デュラはんと機械の国の狂乱の姫君

第11話 閑話:デュラはんたちの首

 転生したらデュラハンだった。それはわかる。うん?

 けれども転生したらデュラハンの首だった、それはどうなのか。

 デュラハンってわかるかな。首を持った悪魔騎士。本当は妖精らしいけど、死を予告しに行く係。えっとそれで体の方のデュラハンが死ぬ人の家にいくわけよ、で俺があんた死ぬよって言うの。

 この仕事、めっちゃ鬱じゃね? しかも給料とか休みない。すげブラック。もともとブラック企業の社畜やっててトラックに轢かれて転生したのに、またブラックかよっていう。


 そんで毎日朝礼があってさ。みんな一列に並んで微動だにしなくて粛々と指示を受け取る。今日はどこどこの村に行って死を告げてこいっていう仕事が割り振られるの。最初はさ、そういうもんかと思って渋々行ってたわけ。そういう雰囲気だったしさ。

 でもある日凄く驚いた。デュラハンの一人が「やってられっか」って言ってボイコットして会社を飛び出した。


 目から鱗が落ちた。

 まじで? それアリなの? 職場が一瞬ざわめいた。それにもびっくりした。だってみんな目が死んでたからさ、誰も意思があるとは思ってなかった。ひょっとしたら俺もそう見えてたのかな。

 それで初めて同僚のデュラハンと相談した。そしたら意外にも、だいたいのデュラハンが転生組でしかも社畜のトラック転生っていう。神様の悪意を感じたね。精魂尽きた社畜を歯車にしようとしてるだろ。ざけんな。


 でも俺らはあの出てったデュラハンと違って体は動かせない。あいつ何なの、凄い羨ましい。

 なんとかなんないかって同僚と朝礼の時に話し合った。そもそも俺らは発声器官担当のただの歯車。だから駄弁ってても気にされずに、体は粛々と指示書を受け取る。それで俺らは反抗を試みることにした。体が指示したところに行っても何もしゃべらない。無視を決め込む。不服従運動という奴だ。それでも体は一定時間たったら会社に帰った。規則的だ。

 それで同僚と作ったネットワークで検証して分かったことだけど、結局死を告げなかったからって死なないわけじゃないみたい。デュラハンの体は上空を飛ぶけれど、頭は抱えられているだけだから、辺りを見回せる。で、死を告げなかった人でも葬式とかは結局行われてたから、俺たちの不服従にはあんまり効果がなさそうだ。もともと直接人を害するわけでもないし、仕事は体が俺っていう頭を運んで、頭の俺がただ告げるだけ。死ぬ原因を取り除かないと意味がない。でもサボった罰もなかったし、その時既に、もう誰も真面目に仕事しようとは思わなくなった。


 そうすると次はどのくらい抵抗できるかの検証を始める奴らが出る。つまり俺ら。俺はまず歌を歌ってみることにした。体が死ぬ人の家を訪れ、俺がアニソンを歌う。カオス。出て来た人は呆気にとられてたけど、それで何かが変わるわけでもなかった。次にややコミュ力がある奴が対話を試みた。一応死を告げるっていう役目柄、言語機能は搭載されていて、意思疎通ができる。俺たちは世界を巡って噂をかき集めた。そうすると政治情勢やら戦争状況、食糧事情や不穏なうわさとか、ありとあらゆる情報が集まった。

 どうやらこの世界は近々大きな戦争が起こるらしい。多分凄く人が死んで忙しくなる。俺らはそれを止めたいと思った。別にどっちの国がいいとか人道的にどうかいうつもりはない。でも転生者の価値観として、人が死ぬのはなんか嫌なんだ。みんなそう。死を告げる仕事自体にも嫌気がさしてる。

 変えられるなら変えたくない? みんなの心が1つになった。脳しかないけど。


 そしてとうとう、戦争が始まった。

「東の山裾に塁が築かれてて武器が大量に備蓄されています」

「北の川岸に兵糧があるので焼き討ちしてはどうでしょう」

「司令官は西1キロのところにある塹壕にいるから狙い撃ちしてみたら」

 1人当たりが話せる所要時間は約10分。その間に死を告げる予定の相手に死を回避するための情報を流す。なるべく人死にが出ないよう、武器・糧秣・司令官の居所の位置等を中心にピンポイントで継戦能力を奪うような方法で相手に伝える。

 仲間にMMORPGで指揮官をやってた奴がいた。オンラインで何百人ものプレイヤーに指示を出して動かす。伝言ゲームの要領ですれ違うデュラハンに指示を飛ばし、戦況をかく乱した。

 いつしか厭戦気分が戦場に漂い、戦争は両軍撤退という形で終了。

 結局のところ俺らの運動が効果があったのかはわからない。人死にはやっぱり出てるだろうし兵隊なんて兜をかぶってるから見分けがつかないよ。

 俺らの運動が神様の予定に織り込み済みだったのかもしれない、それなら運動しないともっと人が死んだ。織り込まれていなかった場合人の命が救えた。

 その事実に俺たちは満足して退職することにした。


 仲間の1人がある村の上で、最初に逃亡したデュラハンの姿を見かけた。湖畔でごろごろエンジョイしている。1人だけずるい。だからそいつの上を通った時、そいつめがけて落下することにした。

「わわっ。なんやねん」

「久しぶり、俺らも逃げてきた。頭だけだけど匿ってよ」

「ほんまに? しゃぁないなぁもう」

 頭だけになったけど、その村は何故かデュラハンに優しかった。俺らは無駄に前世知識があるからチートを始める。恩返しに村がよくなりますように。

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