そしてこのようになった理由は、教会では封印の理由は魔女を穴から守るためと残ってるけど、なんで穴から守るのにわざわざ封印するのかよくわからなかった。

 でも最近この国に来てから考えたこと。

 大厄災というのは、幸せが失われたとは、つまり大量の魔力の消失なのだろう。災厄の大穴はおそらく地球の日本という場所と繋がったんだ。そして大量の魔力が穴を通って異世界に流れ込んだ。

 デュラはんに聞くと地球という異世界には魔法、おそらく魔力がないらしい。デュラはんの説明はよくわからない部分もあったけれども、タケヒサ君が言うには魔力というのはデュラはんの世界では『気体』という性質をもち、気体は濃度の濃いところから薄いところに世界どうしの間に存在する薄い境界をすり抜けて移動するのではないかと言う。浸透圧という作用だそうだ。この世界でも二種類の液体間でそのような性質があることは確認されている。


 だからこの島に穴が空いたとき、この世界から地球世界に急激に魔力が移動したのだろう。魔女というのは領域の魔力と繋がっている。だからそのままだと魔力ごと異世界の地球に吸い出された可能性がある。

 この世界は脆い。大きな魔力変動が起こり、それを制御する魔女が消滅した場合、この世界はその部分から崩壊を始める。それを防ぐために魔女というシステムが各地に偏在している。

 それで多分4人の魔女が訪れるまで、アブソルトは魔力回路を操って魔力をこの地にとどめ、4人の魔女が訪れたときにその魔力回路を魔女たちに明け渡して没したのだと思う。

 アブソルトによって様々な天変地異が起きたのではなく、アブソルトは世界の崩壊を天変地異に留めたのだと思う。

 でもこの話はアブシウムの重大な秘密だからイレヌルタにもコレドにも話すわけにはいかない。それにはるか昔の伝説で、実際は違うかもしれない。


「アブシウム教では魔女は封印されていることになっています。僕が接続したときもそのように感じました。だからもう一度、ここで呼びかけてみます。ここで接続すれば先程の魔力もここに戻るでしょう」

「おい」


 問題は強靭な魔力とスキルを持つアブソルトでも魔力回路に接続できたのは1週間だったこと。少し前に行使したときの記憶を思い出す。ものすごい負荷だった。果たして平凡な僕にどのくらいの接続が可能なのだろうか。

 それから僕は……あの術式を唱えるべきなのか。

 2人の神子が眠る祭壇に手をかけて祈る。


[探知:ラルフュール]


 その途端、僕には膨大な魔力の奔流と、その奥に僕が感じたこともないほどの巨大な意思と、それを隔てるものの存在を感じた。


[接続]

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