第19話 俺氏、このままやとボニたんを守られへん。

 タケヒサ弾は威力がいっつもまちまちやけど、今回は大当たりや。光量は思いの外すごくて、俺は最初から目ぇ瞑りっぱなしやったけど、それでも視界は変な色で埋め尽くされとる。

 どういう化学反応でこんな色がでるん? これこそ魔法のせいなんかな。

 けれども俺のスピリッツ・アイは視覚とは連動しとらん。何や空間認識いうんかな。間に障害物があっても貫通してその存在と生命力の大きさとかを感じ取れるんや。

 竜みたいのんはその生命力のゆらぎで光に狼狽えたんがようわかった。光を避けて別の方向を向いたから、そのままこっちに突っ込んでくることはないやろ。けど人間のほうはどうやろか。誰が一番早く視力を回復できるかにかかっとる。


 そう思たんやけど、竜を追いかけてきた小柄な戦士はタケヒサ弾なんか存在せんみたいに真っ直ぐ竜に接敵して、直後に竜の生命力が大きく萎んだ。まじかぁ、あの大きさを一撃とかどんだけ強いん。

 やっぱ剣ずるい! 鞭は一発芸すぎるやろ!

 でもよっしゃこれで大丈夫や、そう思てたら、戦士はその勢いのままものすごい速さで一直線にボニたんに突っ込んできて、あっという間に首に大剣を突きつけた。

「心して答えよ。お前は何者だ」

「ぼ、僕はボニ=アマントボヌムと申します、あっ」

「ボニ……?」

 一瞬、怪訝そうな声が響く。

 あかん、ボニたん本名言うてしもた。

 あれ? でもあんな強いのに女の人なん?

 けどやっぱボニたんの名前、初見殺しやんな。覚えられんもん。一瞬そう思たけど、お姉さんから急に殺気が溢れ出す。

 やばい、ボニたんは多分目が見えとらん。状況わかっとらん!!

「その名、アブシオム教国か! 入国の目的を述べよ!」

「僕は、その、ええと」

「答えられぬか。ならば」

「待て、待って! ちょ待って」

「ちょっとデュラはん!?」

 何このお姉さん、意味わからんのやけど。

 その瞬間、風切音とともにお姉さんの持っとる剣の切っ先が俺の入っていたカゴを切り裂いて、哀れな俺はゴツンゴツンと頭をぶつけながらコロコロと岩の下まで転がった。いてて。

「何だあれは」

「何って……あれ? デュラはん!?」

「デュラハンだと? 体はどうした」

「ちゃう! ちゃうの! デュラ(↑)ハン(↓)やのうてデュ(↑)ラはん(↓)、なん」


 何故だか空気が弛緩した。解せぬ。大事なことやから2回言おうか?

 そう思うとったらだんだん目ぇが慣れてきた。間近で見るお姉さんはまるで機械兵。

 頭はフルヘルメットに覆われて、体にフィットした胸部装甲と、そこからつながる両肘の先は巨大な灰色と白茶のガントレット、腰回りで各パーツから伸びるチューブやらの機工が接続されていて、そこからつながる膝下はこれまた大きい黒みを帯びた金属のブーツみたいなのを履いとる。パワードスーツ?

 ともかく、ともかく、なんやこれ、めっちゃかっこええ!!  ロマンやん!

 でもこれ、何の金属なんやろ。全体的に薄く黄色みを帯びている。

 なんや俺がキラキラした目で見つめよるとお姉さんはため息をついた。ゴーグルで口元しか見えんかったけど。

「……戦意がないのは理解した。だが仔細調査を完了するまでその装備はこちらで預からせてもらおう。それからそちらの首……」

「デュラはんや!」

「そのデュラはんは何なのだ? 魔物なのか?」

「え、うーん、俺、魔物なん? 妖精みたいなんやけど」


 お姉さんの肩がピクリと動いた。

「そちらの首……デュラはんも預からせて頂く」

「え、その、それは」

「悪いようにはしない。もともと入っていたそのカゴと同じようなものに保管するだけだ」

「でも……」

 ボニたんは心配そうに俺とお姉さんの間で目をキョロキョロさまよわせとる。

「ボニたんしゃあないわ、勝ちようないもん」

「……わかりました。それからあの、助けていただいてありがとうございます」

「……ああ。まあ、役目だからな」


 そんで今俺は世紀末感のあるごっついオープンカー的なジープっぽい金属製の乗り物に乗って移動している。とは言っても体長2メートルくらいの恐竜っぽいのが数頭で牽いてるんやけど。

 それで同じような恐竜みたいなんにお姉さんと似たようなかっこした戦士四人がそれぞれまたがって並走しとる。なんとなく砂の惑星っぽい。かっこええ。俺も乗りたいな。

 体ないとのれんやろうけど。

 なんやろここ、やっぱナーロッパちゃうんかな。むしろ世紀末感。

 お姉さんが持ってこさせた箱はなんや鳥かごみたいやったけど、枠の隙間から外がバッチリ見える。やからそれはそれでええ感じ。でも首元が金属にあたって痛いけん何とかしていうたら、若い軽装のお兄ちゃんがクッションを入れてくれた。

 ふかふかぁや。

 案外ええ人らなんかもしれん。さっきからお兄ちゃんに頭をツンツンつつかれよるけど。


「コレド、触るんじゃない」

「俺、噛み付いたりせえへんよ」

「別に噛み付くと思っているわけではない」

 ジープは一番前にお姉さんと御者のおじさん、2列目に俺とボニたん、最後の列には今怒られた軽装のお兄さん。

 これまでの乗合馬車の3倍くらいのスピードやから、ボニたんはちょっとキョドって車のフレームにしがみ付いていた。

 目的地はちょうどよく帝都カレルギア。ボウガンとかの装備は全部取られた。というよりボニたんが自主的に引き渡していた。それでお姉さんたちの態度がちょっとだけ軟化した。

 お姉さんたちは警備兵ではないらしい。詳しくは教えてもらえんかったけど、国直轄の機関らしい。

 ゴーグルを取ったお姉さんは赤い髪の毛の褐色肌の美人さんで、めっちゃ若う見える。でもボニたんも30近いしこの世界の年齢はわからん。


「隊長はなんとまだ16なんですよ。かわいいのにめっちゃ強く……」

「黙れコレド。すまんな、こいつの言うことは聞き流して欲しい」

 見たまんまなんか。それはそれでますます凄いんやけど。あんな強いとかよっぽど凄いスキル構成なんかなぁ。

「それはかまわんけど、俺らこれからどうなるん? お姉さんはお役人なん?」

「ふむ、もっともな質問だ。私はリシャという。この隊を預かっている」

「若いのに凄いねぇ」

「む、どうも。それで詳細は明かせぬが、我々はあの地域で調査活動を行なっていた。そこに貴殿らが現れたわけだ。先程拝見した身分証からは、正しく入国したことは確認したが、身分証の氏名と先ほどの名乗りが異なること、護身用を超えた武器の所持目的等伺いたいことがあるので同行を願っている。用が済めば開放する」

「あの、あまんとなんたらはあだ名で」

「そんな長いあだ名があるか」

「あの、それは僕がアブシオム出身ということに関係あるのでしょうか」

 少し青い顔をしたボニたんがリシャたんを真剣な目で見つめる。ボニたんの国? ろくな貴族がおらんいうイメージしかないなぁ。

 リシャたんはしばらく抜けるような青い空を眺めて、考えながら呟いた。


「そうだな。一番の懸念点はそこだ。貴殿はその名前からすると、あの国で聖職者であられたのだろう? あの国の聖職者は基本的に領域を出ない。なのに出てきたのは何故か。そして貴殿が一般民を装って入国されたのは何故か。しかも魔物を伴って」

 あれ?

 聖職者云々はようわからんけど、他の国に魔物を持ち込むのってヤバいんかな。よう考えたら常識的に考えてヤバい気がしてきた。

 まじで?

 また俺のせい?

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